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レーシング・ディレクターが語るマクラーレンの2021年型F1マシンへの適応が難しいとされるワケ

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レーシング・ディレクターが語るマクラーレンの2021年型F1マシンへの適応が難しいとされるワケ

 一時大きく低迷したマクラーレンにとっては、フェラーリとコンストラクターズランキング3位を昨年に続いて争う2021年シーズンは大きな励みになっていることだろう。

 しかしその争いは熾烈を極めている。シーズン前半戦を締めくくる第11戦ハンガリーGPでは、マクラーレンの2台がクラッシュに巻き込まれるなどして無得点に終わる中、フェラーリはカルロス・サインツJr.がセバスチャン・ベッテル(アストンマーチン)の失格もあり3位表彰台を獲得することになった。

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 現在、コンストラクターズランキングではマクラーレンとフェラーリが共に163ポイントと数字上では並んでいるが、2度に渡り2位表彰台を獲得しているフェラーリが、ランキングでは先行している。

 昨シーズン11レースを終えた時点では、マクラーレンが116ポイント、低迷したフェラーリは80ポイントに留まっていたことと比較すると、今シーズンのここまでの獲得ポイントは、両チームの進歩を物語っている。

 第12戦ベルギーGPから始まる2021年シーズン後半戦は、「レッドブル・ホンダvsメルセデス」のタイトル争いはもちろん、「マクラーレンvsフェラーリ」のランキング3位争いにも目が離せない。そしてこれらふたつの争いがどのような結末を迎えるかは、シーズンが終わってみなければ分からない。

 ただひとつ明らかなことは、マクラーレンが2年連続でランキング3位を獲得するためには、ダニエル・リカルドが好調ランド・ノリスをサポートし、さらに後半戦で安定した好成績を残すことが不可欠だということだ。

 ホンダ製パワーユニットを搭載していた最終年である2017年シーズン、マクラーレンはランキング9位に終わった。しかしルノー製PUに切り替えた2018年は6位、2019年は4位、そして2020年は3位と、マクラーレンは上昇気流に乗っている。そしてPUがメルセデス製となった今季、ここまで既に3度表彰台へ上がっているノリスの活躍は、昨年よりも多くのポイントを稼ぐ今季のマクラーレンの躍進を象徴している。

 そのマクラーレンの追い風となっているのが、2015年にフェラーリから移籍し、レース全体の指揮を執るレーシング・ディレクターへ就任したアンドレア・ステラの存在だ。メディアへの露出が少ないイタリア人のステラだが、話をすると常に正直でいてかつ興味をそそるマクラーレンF1チームの舞台裏を語ってくれる。

「3位になるというのは、素晴らしい功績だ」と彼は言う。

「レーシングポイントと争うなど、去年は驚きの1年だった」

「そして今年も同様に、フェラーリと(3位を)争っている。彼らも素晴らしいチームであり、我々はとても尊敬している。3位になれるかどうかは、現実的には分からない。でも今シーズンは、3位になるために必要なレースごとのポイントの獲得率がとても高いんだ」

「(ハンガリーGPまでは)レースごとに平均して16ポイントずつ獲得できている。しかし現実的に(3位獲得は)かなり野心的なことだ」

 言うまでもなく、マクラーレンはレースでの勝利やタイトル獲得を目指しており、3位に甘んじることに満足してはいないだろう。先行するトップ2チームとの差は確実に縮まってきており、今シーズンはノリスが、その2チームのドライバーと張り合うシーンも何度か見受けられた。

「我々も少し驚かされた。いくつかのレースでは、メルセデスやレッドブル・ホンダと競い合うことができたと言わざるを得ない」とステラはトップとの差が小さくなってきていることを認める。

「オーストリアでの2レース目のように、我々は純粋なスピードでポールポジションに近づけたし、レースでも本当に速かった。通常ならレッドブル・ホンダとメルセデスが中団グループ以降との差を開いていくのにね」

 昨シーズンから今シーズン開幕までの間に、マクラーレンはマシンへ搭載するPUをルノー製からメルセデス製へスイッチ。加えて、FIAによるダウンフォースを減らすためのレギュレーション変更にもうまく適応したチームの頑張りに、ステラは満足している。

「テクニカルレギュレーションの変更に適応し、昨年と比べてもマシンが向上していることは明らかだ」とステラは語る。

「幾何学的には大きな変化に見えなくても、全体的なダウンフォースの減少という点では、実際かなり大きな影響があった」

「だから、失われたダウンフォースを取り戻すために昨年はやらなければならないことが沢山あった。我々がそれをクリアできたという点については、比較的満足している」

「2021年マシンは、まずテクニカルレギュレーションの変更によって失われたモノをできるだけ取り戻すところから始めた」

「そこからすぐに気が付いたのだが、そこ(ダウンフォース量の回復)に取り組み、ある程度の空力効率に達するとマシンにクセが出てきたのだ。そのため、少し特殊な運転がドライバーに求められる」

「ある意味、これはダニエルの現状から見て取れることだ」

 ステラが触れたように、今季からチームに加入したリカルドがMCL35Mへの適応に苦しんでいることも、今シーズンの話題のひとつだ。

 チームメイトのペースから遅れ、マシンが自分のスタイルに合っていないと話すドライバーは、懐疑的に捉えられることが多い。しかし、マクラーレンとしてもリカルドが苦戦する理由を理解しており、彼の窮状に同情しているという。

「どのようにF1マシンを操るかという点においては、彼は正反対にいた」とステラは言う。

「我々のマシンには特殊な適応が必要だとでも言うべきかな」

「我々のマシンが、例えば高速コーナーで強いというのは周知の事実だと思う。しかし、低速コーナーではベストなマシンとは言えないかもしれない」

「そのため、自然な運転ができるように我々はマシンのクセを調整しているが、同時に最も肝心な空力効率も向上させている」

「バランスやマシン性能という点で必ずしも改善できなくても、空力効率の向上には常に注力してきた」

「繰り返しにはなるが、シーズン序盤で空力効率の向上を果たせたので、比較的満足している。次のレースではもう少し改善できることを期待している」

 ステラは、リカルドの苦戦についてこうコメントした。

「彼は、コーナーでスピードを生かす走りを好むドライバーだ。我々のマシンが要求するような常に攻めたブレーキングではなくてね」

「我々はとても早くから、全速度域でスピードを向上しようとした際にどのような問題が出るかを理解していたと思う」

「そう理解していたことで、ある意味この点をモデルケースにすることができた。つまり、シミュレーター作業やドライバーへのアドバイスの面で、何をすべきか分かるようになったのだ」

「我々はこの点に取り組んでいるし、理解もしている。しかし、F1ではレースごとに必ずしも前進できるというワケではないのだ」

 シーズン前/シーズン中のテスト不足に加え、今季から金曜日のフリー走行の時間が30分短縮されたことがリカルドの適応を阻害しているとステラは指摘する。日曜日のレースという目標がある以上、週末の短いセッションの中では、自分のドライビングをマシンに適応させることだけに集中する機会が少ないのだ。

「時々、私はミュージシャンに例えるのだ」とステラは言う。

「ギターの弾き方は教えてもらったり、様々な理論を学んだりすることはできるが、ある段階に達したらギターと沢山の時間を過ごして、沢山練習をしなければならないのだ」

「必ずしもコンサートに足を踏み入れる必要はない。なぜなら、進歩のほとんどは家で時間をかけて練習した時に得られるものだからね」

「現代のF1では練習すること自体が容易ではないという側面がある。2021年の冬季テストは最小限になり、金曜日のフリー走行は計1時間短縮された」

「しかし、それはレースへ向けた練習だ。マシンへ適応したり、現代のF1ドライバーが信じられないほど高次元で運転できるレベルでマシンを理解し、身体に覚え込ませる場ではないのだ」

「ただ、この仕事に関わってきた私からすると、現代のF1ドライバーのレベルはとても高いと言わざるを得ない。とても高いレベルで運転できるドライバーの数は、これまでと比べてもかなり多い」

 では、なぜチームはリカルドの要求に合わせてマシンセッティングを変更するのではなく、リカルド自身がマシンに適応することに焦点を当てているのだろうか?

「F1マシンというモノはある種、市販車とはかけ離れた存在だ」とステラは言う。

「ほとんどのマシン性能は、空力的な出来によって左右される」

「サスペンションやその他のメカニカルパーツについての作業を行なったとしても、それらは多くの場合、様々な姿勢においてマシンの空力効率を補ったり、あるいは統合させたりするためのものだ。その姿勢とは、フロントやリヤの車高、それからヨー角(マシンを上下に貫くZ軸を中心とした回転モーメント)やロール角(マシンを前後に貫くX軸を中心とした回転モーメント)などのことだ」

「直線で強いマシンが、ヨー、つまり回転の力が加わると弱くなるのはこのためだ」

「空力について語る際は常に、このような答えに帰結することができるのだ。しかし空力の効果を発揮させるためには、気流の構造がしっかりと確立しておく必要がなる。そのため、これらを微調整することはとても難しい」

「これらの構造をマシンに統合し、現代のF1マシンレベルの空力効率を達成するには、何ヵ月も、あるいは何年もかけて開発を行なう必要がある。過去のどのF1マシンにも見られなかった、驚くべきモノだよ」

「マシンの特性が一度出来上がってしまうと、それらを変えることは難しい。そうなれば、機械的な面で変更した方が楽になる。しかし2021年シーズンは、ホモロゲーションによってそうした面もある程度制限されている。どちらかと言えば、行き詰まっていると言える」

「だからこそ、ドライバーに多くが要求されるのだ。それが解決のための手段であり、手っ取り早い……しかし正しい方法で運転する必要がある。今のところ、我々にできることはあまり無いんだ」

「空力効率を向上させることはできても、ドライビングスタイルに合わせてマシン特性を求められた通りに修正することは、遥かに困難だ」

 何シーズンにも渡ってマクラーレンはドライバーに頼る方法を貫いて来たのだろうか? こうした疑問はチーム内からも上がっているとステラは認める。

「我々は頭を悩ませていた。こうしたマシン特性はどれほど昔からあったのか? どれくらいのマシン特性ができあがってしまったのか? などとね」

「私は空力の話ばかりをしているが、そこから実際にダウンフォースが生まれるのだ。そして、(マシン特性に悩まされ始めたのは)実際今シーズンより数シーズン前に遡ると思う」

「だからダウンフォースをどのように発生させるかという点では、ある意味今年のマシンに限らず、マクラーレンの特徴と言える。今年のマシンは昨年のマシンの兄弟であり、その関係性はかなり近い」

「そのような意味では、マシンを速くする方法論も同じであるはずだ。みんなも同意してくれることだと思うが、いくつかのマシン特性も同じだと言えるね」

「(2022年に)テクニカルレギュレーションが劇的に変わるから、これらのマシン特性についてとやかく言いたくはない。こうしたマシン特性はかなり根深いモノだし、マクラーレンとしても将来的に改善したいという明確な目標としている。この問題は、我々の(マシンを作る)方法論的な側面に関係しているかもしれないからね」

「2021年のマシンだけでなく、もっと広範囲で影響を及ぼしている。しかし、この問題は一般的に、全チームがアクセス可能なGPSオーバーレイ(マシンの走行位置データをトラックマップに重ねたもの)を見れば不思議なことではないと分かる」

「例えば、コーナーでラップタイムを稼ぐマシンもあれば、ストレートエンドのブレーキングでラップタイムを稼ぐマシンもある」

「ふたつのマシン特性は、それぞれ大きく異なる。ブレーキングでは、ストレートでの要素がより重要になる。しかし、ハンガリーのターン2などといった長いコーナーを周る時には、マシンに横向きの力が加わる時間がとても長い」

「マシン開発の立場からすると、このふたつのマシン特性を兼ね備えたマシン(セッティング)をF1で探し出すのは、常に難しいことだ」

「通常、双方に秀でたマシンを手に入れるということは、トップを狙うことができるマシンを2台手にしたことを意味するのだ」

 またステラは、マシンの強みを両立させるという課題はマクラーレンに限ったことではないと強調する。

「私がフェラーリにいた頃の話になるが、マシンに今と同じような特性があったシーズンが存在したと思う」

「各コーナーで速いマシンでありながら、直線や高速区間でも良い特性を維持できるという絶妙なブレンドを見つけ出すのは、いつも難しいことなのだ」

「逆に言えば、直線や高速区間にマシンセッティングを集中させると、コーナーの途中で空力を効かせ続けることが少し難しくなる。これはとても典型的なことで、マクラーレンに限った話ではない」

「マクラーレンの特徴は、この典型的なふたつのマシン特性のうち一方に偏っていることだ」

 チームにとって、リカルドの苦戦は予想外の試練かもしれないが、ステラは彼の存在がチームにポジティブな影響を多く与えていると語った。

「(リカルドが)一歩一歩、前へ進んでいることは分かっている」と彼は言う。

「ダニエルのレース運びも見ているが、とても完成度が高い。どちらかと言えば、今の我々に必要なことは、あとほんの少しのスピードだけだ」

「しかし、スタートやレースを把握する力、速いマシンを抑え込む方法など、カルロス(サインツJr./フェラーリ)との(イギリスGPでの)バトルを考えても、彼はレースではとても強力だ」

「そして、彼のレースに対する姿勢だ。彼はとても前向きで、我々が目にしているモノと外側から分かるダニエルの姿は全く同じモノだ。つまり我々が望んでいた速さを出せなくても、彼の心は強く、モチベーションもとても高いのだ」

「そして理由はわからないが、我々は(彼との)旅を楽しみ続けられている。最後のコンマ1秒を削れないドライバーであっても、チーム全体にとって一緒に仕事をするのが楽しいドライバーであるとでも言うべきかな。私の経験上そうである必要はないがね」

「しかし、ダニエルの場合はそうなのだ。だから、私は未来に対してとても楽観的でいられるのだ」

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