ドイツ中部シュツットガルト・ウンタートゥルクハイムのメルセデス・ベンツ本社工場前に位置する「メルセデス・ベンツ・ミュージアム」は、自動車の発明から現在に至るメルセデス約130年の歴史を紹介する世界唯一の博物館である。
乗用車とともに商用車の展示にも力を注いでおり、特に黎明期のトラックの展示は圧巻だ。
本命登場!! 新型ヴェゼル登場で波乱の三つ巴!! 対ヤリスクロス対キックス 長所と短所
トラックマガジン「フルロード」第2号より
文・写真/多賀まりお
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■2006年にオーブンした「メルセデス・ベンツ・ミュージアム」
ベンツ・パテント-モーターワゴン(右)(Benz:954cc 0.75PS/400rpm 最高速度16km/h)と1886年ダイムラー・エンジン付馬車(左)(Daimler:462cc 1.10PS/650rpm 最高速度18km/h)
「メルセデス・ベンツ・ミュージアム」は、それまで工場敷地内にあった旧博物館に代わって2006年5月にオープン。
約2年半の工期を経て完成した建物は、特徴的な三角おむすび型の断面に、二重螺旋状の順路を配した地上8階・地下1階建て。総展示面積1万6500平方メートルの広大なスペースに40台の商用車を含む160台の車両と1500点以上の展示物が置かれている。
エレベーターで最上階に上がると、自動車前史の輸送機器の象徴である(剥製の)白馬に迎えられ、最初の自動車として1886年にゴッドリープ・ダイムラーの開発したエンジン馬車と、同年にカール・ベンツが完成させた原動機付3輪車から展示がスタート。
各時代ごとのメルセデスブランドの代表的なモデルが展示されている7つの「レジェンドエリア」と、「旅」や「緊急車両」など、テーマに沿って過去から現在までの車両を集めた5つの「コレクションエリア」を巡りながら地上フロアに戻ってくる構成である。
■さすがメルセデス 文化的価値の高い自動車博物館として人気に
ベンツトラックは手前のADAC(日本のJAFのような機関)のLK814キャリアカーや奥のTHW(災害技術救援隊)のL409工作車など公共性の高い車両に用いられてきた
車両やエンジンといったハードウェアだけでなく、それぞれの時代背景を併せて解説することで、社会と共に成長してきた自動車の歴史が容易に理解できる仕組みとなっているのもメルセデスらしいところ。
文化的価値も高く、自動車の愛好者に限らず、機会があれば是非一度訪問されることをお薦めしたい。
もちろん乗用車だけでなく、メルセデス・ベンツ商用車も多数展示されており、1886年にダイムラーが発表した世界初のトラック(出展車両は1889年型)をはじめ、世界初の量産小型ディーゼルトラックとしてブレークスルーとなった。
1932年のLo2000、60年代に一世を風靡したショートノーズ大型車など、各時代のエポックを的確に押さえた展示でメルセデス商用車120年の歴史をひもといてくれる。コレクションの層の厚さとクオリティもさすがの一言だ。
■メルセデス商用車の歴史 世界初のトラックは1896年に誕生!
ダイムラー・モーターライズドトラック(2気筒1527cc 5.6PS/720rpm 最高速度12km/h 許容ペイロード1250kg)。ダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフトが英国からの注文により1896年に製作した世界最初のトラック
1886年1月29日、カール・ベンツが完成させた原動機付3輪車に、「世界で最初の自動車」としてドイツ政府の特許が認められ、同年、ゴットリープ・ダイムラーの開発したエンジン馬車も実走行を開始した。
ベンツは、1895年には史上初のエンジン駆動式バスを製作。そして、自動車の発明から10年目となる1896年にはダイムラーのダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト(DMG)は世界初のトラックを発表した。
ドイツ南西部マンハイムのベンツとシュツットガルト近郊のカンシュタットを拠点とするダイムラーは、ともに自動車のパイオニアであると同時に、タフなライバルとして刺激しあっていた。
商用車の部門においても最初のデリバリーバンやフォワードコントロール(キャブオーバー)車など斬新なアイデアを次々と具現化していく。
■ディーゼルエンジンをはじめトラックの技術革新を推進
1912年製のベンツ 3トン・トラック(4気筒6451cc 45PS/1200rpm 最高速度25km/h 許容ペイロード3000kg)。コレクションエリア2「輸送車のギャラリー」に展示されている3tトラック
そして合併の3年前となる1923年には、それぞれが別個にディーゼルエンジン搭載トラックを開発。その後のトラックの技術革新を大きく推し進めることとなった。
ベンツが同年テスト走行を行なった5トントラックは、8・8Lの排気量から45~50馬力を発生する予燃焼室式4気筒のOB2型エンジンを搭載したもの。
いっぽう燃料を圧搾空気によって噴射する方式のディーゼルエンジン(定置用)の開発を第一次大戦前から進めていたダイムラーは、同時期に4気筒40馬力のユニットをトラックに初搭載して試走を行なった。初期のディーゼル機関は車両用ではなかったのである。
■ライバルが手を携えダイムラー・ベンツが誕生
メルセデス・ベンツLo2000(4気筒3770cc 55PS/2000rpm 許容ペイロード2000kg)。世界初のディーゼルエンジン搭載小型トラック
翌1924年、それまで熾烈なライバル関係にあったベンツ&Cie社とダイムラー・モトーレン・ゲゼルシャフト社は資本提携関係を結び、メルセデスとベンツブランドの販売に於ける連携などを実施。続いて'26年に両者は合併してダイムラー・ベンツAGが発足した。
なお前後するが、メルセデスの名称は1900年当時自動車レースに出場していたフランスの富豪、エミール・イェリネックがダイムラー社のヴェルヘルム・マイバッハに製作を依頼した高性能レーシングカーに娘の名前を冠した「メルセデス35PS」がその始まり。
やがてメルセデスは正式なダイムラー全体のブランド名となり、ベンツとの合併によりメルセデス・ベンツが誕生することになった。
■合併の翌年に発表されたトラック・ラインナップ
メルセデス・ベンツL6500(6気筒1万2517cc 150PS/1700rpm 最高速度57km/h 許容ペイロード6500kg)。1935年に発売されたガッゲナウ工場製の大型トラック
合併の翌年に発表されたダイムラー・ベンツの最初のトラック・ラインナップは、3つのモデルシリーズで構成されていた。
ペイロード(架装物や乗員の重量を含めた最大積載量)は1.5~5.0tをカバー。最もヘビーデューティなL5(GVW約10t)には、車両用としては世界初の6気筒ディーゼルエンジンOM5型が搭載されて、大いに注目を集めた。
現在もディーゼルユニットの型式名に使われている「OM」は、オイル・モーターの略称で、ディーゼルエンジンを指すものだ。
その後、世界恐慌直後の32年には新シリーズを発表。その口火を切ったLo2000型は、GVW5t級・ペイロード2tの小型トラックで、55馬力を発揮するOM59型4気筒3.8リッターディーゼルエンジンを搭載していた。
当時このクラスにおいてガソリンエンジンを凌駕する高性能ディーゼルは画期的であり、ダイムラー・ベンツはディーゼルエンジンのトップメーカーとしての地位を確固たるものとしていった。また、この時期には世界初のセミトレーラも発表している。
トラックでも「世界No1」の称号を誇るダイムラー・トラックの歴史はこうして形づくられていったのである。
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一度見てみたいものだ。