ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第二十三回目となる今回は、中西氏が現地を取材し、肌で感じた中国自動車市場の「今」について。「中国バブルは崩壊したから安心」なんて言ってると、近い未来足元を掬われてしまう…!!?
日本車の提供価値を超え勢力拡大 新興国市場も奪われる…? 現地で実感した中国市場の実態
※本稿は2023年8月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、ATTO3撮影/中里慎一郎
初出:『ベストカー』2023年10月26日号
■日本車の価値は過去のものとなり、中国NEVの購入が「誇り」となっている
中国市場でのエンジン・ハイブリッド車の販売台数を示したグラフ。2017年をピークに落ち続け、2013年の水準にまで落ち込んでいる
8月のお盆休みを活用して、4年ぶりとなる中国自動車市場の現地視察旅行に出かけました。市場からクレジットカード決済がほぼ淘汰され、慣れない中国決済アプリに悪戦苦闘しながら、7都市、10会社を巡りました。
グーグルマップがほとんど役に立たない、世界標準から見れば「ガラパゴス」的進化を遂げるこの大陸では、自動車も独自の進化を急速に遂げています。
「ゼロコロナ」政策による市場混乱が長期化したことで、中国市場がどう変革しているのか見えづらかったのですが、その実態がはっきりとしてきました。
多くの報道にあるとおり、中国新車市場の構造変化は不可逆的であり、この対応に出遅れた日本、ドイツの自動車メーカーの苦悩はまだ始まりに過ぎないと感じています。進行する構造変化は大きく4点あります。
第1に、新エネルギー車(NEV=EV、PHEV、燃料電池車)の普及が環境規制を超えて拡大しています。そして供給力は需要をさらに超えて拡大し、NEVの需給バランスは激しく悪化し、メーカー間の価格競争に歯止めがかかりません。
出口の見えない価格競争が激化し、価格下落がさらに需要拡大の起爆剤となる好(悪?)循環が続いています。
第2に、中国ローカルのNEVが燃費性能や走行性能というこれまでの日本車の提供価値を超え、勢力を拡大させています。日本車のシェアは下落に転じ、反撃にはまだまだ時間が必要と見られます。
下の図に示したとおり、中国のSUV市場では中国ローカルのNEVの価格、性能の魅力が伝統的な日本車の価値を超えています。
中国SUV 市場の勢力図:(ICE/HEV モデルは塗りつぶし円)
車両価格が安く、電気料金はガソリンの10分の1で済み、10%の購置税(日本でいう消費税)は免除されるわけで、中国製のNEVを買わない理由はないのです。
唯一の理由となるのは、以前であれば「中国車では面子が立たない」ということでしたが、現在では日本車の「グローバルブランド」というプレミアム価値は過去のものとなり、若い購買層を中心に中国ブランドのNEVを購買することが「誇り」に変わってきています。
この背景には、中国においてはデジタルネイティブな若い世代が新車購買層の中心に存在し、中国ブランドが推し進める車両の知能化・デジタル化に強く共感していることがあります。それはまさにテスラ的なクルマといえます。
■ハイブリッド・エンジン車の市場規模は2013年頃の水準にまで後退
第3に、このテスラ的なクルマ(現地ではICV=インテリジェント・コネクテッドビークル、我々が言うSDV=ソフトウェア・ディファインドビークル)がすでに業界標準となりつつあるのです。日本車はガラケーのような過去の商品と見られ始めています。
例えば物理的なスイッチやレバーを排除し、スマートフォンと連携したテスラ並みのスマートコックピットが中国ではすでに大衆車で一般化しています。
今度は市街地でのレベル2+の高度自動運転機能(ADAS)の普及期が大衆車市場に訪れそうです。今後、数年間にわたってICV/SDVシフトが世界に先行して進む市場となるでしょう。
日本車メーカーは、中国パートナーのプラットフォームや技術を用いたNEV新製品を2024年から投入し始めますが、ギャップを埋めるにはかなりの時間が必要のようです。
中国車は物理的なレバーやスイッチをなくしたスマートコックピットが大衆車レベルで普及している(写真はXpeng G6)
第4に、伝統的なハイブリッドやエンジンの市場規模は2013年頃の水準にまで衰退し、日本車メーカーは生産能力の余剰に苦しみ、赤字経営に苦しむディーラーの構造改革が急務となっているのです。
中国の全需は2022年にピークレベルの2500万台近くに戻りました。しかし、25%を占めるNEV車を除いた伝統的なエンジン・ハイブリッド車の市場規模は逆に2013年レベルまで衰退しました。
過去10年で生産能力を2倍近く増強したグローバルブランドは著しい能力余剰に苦しみ、工場稼働維持とディーラー/サプライヤー防衛に向けた価格競争は構造的で収まる気配が見られないのです。
「4S店」(「Sales(販売)」、「Spare Parts(部品販売)」、「Service(アフターサービス)」、「Survey(情報提供)」)でプレミアムなサービスを展開してきたグローバルブランドのディーラーネットワークが弱体化し、著しく多くの店舗が赤字経営に追い込まれています。
■中国だけでなく新興国市場も奪われる
中国ICV/SDVの進化は間違いなく世界市場をリードする見通しです。
日本車メーカーが先進国向けに開発したグローバルモデルを中国合弁会社に投入し、高い価格とブランドプレミアムを享受してきたビジネスモデルは終焉しました。中国専用のSDVを、現地開発で可及的速やかに進める必要があります。
慢性的な供給過多を構造問題に抱える中国SDVは、欧州に留まらず世界のグローバルサウス(新興国)へ侵攻を強める公算大です。
日本車メーカーが中国国内で中国SDVに対抗する力を持ち、戦いの前線を防衛できなければ、東南アジア、豪州、中南米、北アフリカの新興国市場を失うドミノ倒しとなりかねないのです。
中国における戦いは、もはや中国事業だけの意味合いを超えた次元で考えていかなければならなくなっています。
●これまでの連載はこちらから!
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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何が4000年の歴史だよ