愛知県新城市で開催された全日本ラリー選手権の第2戦「新城ラリー2021」は、SUBAR WRX STIの新井敏弘/田中直哉(富士スバルAMS WRX STI)が優勝、2位に息子の新井大輝(ひろき)/小坂典嵩(ADVAN KYB AMS WRX)、3位にシュコダ・ファビアR5の福永修/齊田美早子(アサヒ☆カナックOSAMU555ファビア)が入った。レグ1(Day1)まで首位の鎌田卓麻/松本優一(itzz DL SYMS WRX STI)はSS6でクラッシュしリタイヤとなった。
無観客で開催
2021年シーズンの全日本ラリー選手権はお伝えしているように、例年とはエントラントの顔ぶれが大きく変わり、見る側からすると楽しみが増えたシーズンだ。長年スバルWRX STIとランサーの戦いが繰り広げられてきたが、今季からGRヤリスがトップカテゴリーのJN1クラスに正式デビューし、さらにR5規定の車両シュコダ・ファビアが2台参戦している。
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迎え撃つディフェンディングチャンピオン新井大輝のスバルWRX STI、おなじくWRX STIで参戦する新井敏弘、鎌田卓麻、そしてトヨタへ移籍した勝田範彦のGRヤリス、ランサー使いだった奴田原文雄もGRヤリス、そしてファビアR5との戦いが注目されるシーズンとなった。
今季の新城ラリー2021は、コロナ禍の影響を受け、無観客開催に加えSS(スペシャルステージ)は、Funatsuki(舟着)、Onikubo(鬼久保)、Gampo(雁峰)の3箇所にしぼられ、合計8本のSSでタイム計測に縮小されて行なわれた。
Day1
レグ1(Day1)はFunatsukiコースとOnikuboコースをそれぞれ2回走行、合計4本のタイム計測が行なわれた。天候は快晴で汗ばむほど。初夏を思わせる晴天だった。
スタート前にはSTIの平岡社長が選手の激励に訪れ、そしてガズーレーシングには、エグゼクティブ・フェローの友山茂樹氏も応援に駆けつけるなど、メーカーの力の入れ方も今季は違っていた。
そうした中、FIA規定ではクラスが2クラス上位になるファビアR5の速さが警戒ポイントとなるが、新井大輝選手は「まともに走れば歯は立たない。R5の速さは自分もシトロエンで走ってるからよく知っている」と話す。
一方、GRヤリスでエースとなった勝田範彦選手は「ずっと長い間インプレッサ、WRXで走ってきたので4WDのポテンシャルの高さが身に染みています。ヤリスもいいところはあるんですけど、自分がまだ慣れてないというのがあります。また4WDの制御はスバルはずっと変わってないし、乗ればすぐ、スバルだなぁって感じるものがありますけど、GRヤリスはそうした意味では、新しい4WDの機構なので熟成は必要ですね。自分は、新城に向けて、自分の乗りやすい方向にしてきたんでんですが、眞貝クンはまた違った方向の制御にしているようです。ドライバーによっても好みが違っているというですね。ですので、まだ完璧な仕上がりとは言えませんが、本番始まれば全力で勝ちにいきます」とコメントしている。
周辺からはGRヤリスは速い!と警戒され、車重もWRX STIより約200kg軽い。パワーが同程度の290psと予想されているので、パワーウエイトレシオを考えれば圧倒的にGRヤリスが有利だ。さらにレースで勝つために誕生したGRヤリスだけに、純正部品のレベルがレースの方向を向いたパーツが多い。そうしたメリットがあるだけに、GRヤリス優位というのは間違いない見方だ。
一方、鎌田卓麻は「大輝君がデビューしたときもそうですけど、速い選手が出てくるとそれに刺激されて、僕たちも速くなっていきますよね。もちろんファビアは有利だしGRヤリスも速いですけど、ドライバーのテクニックは切磋琢磨でき、レベルアップができると思いますので、こうした車両の参戦は歓迎です」と話す。
Onikuboでの差は歴然
そうした中、SS1FunautsukiではファビアR5の福永修がトップタイムをマークし1位。2位に鎌田、3位新井敏弘となるが、その差は0.2秒内に3台という僅差。4位は新井大輝で、もう一台のファビアR5の柳澤は5位と出遅れた。しかし注目のGRヤリスはリザルトに上がってこない。
SS1スタート直後、約1km地点で勝田のGRヤリスはマシントラブルで止まっていた。もう一台の眞貝選手も同様にSS1で姿を消してしまった。勝田は「原因はわからないので、下山へ持っていって検証するようです」と言葉少ない。目撃したカメラマンからは、エンジンルームから煙が出て火も少し見えた、というからエンジン補器と燃料系が原因かもしれないが、眞貝選手も同様のトラブルによるリタイヤというのは気になる。
続くSS2はハイスピードのOnikubo。GRヤリスはいなくなり、ファビア2台とWRX STI3台との戦いになる。このOnikuboは11月に開催予定のWRCジャパンでもこのコースが設定されているので注目ポイントだ。
Onikuboはハイスピードなコース設定だけに、2クラス上のファビアR5の本領が発揮され、JN1トップが福永、2位柳澤とファビアが独占。3位に鎌田、4位新井敏弘、5位新井大輝という順になった。この時3位鎌田はトップ福永に8.2秒の差をつけられている。レース前、選手たちは「ファビアには1kmあたり2秒の差はつけられる」と話しており、SS2が8.86kmあるので、16秒以上の差がつくと予測している。
それを踏まえると、総合で2位につける鎌田卓麻は「もともとR5は速いのはわかっていたんですが、思っていたより接戦になりましたね。でも高速のセクションではこれだけ離されてしまうので、クラスが違うことは実感します。SS2はタイヤのグリップが薄いので、これからセッティングを変えて午後のSSに向かいます」と話す。ファビアR5の速さを目の当たりにした感想だ。
一方、新井大輝選手は、エンジンの調子がいまイチということで、コンピュータのデータをしきりに見ている。過給圧もフルにかからず、トルクも出ていない時があるという。
SS2終了時点のトータルタイムは、1位ファビア福永10分04秒0、2位は鎌田WRX STIで差は8.3秒、3位WRX STI新井敏弘でトップと9.4秒差、4位ファビア柳澤、5位WRX STI新井大輝12.9秒差となった。
逆転トップはWRX STIの鎌田卓麻
各車サービスに戻りセッティングを変更。午後のSS3Funatsuki、SS4Onikuboに向けて調整をする。新井敏弘選手は「タイヤのグリップが薄いので、調子悪いね。今、サスペンションを柔らかくして午後は走ります。ファビアはSS1本で10秒離されるから、今回それが4本あるので40秒離される。ちょっと無理だよね。もともとわかってたけど」と。
SS3Funatsukiはやはり福永のファビアがトップタイム。2位に鎌田、3位に大輝が入る。大輝はタービンの調子がもどったのか、順位を上げてきた。がJN1クラス3位でトップとは15秒32とジワリと差が開く。
つづくSS4は再びハイスピードのOnikuboだ。ここでは柳澤のファビアがトップを奪うも前半のタイムが響き総合では2位。一方このSS4でも鎌田は調子よく、柳澤にわずか1.7秒差で2位フィニッシュとなったが、総合順位では逆転し、1位を獲得してレグ1を終えることになった。
初日を終えて1位は鎌田WRX STI20分23秒2。2位ファビア柳澤で3.6秒差、3位新井敏弘WRX STIでトップと4.9秒差、そして4位に新井大輝WRX STIで11.9秒差、5位ファビア福永19.5秒差となった。
またこれまでトップを快走していた福永のファビアR5は右リヤタイヤがパンクするトラブルに見舞われ、リヤをヒットするダメージを負ってしまった。そのため総合23位と大きく順位を落とした。とはいえWRX STIにとってライバルはファビアR5で間違いなく、順位を落としているが、レグ2(Day2)には再びハイスピードのOnikuboが設定されている。そのため苦しい状況は変わらない。
Day2
レグ2(Day2)は天気が大きく崩れ大雨になった。各チームとも前日に雨用のセットアップに変更し、ダンパー、スプリング、そしてタイヤを交換して望む2日目となった。
SS5はGampo(雁峰)。ここはコース幅が狭く、森の中を走る低速ルート。こうしたテクニカルなコースでは、パワーよりテクニックとばかりに、好調の鎌田がトップを獲る。2位新井敏弘には17.8秒もの差があるので、雨のコンディションによって大きなタイム差が生じ始めているのがわかる。大輝はマシンの調子が悪いまま11位に沈んだ。また柳澤も総合18位に沈んでいる。
そして雨はさらにひどくなり、つづくSS6はハイスピードのOnikubo。豪雨の中トップスタートは鎌田。2位新井に合計20秒以上の差をつけているものの「雨だと5秒くらいの差はあっという間になくなるし、何が起こるかもわからないので雨は難しいですね」と前日トップで折り返したときに鎌田は話していた。そして鎌田はハイドロプレーンに見舞われ岩肌にヒット、リタイヤすることとなってしまった。
そうした中SS6は再び福永のファビアがトップを奪う。2位大輝に16.6秒もの大差。3位の新井は24.1秒の大差。これはもう、まともに走っているタイムではない。新井は大輝にも7.5秒の差をつけられており、雨量が想像を超えていることは間違いない。
結局、このあとのSSはすべてキャンセルとなり、SS6までのタイムで順位が決定された。結果、総合優勝は新井敏弘/田中直哉、1位新井大輝/小坂典嵩、3位福永修/齊田美早子という結果になった。福永はSS3でのパンクが大きく響き、ファビアR5デビューウインとはならなかった。
実質の開幕戦となった新城ラリーは、荒れたコンディションとなったが、ラリーを長年続けきているSUBARU/STIは、圧倒的不利と言われる中でワンツーフィニッシュを決めた。やはり継続し積み上げた経験は目に見えない力を発揮し、選手を後押ししたラリーと言えるだろう。
次戦は九州・唐津での第3戦が4月9日(金)ー11(日)に開催されるが、残念なことに無観客開催が決定している。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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