2021年12月に明らかとなった、トヨタのバッテリーEV戦略。本発表のなかで公開された、開発中のトヨタ&レクサスブランドのバッテリーEV15車種は、コンパクトカーからフルサイズピックアップトラックに至るまでと、トヨタの本気がうかがえるものであった。
そのなかの、ひときわ目立つブルーボディの一台は、見覚えがあると感じた人は多いだろう。「Compact Cruiser EV」と名付けられたクロカンEV SUVは、かつての「FJクルーザー」の復刻版のようにも見える。販売終了から4年が経とうとしている、FJクルーザー。個性的なデザインで、復活を望む声も大きいモデルだが、バッテリーEVとなって復活するようだ。
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文:吉川賢一
写真:TOYOTA、ステランティス、GMC
[gallink]
あのお洒落な本格派がバッテリーEVとなって帰ってくる!!
ボクシーで無骨なボディ、立ち上がったフロントウィンドウ、ワイドな樹脂フェンダー、大型のフロントスキッドプレートなど、オフロードが似合うエクステリアの「コンパクトクルーザーEV」。ボンネットに空いたスリッドや、正方形のサイドミラー、そしてライトブルーのボディカラーなど、かつてのFJクルーザーを彷彿とさせるデザインだ。小型のランドクルーザーにも見えなくはないが、その名からも、FJクルーザーをオマージュしたバッテリーEVであることは確かだろう。
FJクルーザーは、トヨタのSUVのなかでも「遊び」にフォーカスを置いたユニークな一台。北米では2006年から、日本では2010年から販売されていたが、北米では2013年に、日本でも2018年に生産終了となっている。しかし、アウトドア人気の影響もあり、中古車オークションでは300万円超で取引される個体もあるほど、現在もファンの多いモデルだ。
「FJ」という名は、1960年に開発された40系ランドクルーザーの型式が由来。未舗装路や砂地、岩盤路などが多い北米では、休日のアクティビティのみならず、生活のための移動手段としても、オフロード性能は必須。FJクルーザーはそうした背景のもとで誕生した。
アメリカ人好みな4リッターV6の大型エンジンと、ランクルやプラドと同様の「ラダーフレームシャシー」を採用しており、チャラめの外見には似合わない本格的なつくりをもつ、FJクルーザー。バックドアに横開き式が採用されていたことや、ガラスハッチが装備されていたこともあり、荷室の使い勝手は悪くはなかったが、サイドドアが、Bピラーのない「観音開き」タイプで、後部ドアだけを開けることができず、少々不評であったようだ。
北米では2006年から、日本では2010年から販売されていたFJクルーザー。丸いヘッドライトと立ち上がったAピラー、そして3本のワイパーなど、古風ながらも個性的で丸みを帯びたデザインが特徴的
クロカンとバッテリーEVは相性がいい
クロカンとバッテリーEVの組み合わせ自体は、相性がいい。一般的なモノコックの乗用車の場合、床下に敷き詰めた駆動用バッテリーを事故の衝撃から守るため、バッテリーEVはガソリンモデルに対して強固なボディ剛性とする必要があるが、耐久性が高くて強固なラダーフレームの場合はその必要がないからだ。
重たいボディによる電費の悪さは気になるところだが、車重がある(電費は悪い)分は、大型のバッテリーを積めばよい。ボディサイズは十分に大きいので、大容量バッテリーを積むスペースも多くある。(今回のトヨタの発表の際)コンパクトクルーザーEVのとなりには、ピックアップEVコンセプトが並んでいたが、潤沢な充電インフラが用意されるならば、この手のクロカンEVやピックアップEVはアリだと思う。
2022年は、ピックアップ&クロカンEVが続々と
他の自動車メーカーも、続々と大型のクロカンEVや、ピックアップEVを開発中だ。テスラのサイバートラックは2022年より生産開始、GMもGMCブランドの「ハマーEVピックアップ」を開発中(2020年に発表済)だが、それよりも先に、シボレーブランドのピックアップトラック「シルバラード」に、ブランド初となるEVのグレードを設定する。フォードも、北米でベストセラーカーとなっているフォード「F-150」のEV版、「F-150ライトニング」を2022年から生産開始する。
また、ステランティスグループのJEEPも、バッテリーEVのコンセプトカー「マグニート(Magneto)」を2021年3月に発表している。ラングラーのボディをかぶせたクロカンEVとなる見込みで、モーターは最高出力285ps、最大トルク370Nm(37.6kgm)、これにエンジン搭載車と同じく6速MTを組み合わせている。
2020年10月、GMは「GMC」ブランドから、「ハマー」のバッテリーEVを開発中と発表。写真はピックアップトラックの「GMC HUMMER EV PICKUP」、ちなみにSUV版の「GMC HUMMER EV SUV」もある
課題はオフロード車ユーザーがバッテリーEVを選んでくれるか
このように、2022年は続々とクロカン&ピックアップEVが登場してくるが、現在クロカンやピックアップを乗っているユーザーが、長距離走れるとはいえないこれらのオフロードEVを選んでくれるのか、は未知数。
未舗装路が多く、生活移動のためにオフロード性能が求められるような地方に、充電設備が十分に整っているとは思えないし、ある程度手に入りやすく、チャージにかかる時間も短いガソリンエンジン車である方が、圧倒的に安心できる。その課題をトヨタがどうクリアしてくるのかは、楽しみなところだ。
トヨタは、ハイブリッド車もバッテリーEVも燃料電池も水素燃料エンジンも、カーボンニュートラルを目指して全部やる、と意気込んでいる。トヨタならば、きっとやり遂げてくれるだろう。トヨタの発表をうけて、他の国産メーカーがどう動いてくるか、今後もパワートレイン情勢からは目が離せない。
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