日本市場におけるシボレー「カマロ」の購入者は、“若者”が多くを占めるという。なぜか? カマロSSを試乗した今尾直樹が考えた。
20代が29%!
「若者の“クルマ離れ”を止めるのは個性派アメリカ車!?」
GMジャパンがこんなリリースを出したのは2018年秋のこと。2017年に販売を開始した第6世代、現行「カマロ」の売れ行きが好調で、2018年度上半期(4~9月)で441台を記録、前年同期の294台から大きく台数を伸ばし、なんと150%を達成したのだ。これは当時、輸入車ブランドのなかでトップ5に入る伸び率だった。
さらに2019年時点における同社の調査によれば、2018年のカマロの購入者の74%が新規で、しかも20代が29%を占めていたというから驚く。10代は1%、30代は14%で、これらを足せば44%にもなる。
なぜ、カマロは日本市場で若者に人気があるのか? いや、もともとフォード「マスタング」に対抗する、戦後のベビー・ブーマーズ向けとして、1966年に登場したのだから、驚くにはあたらないのかもしれないけれど、それって半世紀以上の前のアメリカのことで、しかも日本市場では2万5000ドルから買えるわけではなくて、いちばん安い2.0リッター直4ターボの「LT RS」でさえ、2018年の、消費税8%の時点でも500万円ちょっとだったのだから、やっぱり驚きだ。
日本市場では現在、「LT RS」は556万円、おなじエンジンの「コンバーチブル」が643万円、そして6.2リッターV型8気筒ガソリン・エンジン搭載の「SS」が710万円で販売されている。若者に人気なのは、圧倒的にLT RSとコンバーチブルで、その購入理由として、映画『トランスフォーマー』の『バンブルビー』を、あげるひとも多いけれど、筋肉質のスタイリングだとか、“カマロ”というブランドだというひともいらっしゃるという。
本稿では、カマロのイメージ・リーダーである「SS」に試乗し、なぜシボレー・カマロはニッポンの若者に人気なのか? をあらためて考察してみた。
見た目以上にマイルド
「リバーサイドブルー」と呼ぶボディカラーのカマロSSに、筆者は夜、初対面した。薄暗がりの人工の光の下、低く構えたカマロはワルな感じで、正義の味方というよりは、ヴィラン、悪のヒーローという感じがした。直線的なラインに盛り上がったフェンダー。
試乗車は2019モデルである。2020モデルでは、たとえばフロントのバンパーがボディと同色になるなど、ごく細部が変更になっている。基本的なメカニズムは変わっていない。2019モデルで、SSのATが8速から10速になるという重要な改良を受けたばかり、ということもあるだろう。
2016モデル としてデビューした第6世代の現行型カマロ は、カタチはバンブルビーそっくりだけれど、中身は新開発の「GMアルファ・プラットフォーム」に一新している。
これにより、先代よりも剛性が28%アップする一方、ホワイト・ボディの重量は60.5kg軽くなっている。さらに全体では最大で90kg軽くなっている。
ダイエット成功のカギは、筆者の見るところ、ボディ・サイズを若干とはいえ、小型化したことにある。全長×全幅×全高=4785×1900×1345mmと、2+2のクーペ としては十分でっかいけれど、これでも第5世代より、57mm短くて、20mm狭く、28mm低い。2811mmのホイールベースは41mmカットされている。このほか、フロント・サスペンションのリンクをアルミにしたり、リアのそれはスチールだけれど、穴を開けたり、あるいはこれまでスチールだったインストゥルメント・パネルをアルミにしたり……などの軽量化を図っている。
こういうことはあとから調べたわけですけれど、筆者はこの夜、カマロSSに乗り込み、ダッシュボードにある長方形のスターター・ボタンを押し、ヴィランになった夢を見た。スターターを押すと、アナログの速度計と回転計の盤面のライトが点灯し、通電したことを知らせると、一旦消える。でもって、キュルキュルキュルっと長めのクランキングのあと、6153ccのV8OHVがヴオオンッとひと声吠えて目覚める。いや、目覚めたから吠えるのか。
その咆哮をきっかけにキンキンキンという警告音が鳴り始め、なにごとか、という緊張感が漂う。異常事態発生! という感じ。そこに「ETCカードの有効期限は……」という女性の声が続く。V8がゾワゾワという怪物の鼻息みたいな感じの排気音を奏で、ふたつのアナログの大径メーターは再点灯し、それぞれの赤い針がそれぞれの最大値まで、ゆっくりと動き出す。同時に、小さなデジタルの4連メーターが真っ黒けだった盤面に浮かび上がって、油圧、水温、燃料、電圧の状態を示す。
10速ATのシフトレバーをDに入れ、いざ発進! カマロSSで走る夜の青山通りはとてもムーディだった。信号待ちをしていると、大排気量高性能エンジン特有の“ヴォーヴォー”という不穏な唸りが、地の底から湧き上がってくる。隣の白い国産車とかはヒーローものの背景に過ぎない。俺はイレズミ怪獣で、これから家に帰るだけなのに、西麻布のバーによってキュッとやってくるか、みたいな気分になる。今夜の俺にからんできたらマズいよ。
ボディはドイツ車みたいにカチンコチンではないけれど、十分な剛性感があって、乗り心地は快適だ。前245/45、後ろ275/35という、前後異サイズでZR規格の20インチを履いているというのに。しかも、グッドイヤー・イーグルF1はランフラットというのに、きついショックを伝えない。標準装備のマグネチック・ライド・コントロール、可変ダンピングがいい仕事をしているのだろう。ノーマルの「ツアー」だと、やさしい感じに終始する。見た目と違って、ぜんぜん硬くない。むしろソフト&メローなのだ。
おそらく世界でもっともバーゲン・プライスなV8
翌日の早朝、私はカマロSSで箱根までドライブした。10速ATということもあって、100km/h巡航は1300rpmという低回転で、巡航中、エンジンはないも同然。低負荷時には気筒休止システムが作動して4気筒になっている。特に意味なく松尾芭蕉をもじっていえば、閑かさや言われなければ4気筒だと気づかない。字あまり。風切り音が小さいのは空力のよい証拠だ。やや目立つのはロード・ノイズだけれど、米国市場で2万5000ドルからをうたうクルマだ。軽量化とのトレードということもある。
山道の上りでV8を思いっきりうたわせる。いわゆるドライブ・モードを「スポーツ」にすると、ATのプログラムが変わり、エンジン・サウンドが大きくなって、電動パワー・ステアリングが重くなり、可変ダンパーが硬くなる。SSにはさらに「トラック」というモードもあって、エンジンのスロットルのレスポンスもサウンドもATもパワステもダンパーもすべて「トラック」に切り替わる。
V8OHVは2500から3000rpmぐらいまではヴォーっという雷鳴のような轟音を立て、4000rpm以上になると、その雷鳴のつぶがそろってくる。でもって、アクセルをオフにするとバラバラバラッという、レーシング・カーがコーナーへ突っ込みながら減速するのと同様の音を出す。
「C7コルヴェット」と共有するGMのスモール・ブロックV8は排気量6153ccで、最高出力453ps/5700rpmと最大トルク617Nm /4600rpmを生み出す。ボア×ストロークは103.25×92.0mmのショート・ストロークではあるけれど、ヨーロッパのエンジンとは異なり、ガソリンの爆発力でもって無理やりまわしている、といった豪快なフィールと雷鳴のようなサウンドが魅力だ。
車検証の車重は1730kgと、V8モデルとしては軽い部類だ。前後重量配分は54:46と穏当で、パワー・アシストのチューニングも含めて直進安定性重視。ワイド・トレッドを生かして曲がる能力それ自体は高いけれど、性能が高すぎる。速過ぎて、目をつむりたくなる……。
そう。山道を走ってわかった。私には性能が高すぎる。一般にアメリカ車は燃費志向でもあるため、ギア比が高い。それはカマロSSにもあてはまる。雷鳴のごときV8サウンド、その野性的なサウンドだけを味わおうにも、スピードが出てしまう。音自体はものすごくステキだから、もっと聴きたい、というストレスが募る。
結局、スッパリあきらめて、のんびり走って帰ることにする。カマロSSはスーパーカー動力性能を持つ、スーパーカー価格ではないマッスル・カーであった。マッスル・カーというとエンジンが勝ち過ぎているイメージがあるけれど、現行カマロの場合、シャシーも世界レベルであると筆者は思う。V8を搭載する2ドア・クーペとしては、おそらく世界でもっともバーゲン・プライスの1台だろう。
カマロで私がよかったのは、夜の青山通りを走っているときだった。ホント、だれかに見せびらかしたかった。カッケー! と、見せられたほうは、だれであれ、賞賛してくれるだろう。これにケチつけるヤツは友だちではない。2.0リッターの4気筒だって、おなじカタチなのだから、そうとうハッタリがきく。
ちなみに、1.5リッター超~2.0リッター以下の自動車税は3万6000円、6.0リッター超は11万円もする。この差はデカい。現行カマロの若者人気の秘密は、カマロ史上、初めて2.0リッターがくわわったことにもあるに違いない。
そのカマロの2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ、最高出力275psと最大トルク400Nmを発揮して、現代のポニー・カーをおとなの馬に負けない速さで走らせる。けっこうな、よい選択だと筆者は思う。
GMジャパンにとって不幸なことに、2019年のシボレーの販売台数は423台にとどまり、2018年の708台から急落してしまった。カマロのようなスポーツカー、不要不急のクルマというのは、あいにくマーケットが限られている。欲しいひとたちが手に入れたら、それ以上は広がらない。スポーツカー、スポーティ・カーというのは自動車界のなかでも旬が短い。敏感な若者たちは、だからこそ飛びついてきた。次はミドシップになった「C8コルヴェット」かもしれない……。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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