直感的な操縦性を備えるFRスポーツ
執筆:Matt Prior(マット・プライヤー)
【画像】傑作スポーツカー トヨタGT86(86)を写真でじっくり 初代BRZと新型GR86も 全107枚
撮影:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
2011年、フランクフルト・モーターショーのスバル・ブースに、シースルーに作られたフルサイズ・モデルが展示された。ドライブトレインが見える状態で。
それを見て、「今の市場で最も重心高の低い、後輪駆動のスポーツカーが誕生するでしょう」。とAUTOCARでは伝えた。期待は高かった。
同じ年の11月に、トヨタ・バージョンを筆者は試乗させてもらった。当時はまだ、トヨタFT-86と呼ばれるプロトタイプだった。量産仕様と名前は違っていても、その純粋さは、先のフルサイズ・モデルからイメージしたとおりだった。
「もしパワーを増やすならターボチャージャーが必要となり、大径のブレーキも求められます。結果として、重量も増えてしまう。それでは、負のスパイラルが生まれてしまうでしょう」。当時の筆者は、こう考察している。
トヨタ側の意見も同じようなものだった。「FT-86を開発するうえでの鍵は、直感的な操縦性を備える、フロントエンジン・リアドライブだということです。ドライバーが操れる楽しいクルマ。数字を中心にした開発という考え方は、排除しています」
「フロントエンジン・リアドライブのレイアウトには、自然吸気エンジンと低重心が必要です」。その効果は、感嘆させられるものだった。
2012年の夏、AUTOCARでは完成した初代トヨタGT86で詳細テストを実施。滅多にない満点の結果を獲得している。同じ年には、お手頃ドライバーズカー選手権でもトップの座を掴んだ。
少なさがより良い効果を生んでいた
年末恒例のクラスを超えた英国ベスト・ドライバーズカー(BBDC)選手権でも、GT86はすべてのライバルを破って優勝している。当然のように、2012年のAUTOCARカー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれている。
「煮詰められたパッケージングで、素晴らしい説得力です。少なさという特長が、より良い効果を生んでいます。これ以上のパワーは本当に必要でしょうか?」
確かに、もう少しパワーがあっても良かったかもしれない。しかし、GT86は速さだけを目的としたスポーツカーではない。ターボを載せたら、非の打ち所のないアクセルレスポンスを台無しにしてしまうだろう。
より広く上質で、静かな車内にも惹かれる。だがトヨタの技術者は、1kgも増やしたいとは考えていないと話していた。われわれが実際に計測したGT86の車重は、1235kgしかなかった。ガソリンが入った、すぐに走れる状態で。
2019年、GT86は交代が近いことを匂わせた。新しいトヨタGRスープラの開発が進められていた。開発車両の試乗会場へ、トヨタは比較対象としてGT86を持ち込んでいたのだった。
ところが筆者の印象に残ったのは、GT86の方だった。「軽さがもたらすアドバンテージを再確認できました。GT86のエンジンは少々ガサツですが、一生懸命回って、不足ないスピードを与えてくれます。繊細なステアリングの応答性も味わえます」
登場以来のお気に入りのモデル
「より重いスープラでは、得られていないものです。GT86のシャシーがいかに優れているのか、確かめることができました」。筆者はGRスープラも好きだ。でも、フロントの軽い4気筒仕様でも、GT86の備える身軽さには届かない。しかも価格も高い。
ここ10年ほど、トヨタGT86とスバルBRZに対するわれわれの評価は一貫していた。しかし、お別れの日が来た。英国のスバルはすでに、2020年にBRZの販売を止めている。トヨタのディーラーからも、2021年になって姿を消した。
登場以来、ずっと筆者の大のお気に入りモデルだった。沢山の素晴らしい体験もさせてくれた。
トヨタの社長、豊田章男氏へインタビューをお願いすると、レーシングスーツを着たまま応じてくれた時もあった。いかにも彼らしい。GT86の開発に当たって会計士と交わしたやり取りを、冗談交じりに話してくれたこともあった。
もしGT86が100万台売れたら、会計士とのより良い関係性を築けていたかもしれない。実際は、限られた生産台数で実現するために、技術者には多くの創造性が求められた。そのおかげか、近年のトヨタの業績はご存知のように調子が良い。
前置きが長くなったが、新型GR86の英国上陸も秒読み段階にある今、最後の初代GT86へ試乗してみたい。2017年にフェイスリフトを受けた後期仕様で、インテリアの質感が向上し、ボディへわずかに手が加えられている。
この続きは後編にて。
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