空力に取り組み続けた飛行機から多くの理論が転用された
市販自動車のメカニズム進化に目を向けると、本来市販車のために考えられたメカニズムではなく、他領域からの導入技術だったという例がいくつかあることに気付く。
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いくつかこうした例を振り返ってみることにしたが、それらには大きな特徴があることに着目したい。と言うのは、その技術が実用化された背景には、必要に迫られて、という差し迫った事情があり、市販自動車への応用は、その技術を用いることで性能の引き上げが容易に行えるという利点があったからだ。そして、そのほとんどは、市販自動車より求められる性能次元が高いカテゴリーからの応用となっている。
さて、陸上を走る自動車より高い技術次元の乗り物は何か、と考えた場合、素直に飛行機の存在を思い浮かべるのではないだろうか。
自動車より歴史の浅い飛行機だが、自動車と較べて移動速度が速く、その分だけ空気抵抗との戦いが深刻な乗り物だった。別の言い方をすれば、空気力学(エアロダイナミクス)は、飛行機が誕生直後から直面し続けてきた問題であり、いかに効率よく、いかに効果的に空気の流れに対処するかが進化の過程だった、と見ることができるだろう。
市販自動車が本格的に高速化するのは、戦後1950年代に入ってからのことだが、すでに高速になるほど空気抵抗は大きくなり(空気抵抗は速度の2乗に比例する)、いかに抵抗を低く抑えるかが自動車デザインのポイントと考えられていた。戦前の流線形(ストリームライナー)は、すでにこうした考えに基づくデザインだったが、戦後になると流線形によって空気抵抗を下げると同時に、空気流による車体の浮き上がり(リフト)が新たな問題として浮上してきた。
このリフトの問題を抑えるため、フロントスポイラー、カナード、リヤウイングなどのパーツが考えられたわけだが、これらの原型は航空機の翼にあり、自動車への応用は速度域が高いレーシングカーが先だった。初のウイング装着車は1966年のチャパラル2E(グループ7カー、CAN-AM用)で1968年にはF1界に普及。市販車への応用は、形状を変えてポルシェ911カレラ2.7RS(1973年)が本格採用の発端となり、翼形状のリヤウイングもリヤダウンフォースを得るもっとも一般的な手法として、1980年代後半から1990年代にかけての市販高性能車(とくにグループAユースを見越した量産車)で装備された。
さらに、空力の解析が進むと、空気抵抗を減らすためには、意図的に乱流を生じさせると効果的だということが分かってくる。流線形はスムースに空気を流す形状として考えられたが、結果的に境界層剥離を生みだし、これが空気抵抗を悪化させる要因として作用した。空気抵抗全体を軽減するには、境界層剥離を小さく抑えればよく、小さな乱流を発生させることが効果的な手法だと突き止められた。この小さな乱流発生パーツとして考案されたのがボルテックス・ジェネレーターだ。現在は、手軽に利用できるエアロパーツとして市販されているが、もともとは飛行機の翼で使われた技術で、亜音速域で飛ぶ軽飛行機、グライダーなどで採用されてきた空力の歴史がある。
ターボチャージャーの普及も飛行機から始まった
限られたエンジン排気量で出力を引き出すために使われる過給機も、本格的な普及は航空機が原点だった。空気密度が低い高高度を飛ぶレシプロエンジン機にとって、過給機によって吸入気を圧縮し、エンジン出力を確保する技術は死活問題だった。当初は機械式過給機(スーパーチャージャー)も導入されたが、吸入気圧縮の動力をエンジン出力に頼るため損失が大きく、排気流によってコンプレッサーを駆動する効率的に優れたターボチャージーに切り替わっていった。時期的には第2次世界大戦中で軍用機が主体だった。
こうして航空機で培われたターボチャージャーが、自動車の世界で着目されたのは、やはりモーターレーシングが先だった。排気流を利用するターボチャージャーは、エンジン回転の上下動に対し、ターボユニットの過給追従(回転上昇)が間に合わず、アクセルを踏んでからエンジンが反応するまでにタイムラグ(時間遅れ)が生じ、コントロール性が悪くなる悪癖を持っていた。このためターボチャージャーは、当初、定常的な機関運転が行われる航空機で使われ、ほぼ一定のアクセル開度で走るオーバルトラックレースのインディフォーミュラで導入される足取りを見せていた。
アクセル開度が頻繁に変化するサーキットレースでターボチャージャーの実用化に取り組んだのがポルシェで、CAN-AM用のポルシェ917ターボで試行錯誤を繰り返しながらシステムを熟成。この技術を市販車に応用したモデルがポルシェ911ターボ(930)だったが、市販化はBMW2002ターボのほうが早かった。日本では1970年代終盤、日産が430セドリック/グロリアで採用を始め、ターボチャージャーを一般的なメカニズムとして普及させる口火となっていた。
ほかにエンジン関連のメカニズムで言えば、燃料噴射装置も航空機技術からの応用である。ほぼ2次元の動きしかしない自動車では、燃料供給装置はキャブレターで必要十分だったが、3次元の動きをする航空機(とくに戦闘機)では、フロート室の存在が致命的となり、急上昇や背面飛行によって燃料の供給切れが発生。このため、ポンプによって燃料をシリンダー内に圧送供給できる燃料噴射装置を考案、航空機エンジンの燃料供給装置として実用化した。最初に出かけたのはダイムラー・ベンツで、同社のDB600系航空機エンジンがその代表的な例となる。
この燃料噴射装置を自動車に応用したのもダイムラー・ベンツで、メルセデス・ベンツのレースカー中でも傑作と評されるW196(1955年)がその手始めだった(試験的な例としては1939年のW163も燃料噴射装置を装備)。市販車への装着は1970年代から高性能車で順次展開され、1970年代終盤になると機械式から電子制御式へと代わり、緻密な噴射コントロールが可能となったことから、排ガス浄化や省燃費に対して欠くことのできないメカニズムとして現在にいたっている。
操作系の動きをいったん電気信号に置き換えて可動部に送り、そこで油圧、モーターなどを作動させるバイ・ワイヤ方式(電制スロットルなど)も、言うまでもなく航空技術からの応用である。飛行機の場合、とくに旅客機のようにパイロットの操作によって可動させる各機能部が人力に余るケースでは、操縦桿やラダーペダルの動きを油圧が増幅し、パワーアシストの考え方で操作系を成立させてきたが、自動操縦(オートパイロット)の進化にともない、操作系に加わるパイロットの動きをすべて電気信号に置き換え、その信号によって可動部に設けられたモーターやアクチュエーターを作動させるフライ・バイ・ワイヤの方式が発達。パイロットによる操作信号も含め、機体各部の情報をすべてコンピュータに入力。そこから各部に必要かつ適切な作動信号を送って機体を飛ばす技術である。
自動車の場合は、陸上を走ることからドライブ・バイ・ワイヤと呼ばれ、アクセル操作や変速操作を電気信号に置き換え(理論的にはステアリング操作も可能)、実際の動きはモーターや油圧アクチュエーターが行う方式として構築されている。この方式は、すべての動きをコンピュータの制御下におくことで反応速度や精度に優れ、自動運転システムの成立に対して必要不可欠な技術となっている。
今や標準装備、常識とされるディスクブレーキも、じつは航空機がその発祥となるメカニズムだ。航空機発展の歴史は、言い換えれば高速化への挑戦とも言える足取りだが、飛行速度の高速化にともない、着陸時の速度をどうやって減速させるかも大きな問題となっていた。放熱性(ブレーキの原理は運動エネルギーを熱エネルギーに変換して大気中に放散)に優れるブレーキの装備が必要不可欠となり、高速域からの制動性に優れたディスクブレーキが実用化されるようになった歴史がある。
自動車への応用は、じつは1949年にクライスラー社が全輪ディスクブレーキを装着したクルマを発表していたが、商業的に成功せず不発に終わっていた。自動車に装着してその性能の高さを示した最初の例が1952年のジャガーCタイプで、翌1953年のル・マン24時間でフェラーリ、メルセデス・ベンツを相手に圧勝。一気にディスクブレーキの存在を印象付けていた。市販車で普及するのは1960年代中盤あたりからで、スポーツタイプ、高性能車のフロントブレーキとして装備されるようになった歴史がある。
レースシーンで磨かれた技術の代表格はDOHCとDCTだ
航空機ではなく、レーシングカーからの応用メカニズムとして画期的な内容を持っているのがDOHC方式とツインクラッチトランスミッション(DCT)だ。DOHCはレースの発展とともに考案されたメカニズムで、高出力を得るにはどうすればよいか、というのがその原点だった。
1890年代に始まったモーターレーシングは、ライバルに対する絶対的な優位を得るため、エンジン排気量の引き上げによる高出力化が絶え間なく繰り返されてきた。世界初のグランプリは1906年のフランスGPだったが、このとき優勝したルノーのエンジン排気量は12.8リッター、翌1907年の優勝車となったフィアットは15リッターというとほうもない大きさだった。もっとも、当時はそれがふつうの大きさという認識だったが、1912年、5年ぶりに開催されたフランスGPで優勝したプジョーのエンジンは7.6リッターだった。それまでの約半分の排気量で優勝できた理由は、高回転高出力を可能にしたDOHC方式を採用したことにあった。
市販車への応用は、1960年代からスポーツモデルで意識的に使われるようになり、1980年代に入って高効率化が求められる時代になると、普及価格帯の乗用車にもDOHC方式が採用されるようになっていた。DOHC方式は、高回転高出力化に向くだけでなく、理想的な燃焼室形状の採用が可能なことから燃焼効率の向上が可能で、省燃費、排ガスの浄化にとっても有効な方式と受け止められるようになっていた。
トランスミッションの変速ギヤを奇数段と偶数段に分けて2本のシャフトに配置、それぞれの先端に入力断続用のクラッチを設け、ドライバーの操作によって瞬時にギアが切り替わるDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)は、現在では高性能スポーツカーの標準システムと考えられているが、このDCTもルーツをたどるとレーシングカーに行き当たる。1987年にポルシェAGがグループCカー962でトライしたPDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)がその発端である。
シフトレバーとクラッチペダルを操作する通常のMT方式より、シフト信号によって機械的にギヤを切り替えるPDKは、変速に要する時間が半分以下(0.2秒前後)ですみ、クラッチ断続による空走時間が短くなることから、レーシングカーを速く走らせるにきわめて有効なシステムと理解されていたが、システム重量が通常のMTより100kgほど重くなることから、レーシンクガーでの継続採用はいったん見送られるいきさつがあった。
しかし、しばらくの開発期間を経ることで、システムの軽量コンパクト化が可能となり、2003年にVW/アウディの共同開発によるDSG(ダイレクト・シフト・ギアボックス)がゴルフ(R32)に搭載された例が市販化の第1号となっている。
現在では、市販車で何の違和感もなく採用されるシステムの数々だが、その歴史を振り返ると必要に迫られ誕生、実用化したものが多く、そのルーツが量産車ではなく、より高い技術水準が求められるレーシングカー、あるいは航空機だったことがおわかりいただけただろうか。
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