<食>という芸術を追求する
第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した『ポトフ 美食家と料理人』。名優ジュリエット・ビノシュが天才料理人を演じる本作は、料理への情熱で強く結ばれた美食家と料理人の、食を芸術に高めた二人に心と味覚を揺さぶられる、トラン・アン・ユン監督の7年ぶりとなる最新作です。
『青いパパイヤの香り』(1993年)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール、『シクロ』(1995年)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞し、繊細な映像美で高く評価されてきたトラン・アン・ユン監督。前作から7年ぶりとなる本作は新たなるグルメ映画の金字塔として、カンヌ最優秀監督賞を受賞したほか、第96回アカデミー賞国際長編映画賞フランス代表に選出されています。
プロとして矜持を持って生きる天才料理人ウージェニーに扮するのは『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、『ショコラ』(2000年)で同賞主演女優賞にノミネートされたフランスの名優ジュリエット・ビノシュ。世界3大映画祭の賞をすべて獲得し、近年は是枝裕和監督の『真実』(2019年)にも出演しています。ウージェニーへの切なく揺れる想いを抱える美食家ドダンには、『ピアニスト』(2001年)でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞したブノワ・マジメル。ふたりは実に20年ぶりの共演となりました。
100年前のフランス“ベル・エポック時代”では新たな文化が繁栄し、“美食”もまた芸術のひとつとして追求されました。美食家と料理人という“職”に目をつけた監督は<食>という芸術を追求するため、調理過程を1台のカメラで撮影。劇伴を使うことなく、魚や肉を焼いたり煮たりする美味なる音を音響効果とし、自然光をメインの照明とするなど、ひとつひとつの素材が“究極のひと皿”へと進化を遂げる様子をスクリーンに描き出しました。
スクリーンを埋め尽くす料理の数々は、ミシュラン三つ星シェフのピエール・ガニェールが完全監修。その前衛的かつ独創性と芸術性に満ちた料理から「厨房のピカソ」と称えられるガニェールは、映像になった時の見栄えを確認するため撮影前に登場するすべての料理を試作。さらに、ピエール本人が劇中にシェフ役として登場しています。
さて、ジュリエット・ビノシュといえば『Telle mère, telle fille』(2017年:原題)で乗っていた、目が痛いほどのピンク色かつステッカーでデコられたベスパのLX125が印象的でした。また、代表作の一つ『イングリッシュ・ペイシェント』では、ナヴィーン・アンドリュース演じるキップが運転するBSAのM20の後部座席に乗るシーンも有名です。
『ポトフ 美食家と料理人』は2023年12月15日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開です。
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