タイヤには天然ゴムが多く使われている
2024年8月11日からスタートした第29回アジアクロスカントリーラリー(AXCR)の開催を目前に、タイ王国スラタニ県にある横浜ゴムの天然ゴム加工工場である「Y.T.RUBBER(Y.T.ラバー)」を見学する機会を得ました。この会社は、横浜ゴムがタイヤの製造に使用する原料となる天然ゴムを生産し納入しており、2008年に創業。現在総面積29万6000平方メートルの敷地内に、ゴムの加工工場はもちろん、工場排水の循環再利用のための浄化池などもあり、環境に配慮した施設となっていました。今回は、天然ゴムとタイヤの関係を解説していきます。
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タイヤになることは知っていても意外と知らない天然ゴムの世界
まず、ラテックス(ゴムのコロイド状水分散物)が流れるよう、ゴムの木を斜めにタッピングしていく。タッピング自体は専用の器具があればそれほど難しくはないが、そもそも天然ゴムが取れるゴムの木とはどんなものだろうか。
その種の起源はアマゾン川流域にのみ生息していたパラゴムノキとされる。コロンブスによって15世紀末にヨーロッパに紹介され、1839年に発見された加硫法で需要が増加。原産地以外の栽培地域が拡大し、タイやインドネシア、そしてマレーシアなどが現在の主たる生産国となる。
アジア各地を巡ってもちょっと街から離れるとゴム農園が各所にある。白樺に似た白っぽい木で、等間隔に木が並んでいてその下のほうにカップがついていたらゴム農園だということがすぐにわかる。
2023年のデータによると世界の天然ゴム生産量は1400万トンで、アジアの生産比率は84%となる。そのうちのタイでの生産は全体の生産量のうちの37%となる520万トンで断トツの1位である。
天然ゴムの採取は人手で行われている
天然ゴムの採取(タッピング)は、現在も人手で行われている。日が昇ってからでは樹液(ラテックス)の取れる量が少なくなってしまうということで、作業は毎日夜中から明け方まで行なっているため、日中にゴムのプランテーションの中に人がいることはまずない。ゴムの木は植えてから6~7年してラテックスが取れるようになる。そして25年ほどでその役目を終える。しかし、ゴムの木は家具に使用されたり、燻製など燻煙材としても使用され、「ゴムの木は捨てるところがない」と言われるほどだ。
ゴムの木の皮を削ってみるとじんわりと白いラテックスが出てくる。これがゴムの原料である。にじみ出てきたラテックスは、はじめは乳液のような感じだが、そのうちに木工用ボンドのような粘りが出てきて、指にとってみるとまるで接着剤のような印象だ。
それが流れ落ちていくようにゴムの木の表面を斜めにカットし、その下にラテックスを受けるようにカップを用意しておくという仕組みで採取が行われている。そのラテックスは1回に100~200cc程度取れ、1、2日空けてまたタッピングを行う工程を繰り返していく。
カップの中にたまったラテックスはゴムとして固まるので、カップの中身を転がしながら球体の半固形化したものをカップランプ(Cup Lump)と呼ぶが、この状態で農家から出荷される。それとは別にシート状に加工(Un-Smoked Sheet)して出荷する農家もいる。また医療衛生用品向けにラテックスの液状の状態のまま流通するものもある。
合成ゴムの性能も上がっているものの、天然ゴムの耐荷重性能は超えられず
農家から回収し、カップランプなどの形状の状態で、トラックで運び込まれた天然ゴムは、このY.T.ラバーの工場で異物を除去し、粉砕して洗浄し、さらに手作業で異物を取り除き、乾燥していく工程を経ることになる。
ここで生成された天然ゴムは、日本、アメリカ、インド、フィリピン、中国など横浜ゴムの世界各拠点に出荷されることになるが、横浜ゴム全体で年間に製造するタイヤをまかなうには山手線の内側ほどの面積のゴム農園の敷地が必要になるという計算だ。
レーシングタイヤなどはほぼ合成ゴムのタイヤが使われるが、トラックやバス、そして航空機用のタイヤなどには天然ゴムが多く使われている。現在のタイヤの平均的な天然ゴムの使用量は55%と依然高い。この手作業による天然ゴムの生産はまだまだ続くのだろう。
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