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イタリアではクルマが文化として受け継がれていることが伝わるカロッツェリアを訪ねる【第16回 ブランドーリ】

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イタリアではクルマが文化として受け継がれていることが伝わるカロッツェリアを訪ねる【第16回 ブランドーリ】

世界の名所を、クルマ好き男子がひとりで訪ね歩く旅。ちょっとマニアな視点で名所を切り取り、いつもの旅にクルマのエッセンスを加えたい人へ向けてレポート。第16回は、イタリアのクラシックカーを支えるカロッツェリアを訪ねる旅をご紹介。

モデナ近辺のカロッツェリアを訪ねる

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マラネッロにあるフェラーリのファクトリーといえば、レンゾ・ピアノが手掛けた風洞実験施設をはじめとして、いまやすっかり現代的な建物が多くなった。しかし、1980年代に入るまでは、フェラーリの多くの名車が自社の工場だけでなく、カロッツェリアの熟練工による手作業で生み出されてきた。

戦前から自動車産業が盛んだったモデナには、こうしたカロッツェリアが数多く存在しており、現在のクラシックカー市場を陰で支える存在となっている。

ここで紹介するカロッツェリア「ブランドーリ」は、モデナ中心部から南へ9kmほど離れたモンターレという小さな町に位置し、工房は工場が集まる一角の袋小路の先にある。

モンターレを貫いている幹線道路からゼンツォロゼ通りに折れると、少し大きめのラウンドアバウトが見えてくる。ラウンドアバウトの中央の緑の芝にはブルーに塗られた2本のレールの先に、イエローのワイヤーフレームのクラッシクカーのボディが乗っかっているのが見える。このラウンドアバウトが、ブランドーリへの入り口である。

スカリエッティで修行したブランドーリ

イタリアに数多く存在したカロッツェリアにも大小さまざまあり、1980年代以降、少々乱暴に大別するとカロッツェリアは2つの道を辿ることになる。ひとつはカーメーカーのデザインや少量ながらも量産車の生産を請け負い、ファクトリーを近代化し規模を拡大していったカロッツェリア。もうひとつが、規模は小さいながらも昔ながらの手工業を維持し続けたカロッツェリア。

前者はピニンファリーナや、2015年に倒産してしまったベルトーネなどを思い浮かべるといいだろう。そしてブランドーリは、後者にあてはまるカロッツェリアである。

ブランドーリを立ち上げたエジディオ氏は、13歳のときにあるカロッツェリアに弟子入りし、9年間の修行を積んだそうだ。トラックやバスなどの修理を行っていたカロッツェリアだったらしく、当時のトラックは座席などがまだ木製だったため、鈑金・塗装だけでなく木工も手掛けたという。様々な技術を習得できた9年間を過ごし、18カ月の徴兵期間を経て、24歳からスカリエッティで働くことになった。

当時スカリエッティは、フェラーリのオフィシャルボディショップであり、エジディオ氏は、1963年から1979年までスカリエッティで働く。セルジオ・スカリエッティ氏に技術の高さを認められていたエジディオ氏は、レストア部門を設立した際に、顧客サービス部門の責任者を務めることとなる。

このときに取り組んだのが、250GTO、250LM、275GTBなどといった、クラシックフェラーリでも超人気のあるモデルたちだ。さらに、ディノ206や246GT、365GTB/4デイトナ、365GT4 BB、308GTB/GTSなど、日本でもスーパーカーとして馴染みのあるモデルまでを手掛けていたという。

フェラーリがフィアット傘下になった1979年に、スカリエッティがフェラーリのオフィシャルボディショップではなくなり、エジディオ氏もスカリエッティを去ることになる。そして1980年にエジディオ氏は自身のボディショップであるカロッツェリア・ブランドーリを立ち上げたのだ。

現在ブランドーリには、長年スカリエッティで仕事をしていたときの経験とコネクションもあって、クラシックフェラーリのレストアの依頼が世界中から届いている。

クルマのレストアという文化事業

ブランドーリの工房は、東京下町にある鉄工所の匂いと空気感、それに木地師や指物師といった伝統工芸の工房の雰囲気がミックスした空間といったらいいだろうか。クラシックカーが作られたときと同じ工法でフレームを溶接し、ひたすら根気よくアルミパネルを叩いて、流麗なボディラインが生み出されていく。

現在ブランドーリでは、1台丸ごとのレストアから、パーツの製作まで幅広く請け負っている。当時と同じ素材の金属で、当時のままの姿を再現することを誇りとしているが、これはオリジナルパーツの型や治具が数多く保管されているからこそできることだ。

ヒストリックカーのオーナー個人からの依頼もあれば、モデナ周辺にある同業カロッツェリアやカーメーカーのヒストリック部門からの依頼もある。エジディオ氏は、実際に新車当時に自らが手掛けていたクルマやリペアを担当していたクルマをレストアしているわけで、いわばモデナのクラシックカーの生き証人なのだ。

訪れた時に手掛けていたマセラティのクラシックカーは、米国で一度レストアされた個体とのことだった。ただし、まったく違う別のグリルが取り付けられるなど、ひどい状態だったためにブランドーリに再レストアが依頼されたクルマとのこと。エジディオ氏は、「クルマのヒストリーを知らない人がレストアするのは、クルマにとっても悲劇」と語る。

グリルだけでなく、モールやバンパー、ボディパネルなどもすべて最初から作り直し、新車当時の姿を取り戻すとのことだった。

クラシックカーは、投機の対象にもなるが、絵画や彫刻などと同じく、文化的価値のあるものとしても扱われている。カロッツェリアでレストアを行う職人たちは、言うなれば絵画を始めとする美術品の修復師と同じような立場なのかもしれない。彼らの言葉の端々からは、仕事に対する誇りがよく伝わってくる。

ラグジュアリー・カー・メーカーは、次々と自社のヒストリックモデルを維持する部門を立ち上げている。フェラーリの「クラシケ」、ランボルギーニの「ポロストリコ」といった部門がそれだ。過去モデルにもメーカーがお墨付きを与えることで、さらに市場価値が高まるという効果がある。

こうしたこともあって、ブランドーリだけでなく、ここ数年、モデナ近辺のカロッツェリアはにわかに活気づいているようだ。彼らカロッツェリアが持つ技術と知識が、クラシケやポロストリコに活かされることで、零細カロッツェリアにも仕事が回ってくるからだ。いま、フェラーリやランボルギーニといったメーカーとカロッツェリアとの結びつきが、かつてとは違う形で強くなっているように感じる。

ブランドーリに話を戻そう。数年前に心臓のバイパス手術を受けたというエジディオ氏は、「いつまで仕事を続けられるかな」と笑っていたが、彼の知識や経験は、息子であるロベルト氏にすでに受け継がれている。ロベルト氏は18歳であった1984年から父であるエジディオ氏のもとで働きはじめ、鈑金やレストアの技術を習得、2001年からはそうした技術を用いて、新たに家具やオブジェを制作するアートワーク部門も立ち上げている。

ラウンドアバウトを飾っていたワイヤーフレームのオブジェも、そうしたロベルト氏の感性から生まれたものなのだろう。

モデナのカロッツェリアの技術は、確かに後世に受け継がれている。そして、新たな風がその技術に吹き込まれている。ブランドーリ父子の工房は、イタリアのクルマ文化の深さを教えてくれる場所だ。

Brandoli Egidio Srl
ブランドーリ エジディオ srl
Via Campania, 53/B
41051 Montale di Castelnuovo Rangone (Modena) – Italy
https://www.brandoli.it/en/

文・尾崎春雪 編集・iconic

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