気になる人の愛車に隠された知られざるエピソードとは? 第1回目は俳優・市毛良枝さんが、愛車を振り返る。
美しさに一目惚れして購入したBMWのクーペ
憧れのシトロエン「2CV」を購入するために運転免許を取得したぐらいに好きだった愛車を、しかし、諸般の事情から1年弱で手放したとはいえ、移動手段としてのクルマは必要だった。
【前編はこちら:シトロエン2CVとの日々】
そこで、購入したのは日産「ローレル」(4代目:1980~1984 年)だった。「“手の焼ける男”にちょっと懲りたので、ローレルを選びました」。
「2CVは気に入っていたのですが、トラブルもいろいろありましたから……故障が少なく、かつ快適なクルマに乗りたいと思ったんです」
ローレルにしたのは、当時、経理業務を依頼していた会社のオーナーが、ディーラーを紹介してくれたから。とくに、深い意味があったわけではなかったという。
ローレル以後は1~2年ごとにクルマを買い替えてきたという。「1台のクルマを長く所有する人からは怒られちゃいますよね」と、市毛さんは笑う。
ローレルの次になったBMWも、前述の会社のオーナーが紹介してくれたものだという。
「BMWは何台か乗りましたが、1番長く乗ったのは『528e』だったと思います。3シリーズにも乗りました。ほとんどはセダンでしたが、“美しさ”のあまり、衝動買いしたクーペもありました」
そのクーペとは、当時、“世界一美しいクーペ”とも評された1977年登場の6シリーズだ。市毛さんは3.2リッター直列6気筒ガソリン・エンジン搭載の「633CSiA」と、633と入れ替わる形で日本に上陸した「635CSiA」を所有した。
「6シリーズの美しいエクステリア・デザインに一目惚れでした。とくにリアのデザインが素敵ですよね。ただ、普段リアシートに乗る両親からは『狭い』と、不評でした」
BMWのディーラーとは、営業担当者のみならず工場のメカニックたちとも親しくなったそうだ。おかげで、代車などとしてBMWのさまざまな車種に乗れたという。
「代車で『318i』に乗ったときは、印象深かったですね。“私の運転が下品になってしまうのでは?”と、心配になるほど軽快で、とても取りまわしがよかったんです(笑)。5シリーズや6シリーズに比べると、ホントに軽快なクルマでした」
BMWの関係者に紹介されて、メルセデス・ベンツに乗っていた時期もあったという。“ミディアム・クラス”と呼ばれたW124シリーズの「300E」などを所有したそうだ。
「300Eは“質実剛健”な雰囲気で、贅沢さがそれほどなく、控えめなところが魅力でした。ドイツやフランスではタクシーで使われていたようなクルマですからね。Sクラスでは、ちょっと押し出しが強いので……」
ローレル以降、市毛さんがBMWやメルセデス・ベンツといった外国車を乗り継いだ理由はいくつかあるという。
「ひとつには、時代でしょうか、輸入車に乗る先輩たちからの影響もあったと思います。“この仕事(俳優)をしているからには、舶来のいいクルマに乗るべき”といった昔からの観念を刷り込まれていたのかもしれません」
くわえて、外国車ならではの国産車とは異なる独特な雰囲気に魅力を感じた。「輸入車のエンジン・サウンドやインテリア・トリムの感触が好きなんです。たとえば、ハンドルやスイッチといった操作系の“重み”がいいですね。しっとり、しっかりしていて、上質な感じがします。パワー・ステアリングのアシストが大きすぎるとか、あれこれ便利な機構が満載してある “お節介なクルマ”は苦手ですね」と、市毛さんは話す。
操作系にキチンとした重みがあることのほかに、2CVのように便利な機構・装備がない質実なクルマの方が好みであるという。
「半ドアの警告灯や警告音なんかも不要ですし、カーナビゲーションもいりません。たまに、ルート案内機能を使っても、だいたい途中で無視してしまいます(笑)」
エスクードを所有した過去
市毛さんは、登山が趣味であることも知られており、日本のみならず海外の山にも登っている。ちょうど登山をはじめたころ、乗っていたメルセデス・ベンツにのほかに、もう1台を山用にクルマを購入したことがあった。
「スズキ『エスクード』を増車したんです。登山や釣りなどに行くのに、メルセデス・ベンツではちょっと“威厳”がありすぎて……。もっとも、2台持ちした期間はそれほど続きませんでしたが」
エスクードを買ったときは、トヨタの「ランドクルーザー」と比較・検討したという。
「ディーラーの人が『女性にも運転しやすいですよ』とか『快適装備が豊富ですよ』とか言ってくるのですが、私にとってはそういうセールストークはあまり魅力的には聞こえていませんでした(笑)。ちょっと運転しにくいぐらいのクルマが理想なんです」
そんなこんなの遍歴を経て、いま乗っているのはボルボだ。メルセデス・ベンツのディーラーから紹介されたのがきっかけだったという。
「ボルボだったら、山に乗って行っても違和感がないのでは? と、思ったんです。メルセデスほど押し出しが強くありませんし。そのころのボルボは今以上に角張ったスタイルで、その武骨な雰囲気も好きでした」
ボルボは900シリーズのセダンやエステート、そしてXCシリーズなどを乗り継ぎ、現在は「V40」に乗っている。その前は、「V50クラシック」だった。“クラシック”はV50の最終モデルに設定された特別グレードだ。
「V50クラシックはとても気に入っていたのですが、ボディを傷つけてしまったのです。ちょうど、母や尊敬する人が亡くなった直後でした。いつもは入っていかないような狭い道に入ってしまい……。不幸が重なって疲れ切っていたのかもしれません」
ボディ・サイドの4箇所にダメージを受けたという。パッと見では、それほど大きな損傷にも見えなかったそうだけれど、修理の見積もり額は低くはなかった。
「修理するより買い替えたほうがリーズナブルになるというアドバイスもあって、V40に乗り換えました。でも、事故のこともあって、買ってから半年ほどは運転する気になれませんでした。見かねた知人が『乗らないとクルマがダメになるよ』と、心配してくれました。今は、プライベートでも仕事の移動でも乗っています」
V40は、「駐車場のことなどを考えると、サイズがちょうどいい」という。
忘れられぬ“初恋の人”
V40に満足しているいっぽうで、“運転しにくいクルマ”への憧れも捨てていない。先代のメルセデス・ベンツ「Gクラス」や、スズキ「ジムニー」などが気になっているのだけれど、「電気自動車にも1度は乗ってみたいし、今日、見せていただいたルノー・トゥインゴも可愛いので気になります」という。
2CVに乗っていたことのある市毛さんは、昔からルノーも気になっていたという。それに、自宅近くに、ずっとルノーを乗り継いでいる家があった。
「今のシトロエンが、“フツーのクルマ”になってしまった感じもするので、トゥインゴの個性や、可愛さは際立ちますね」
トゥインゴの助手席のバックレストが “パタン”と前方に倒れることや個性的なインパネまわりのデザイン、それに広大なラゲッジルームなどに驚いていたけれど、そうして、「シンプルだけど、実用性が高い点は2CVと似ていますね……。今すぐというわけではないけれど、やっぱりもう1度、2CVに会いたいですね」
手が焼けた初恋の人が、今も忘れられないようだ。
【プロフィール】
俳優・市毛良枝(いちげよしえ)
文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年ドラマ『冬の華』でデビュー。以後、映画・テレビ・舞台と幅広く活躍。現在は、執筆活動や講演も行っている。
●出演情報
CM:「ヤマダ電機」「くらしの友」「サントリーロコモア」に出演中。
ドラマ:9月21日 8時~ BS朝日『無用庵隠居修行』に出演。
☆2021年後期、2022年にはドラマ、映画、舞台の出演も控えている。
<ルノー・トゥインゴ>
現行モデルは2014年登場の3代目。リアエンジン・リアドライブ方式を採用するコンパクト・ハッチバックだ。ダイムラー社のマイクロカー「スマート」と、プラットフォームを共有する。
【衣装】ワンピース¥97,900、カットソー¥35,200LANVIN COLLECTION/ランバン コレクション: 0120-370-877> パンプス¥16,500銀座本店: 03-3573-4005> イヤリング スカーフ/スタイリスト私物
文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.) ヘア&メイク・竹下フミ スタイリスト・金野春奈 撮影協力・セルリアンタワー東急ホテル
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