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インディカーの来シーズンはドライバーラインアップが大きくシャッフル。新型エンジンも投入で変革の年に

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インディカーの来シーズンはドライバーラインアップが大きくシャッフル。新型エンジンも投入で変革の年に

 2023年のNTTインディカー・シリーズは、第16戦ポートランドでシーズン5勝目を挙げたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)がチャンピオンを獲得。その一週間後に行われた最終戦ラグナ・セカは、接触が頻発する荒れたレースとなり、その戦況を見切った大ベテランのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)が優勝を飾って今シーズンは幕を閉じた。

 そして早くも2024年シーズンに向け、インディカー・シリーズに参戦する各チームの来季の体制はすでに大方が決まってきている。

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 チャンピオンチームのチップ・ガナッシ・レーシング(CGR)は、チャンピオンのパロウ、シリーズ2位のディクソンが残留。ロード&ストリートコースのみの出場で2023年のルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲ったマーカス・アームストロングは、オーバルコースを含めたフルシーズン出場へとステップアップし、複数年契約となった。

 また2022年インディNXTチャンピオンで、今年3レースにシモン・パジェノーの代役としてメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)から出場し好走を見せたリヌス・ルンドクヴィストとの複数年契約も発表。

 CGRは2023年と同様に2024年も4台体制を維持……と思いきや、シーズン終了から1週間ほどして、5台目のフルエントリーを行うと発表した。2022年から同チームの育成ドライバーとしてインディNXTで走っていたキッフィン・シンプソンを登用するというのだ。

 シンプソンはケイマン諸島出身で、まだ18歳。目立った成績はインディNXTで2回表彰台に上ったのみで、ランキング10位という成績しか残していないうちにシンプソンは最高峰インディカーへとステップアップすることになる。

 それは時期尚早と見えるが、過去2シーズンに渡ってスポンサーマネーを“前払い”してきた(パロウ、アームストロング、佐藤琢磨のマシンを彩って来たリッジライン・ルーブリカントは、シンプソン陣営の持ち込みスポンサー)彼らは、「もうインディNXTは終わりにして、インディカーに乗りたい」とチームを押し切ったということなのだろうか。

 考え得るもうひとつの理由としては、2024年はマシンがハイブリッドに変わることから、このオフのテストは普段以上の日数が与えられることになる。そこでエントリー台数を増やして収集データ量を増やし、一気にアドバンテージを築き上げよう……というのが、CGRが体制の大幅拡大を決意した理由かもしれない。

 またCGRといえば、佐藤琢磨が2023年にオーバルレース5戦のみの出場を果たした。彼のインディアナポリス500マイルレース(インディ500)での3勝目を実現するには、同チームからの2年連続出場が一番の近道だと言える。

 今年のインディカー・シリーズでは、琢磨の加入に伴ってエンジニアリングの強化がなされ、レースに取り組む真摯な姿勢が他のドライバーたちやスタッフにも波及した好影響を高く評価する声も聞かれていた。

 チームのマネージングディレクターであるマイク・ハルは、「琢磨の再起用の可能性を探って行きたい」とゲートウェイでは話していたが、6台目のエントリー実現は名門CGRをもってしても、さすがに難しいのではないだろうか。経験豊富な琢磨をもう一度雇い入れることは、シンプソン起用で若手がさらに多くなったチームにとってはメリットとなるかもしれない。

 しかし、シンプソン用のクルーを確保し、さらに琢磨のインディ500単発エントリー用にレベルの高いクルーを掻き集めるのは容易ではないし、6台というオペレーション規模もCGRにとっては未知の世界。主力チームに悪影響が及ぶ可能性がある拡張には、踏み切らないのではないだろうか。

 チャンピオンのパロウは5勝、ランキング2位のディクソンは今年3勝を挙げた。チームの2大エースであるこのチャンピオンコンビは、2024年もチャンピオン争いの中心メンバーになるだろう。目指すはチームにとって16回目のシリーズタイトル獲得と、インディ500での6勝目だ。

 アームストロングとルンドクヴィストの若手二人は、初勝利を挙げることが早急の目標となる。ルンドクヴィストはルーキー・オブ・ザ・イヤー獲得がマストだが、おそらくそれは簡単に達成されるだろう。シンプソンがそのライバルになるとは考えにくい。

■今季一貫性を欠いたアンドレッティは再浮上なるか

 今シーズン2勝を挙げ、PPは5回獲得したアンドレッティ・オートスポート改めアンドレッティ・グローバル(AG)軍団。数字的にはCGRに次ぐホンダ勢2番手の座を保っている。しかし、F1進出も計画する彼らとすれば、2012年のライアン・ハンター-レイ以来遠ざかっているタイトル奪還、そして、2017年の佐藤琢磨以来となるインディ500優勝を目標に掲げて2024年シーズンを迎える。

 2シーズンを戦いながら、ついに1勝もできなかった元F1ドライバーのロマン・グロージャンはとうとう放出。同じく2シーズン起用したデブリン・デフランチェスコとの契約も解消となった。

 代わりに、2022年インディ500ウイナーであるマーカス・エリクソンを迎え入れ、担当エンジニアにはグロージャンを担当していたオリビエ・ボアッソンを付ける。AGのインディNXTプロジェクト出身であるコルトン・ハータとカイル・カークウッド(今季2勝)はもちろん来季も残留だ。

 そしてAGで興味深いのは、4台目に乗るドライバーが未定……というか、4台目を走らせるかも確定していない点だ。デフランチェスコの当初の起用理由として噂されている、『大量の資金を持ち込むドライバーを起用して経営を安定させる』という発想はもうヤメにする方針を打ち出したAG。

 しかし、グロージャンのカーナンバー28をサポートして来たDHLが離脱したために陥った資金不足を補うために、大型スポンサーを確保しているらしいスティング・レイ・ロブを走らせるという話が出ている。

 ロブは、デイル・コイン・ウィズ・HMDから2023年にインディカーにデビューしたが、チーム体制の実力不足も起因してレースパフォーマンスはお世辞にも好いとは言えないものになっていた。

 しかし、2シーズン連続参戦が叶えばロブもマシンやコースに慣れているだろうし、よりよいマシンと豊富なデータや数多くいるエンジニア……といったプラス要素も味方につければ実力を大きく伸ばす可能性はある。

 2023年のAGで勝利を挙げたのは参戦2年目のカークウッドだけ。チーム最上位のランキング10位となったハータは、ポールポジション(PP)が2回に勝利がゼロ。トップレベルの才能を勝利に結び付けることができなかった点は、チーム・ドライバーともにおおいに反省すべきだ。

 つまり、AGの場合はエンジニアリングだけでなく、マネジメント部門の強化も急務なのだ。作戦力の強化が必要だし、ドライバーを精神面からもサポートして彼らがフルに力を発揮できる体制を整えることも実現しなくてはならない。

 チームにとってインディ500での7回目の勝利を目指すAGは、2022年に優勝を飾り、2023年は2位を獲得したエリクソンを新たに起用する。しかし、2023年のインディ500におけるAGのパフォーマンスは、決して高くはなかった。“アンドレッティはインディで速い”という通説は、空しくも過去のものとなりつつある。

 その立て直しのためにも、AGは昨シーズンのオフと同じように琢磨に“インディ500へのスポット参戦”の話を持ちかけるだろう。琢磨と一緒にインディ500を制したエンジニアのギャレット・マザーセッドは今もアンドレッティに在籍している。

■再出発のメイヤー・シャンクと急浮上のレイホール・レターマン・ラニガン

 AGと技術提携しているメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)は、2024年はまったく新しい布陣となる。

 フェリックス・ローゼンクヴィストをアロウ・マクラーレンから迎え、2台目には彼らのスポーツカーチームでIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権に参戦しタイトルを獲得して来たトム・ブロンクビストが起用される。

 そして、エリオ・カストロネベスはインディ500での5勝目を目指し、もう2年続けて“インディ500”のみへのエントリーを行う。優勝は2021年のインディ500だけ……という状況をローゼンクヴィストと共に脱却することが第一の目標だ。

 一方、クリスチャン・ルンガーによるトロントでのポール・トゥ・ウィンと、グラハム・レイホールと合わせた計3回のPP獲得という戦果を、2023年のレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)は挙げた。

 ロード&ストリートコースでの戦闘力を大幅に高めた彼らは、2024年にはオーバルコースでのスピード確保を実現し、ホンダ勢のセカンド・チームにのし上がることを狙っている。

 レイホールとルンガーはもちろんチームに残留し、3台目にはポートランドとラグナセカを走った元F1テストドライバーのユーリ・ビップスを起用することとなりそうだ。

 ただRLLといえば、今年のインディ500でグラハムが喫した予選落ちがすぐさま思い出される。高速オーバルでのマシンの悪さはインディカー・シリーズを戦ううえでは致命的だ。もし、2年続けてインディでの予選通過が覚束ないとなれば、スポンサーを繋ぎ止めるのも難しくなるはずだ。

 オーバルでのスピードが不足している理由は、エンジニアリングの脆弱さが原因だろう。その部門の強化については、すべてのチームにとって取り組むべき問題となっている。

そのため経験者は引く手数多、近頃ではレースでの経験を持たない若手を採用して斬新なアイディアを引っ張り出すこともトレンドになりつつある。つまり、エンジニアはチーム内で育て上げる時代ということ。しかし、RLLはその点で出遅れ気味、というわけだ。

 2023年シーズンよりRLLのCEOの座に就いている、元HPD副社長のスティーブ・エリクセンは最終戦ラグナセカで「インディ500に関して、琢磨と話をすることにおおいに興味を持っている」と話していた。さらにRLLには、琢磨がエンジン開発でもたらしたフィードバック能力の高さを熟知しているエリクセンに加え、2020年に琢磨とインディ500で勝ったエンジニアのエディ・ジョーンズもいる。

 レギュラー3台(ルンガー、レイホール、ビップス)にインディ500に1台をスポット参戦(未定)と、レギュラー4台+スポット1台(マルコ・アンドレッティ)以上+提携しているMSRの3台という参戦台数を抱えるAGに比べて明らかにコンパクトな参戦体制のRLLは、琢磨をより受け入れられ易い体制であり、琢磨も働き易い環境と言えるのではないだろうか。

 デイル・コイン・ウィズ・HMDは、2024年も2台体制を保つものと見られる。ただ、いまやインディNXT最強チームとなったHMDとの協調体制が今後も続くのかは不明だ。それには、HMDオーナーの息子であるデイビッド・マルーカスのマクラーレン移籍が起因している。またロブの残留もなさそうで、今実際に噂されているのはグロージャン復活の噂ぐらいと、少し朗報に乏しい。

■新型パワートレイン導入の来季はシボレーエンジン勢の逆襲なるか

 続いて見ていくのは、シボレーエンジン勢だ。

 その筆頭であるチーム・ペンスキーは3台体制を維持する予定で、ドライバーラインアップも2023年と変わらない。2023年ランキングでチーム内トップの3位となったのは、スコット・マクラフランだ。シーズン4勝を挙げ、一時はタイトル争いの注目株だったジョセフ・ニューガーデンだが、結局はマクラフランに続くランキング4位でシーズンを終えた。

 オーバルでは安定的な強さを誇る彼だが、ロード&ストリートサーキットでは時として、まったく戦闘力を発揮できないことがあった。毎年エンジニアを変えている(彼の要望によってではなくチームの事情で)ことが影響してのことなのか……。来季はその弱点をどこまで解消して来るかに注目だ。

 チーム内最年長で42歳のウィル・パワーは、2022年のシリーズチャンピオンでありながらも2023年には1勝もできなかった。アイオワのダブルヘッダーではふたつのPPを獲得したが、ロード&ストリートでの予選でファイナルに進めたのは1回だけ……と、彼が飛び抜けた力を見せ続けて来たパフォーマンスは低下していると評さざるを得ない。

 インディ500での彼らは、2019年のシモン・パジェノー以来となる優勝をニューガーデンによって達成。しかし、予選ではスピード不足に悩まされており、レースの勝ち方もルールが無理やり曲げられた結果……と言われても仕方のないものだった。

 2024年のマシンは、新たにハイブリッド機構を持つパワーユニットが搭載される予定だが、シャシーセッティングの不利を新規定マシン採用によって払拭できるのか、非常に興味深い。

 そして2024年のチーム・ペンスキーは、AJ・フォイト・エンタープライゼスと提携する。フォイトの2台体制はペンスキーのサテライト・チーム、あるいはセカンダリー・チームといった立ち位置になるという。

 この2チーム間では、ドライバーとエンジニアの双方を育成する機能が持たせられることになるようだが、収集データ量の増加を武器に、新規定マシンによる戦いでスタートダッシュを成功させたい……という思惑なのだろう。

 フォイトの2023年のドライバーはサンティノ・フェルッチとルーキーのベンジャミン・ペデルソン。ペデルソンは2年契約だったが、ペンスキーとの新体制となってもシートを維持できるのかはいまだ不明。さらに、フェルッチの残留があるのかないのかも現状では明らかになっていない。ただ、フェルッチの“インディ500参戦”のみは決定済み……という噂はある。

■期待される速さの獲得を目指すアロウ・マクラーレン

 シボレーエンジン勢でナンバーツーのチームとなっているアロウ・マクラーレン。来季も引き続き3台のフルエントリーを続け、パト・オワードとアレクサンダー・ロッシに加えてマルーカスを走らせることとなった。

 エース格のオワードが2023年シーズンは一度も勝つことができず、新加入のロッシは、まだチームやマシンに慣れていないこともあってか期待に沿う戦績を残すことができなかった。

 そのなかで、新たにスピードとレースセンスを備えるマルーカスは、トップレベルのマシンを与えられてどんな走りを見せるのだろうか。また、彼の加入は果たしてマクラーレンにどんなプラス要素をもたらすのか。

 2023年のマクラーレンは、2台から3台への体制拡大が想定通りにうまく行かずパフォーマンスにも影響していたと言える。そのため、2024年目の彼らの第一の目標はチームをフルに機能させることだろう。さらに、フンコス・ホーリンガー・レーシングとの技術提携(アンドレッティとシャンクの関係性に似たものになる?)も彼らは検討中だ。

 そのフンコス・ホーリンガー・レーシング(JFR)は、2023年最終戦ラグナセカでカラム・アイロットがチーム史上ベストとなる5位フィニッシュを達成。ルーキーのアグスティン・カナピノはツーリングカー出身ながら、最終戦で3位フィニッシュも可能、という走りを見せていた。

 これらふたりのドライバーたちは残留の見込みだ。マクラーレンとの技術提携がなされれば、チームのエンジニアリングは大幅に強化され、チームとしての実力も向上し、上位で戦うレースが増えることになるだろう。

 最後はエド・カーペンター・レーシング。すでに彼らの期待の星であるリナス・ヴィーケイの継続参戦は確定しており、オーナー兼ドライバーのエド・カーペンターのオーバルのみの参戦も続ける計画のようだが、カーナンバー20のドライバーが未定だ。

 このチームと話をしているのはアンドレッティのシートを失ったグロージャンとデフランチェスコ、そして今年のインディNXTでチャンピオンになったクリスチャン・ラスムッセンらだ。

 2023年シーズンを終え、早くも動き出したインディカー・シリーズ。2024年シーズンは、ハイブリッド機構を搭載した新型パワーユニットの搭載に、大きく入れ替わるドライバーラインアップと、大きな変化を遂げて心機一転の開幕を迎えることになりそうだ。


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  • 琢磨にシートを確保できないならHONDAはワークス待遇をやめてカスタマー扱いすべき
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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