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退屈しない自動車デザイン 大手を負かしたクリス・バングルは「先駆者」か「破壊者」か

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退屈しない自動車デザイン 大手を負かしたクリス・バングルは「先駆者」か「破壊者」か

大胆さゆえに好みが分かれるデザイナー

クリス・バングルほど世論を二分した自動車デザイナーはいないだろう。しかし、これほど幅広いクルマに深く関わったデザイナーもまた少ない。

【画像】既存の枠にとらわれないクリス・バングルの自由な発想【クーペ・フィアットとBMW Z3を写真でじっくり見る】 全39枚

オペルでの初仕事から、大手デザイン会社の案を退けたクーペ・フィアット、そしてやや物議を醸したBMWのフレイム・サーフェシング(炎のような表面処理)に至るまで、バングルは自動車業界とその関係者に永遠の足跡を残した。

メルセデス・ベンツのデザイン・チーフであるゴーデン・ワグネルでさえ、こう語っている。「クリスは先見の明があり、枠にとらわれない発想を持つ。常に時代を先取りし、同じようなクルマや製品を生み出してきた。彼はすべての若いデザイナーにとってのインスピレーションであり、わたしにとってもそうだった」

バングル自身もメディアに対し、さまざまな見識を披露してくれた。彼はAUTOCARの取材で、こう語っている。「BMWのCEOから、新デザインのE46世代3シリーズには “線が多すぎる” と言われたことを覚えていますよ。わたしは、モーツァルトが国王から “音符が多すぎる” と言われたときの言葉を言い換えて答えました」

「クルマには、時代を超越した古典的な美しさを求める役割があります。しかし、他の芸術もそうであるように、何が素晴らしいかというわたし達の考えを変えるような新しいコンセプトを生み出し、それに合わせてわたし達の心を伸ばすことが、本当のコツなのだと思います。そのようなデザインが長持ちするのであれば、さらにいいことだと思います。しかし、世代ごとに見る目は変わります」

2009年2月にバングルが社を去った後も、BMWが異彩を放つクルマを発表し続けていることを考えると、この思想はBMWの現在のデザイン哲学と重なるところがある。

では、バングルのヒット作についてはどうだろう? バングルが自ら描いた、あるいは指揮を執ったクルマたちを振り返ってみよう。

オペル・ジュニア(1983年)

米オハイオ州生まれのバングルは、1981年にドイツのGMオペル本社で自動車デザインのキャリアをスタートさせる。1983年のフランクフルト・モーターショーで発表されたコンセプトカー「ジュニア」のインテリアデザインを担当。独創的なダッシュボードレイアウトを採用し、メーターやスイッチをそれぞれ個別のポッドに収めた。

今にして思えば、ジュニアのエクステリアデザインの一部(ヘッドライトやシルエットなど)は、1992年にデビューした2代目コルサを正確に予見していた。しかし、バングルの貢献はコンセプトのインテリアに限られており、市販モデルには引き継がれなかった。

バングルのフィアット時代(1985年)

バングルは1985年にオペルを離れ、フィアットに移籍。自動車デザイン専門メディア『Form Trends』のインタビューで彼は、フィアットにパンダの後継車デザインを依頼されたと回想している。しかし、1980年に発表されたイタルデザインによる初代パンダは、2003年まで生産が続けられた。彼のデザインは結果的に、日の目を見ることはなかった。

クーペ・フィアット(1990年)

クーペは、バングルがフィアットで手がけた最も注目すべきプロジェクトである。1990年にスケッチを始め、最終的にティーポと共通のプラットフォームをベースに、印象的なルックスの2ドアモデルを作り上げた。

デザインに対する彼のユニークなアプローチは、すでに板金に浸透していた。丸いテールライトに見られるようなレトロなスタイリングと、車輪上部の斜めのラインなど現代的な要素を掛け合わせ、ピニンファリーナの案を退けるに至った。

バングルのBMW時代(1992年)

1993年にクーペがデビューしたとき、バングルはもうフィアットを去っていた。1992年10月、BMWは彼をデザイン部門のトップに任命した。BMWが米国人をデザイン部門責任者に据えたのは初めてで、多くの人を驚かせた。当時、BMWのラインナップは3、5(写真)、7、8シリーズで構成されており、どれも比較的コンサバティブなファミリー性を帯びていた。

BMW Z3(1995年)

BMW Z3は、バングルの指揮下で永島譲二がスタイリングを担当したモデルである。2人は1980年代初頭にオペルで短期間一緒に働いていた。Z3はまた、サウスカロライナ州スパータンバーグ工場で生産された最初のBMWの1つでもある。

ロングノーズ&ショートデッキの伝統的なスポーツカーといったプロポーションは、過去のBMW製ロードスターにも通じるが、前身であるZ1よりも野暮ったさはかなり抑えられている。前輪の後ろにある通風孔は、507への控えめなオマージュである。

BMW Z9グランツーリスモ・コンセプト(1999年)

BMWはZ9グランツーリスモ・コンセプトのデザインを、バングルにゼロから作らせた。1999年のフランクフルト・モーターショーで発表されたカーボンファイバー製ボディのZ9は、凸面と凹面を等しく取り入れた彫刻的な外観を持ち、新世紀に向けてBMWのデザイン言語を予告した。

また、後にバングルのほとんどのデザインを特徴づける、いわゆるフレイム・サーフェシングを業界に初めて知らしめた。そしてZ9は、2003年に登場した新生6シリーズを予感させるものであった。

BMW X5(1999年)

バングルはクリス・チャップマンと密接に協力し、初代BMW X5を開発した。しかしそれは無理難題と言える難しい仕事だった。世界でも屈指のリスペクトを集める自動車メーカーであるBMWのデザイン理念を、まったく新しいタイプのクルマに適用する必要があったのだ。

BMWのデザイン・ルネッサンスは、ほぼ必要に迫られる形でX5から始まった。当時の3シリーズや5シリーズほどスラブサイドではなかったが、これは視覚的な質量を減らすために方策だった。フロントのライトは、E46世代の3シリーズに見られるものと同じものだ。

ミニ・ハッチバック(2000年)

新世紀のミニをデザインするのは、言うは易く行うは難しだった。初代ミニは1959年以来、ハイトーンでトレンディに進化してきたが、基本的な形は変わっていない。X5にも携わったフランク・ステファンソンを含むバングルのチームは、まったく新しいパッケージでミニのエッセンスを伝えることに成功した。

バングルはミニの再発明で得た経験を、自動車以外の分野にも役立てた。「ヘネシーが新しいVSOPコニャックのボトルを作るためにわたしに声をかけてきました。長い間手をつけられていない、象徴的な形です。ヘマはできません。ミニのデザインを思い出しましたよ」と、Car & Driver誌のインタビューで語っている。

BMW 7シリーズ(2001年)

1980年代から2000年代初頭まで、BMWのセダンは言わば「1本のソーセージ、3種類の長さ」というアプローチのデザインだった。バングルはこれを一新するべく、4代目7シリーズをまったく新しい方向性で作り上げた。そのデザインは2年前に発表されたZ9グランツーリスモ・コンセプトを踏襲したもので、特にリアエンドが特徴的だ。このリアの造形を、メディアは「バングル・バット」と呼ぶようになった。

バングルは作家のデイヴィッド・カイリーとのインタビューで、「わたし達は誰のデザイン言語も真似していませんし、わたし達自身のものでさえもありません。これを不快に思う人もいるでしょう」と語っている。

BMW Xクーペ・コンセプト(2001年)

X5をベースにしたXクーペ・コンセプトは、大きく2つの意味でBMWのデザイン史に忘れがたい足跡を残した。第一に、SUV人気のトレンドに乗り、「クーペ」の名を冠するスポーティなモデルを発表したこと。第二に、フレイム・サーフェシングをはじめとする多くのデザイン要素が、その後の市販モデルにも浸透していったことだ。

(この記事は後編『好き嫌い分かれる「大胆」デザイン BMWを変えたクリス・バングル 忘れられないクルマたち』に続きます)

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みんなのコメント

1件
  • fxnhe501
    やっぱり、破壊者だと思うなぁ。こうして歴代の代表作を見ても、いいと思えるものがひとつもないもの。ひとつも。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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