納車の際の花束やシャンパン(ノンアルコール)贈呈に始まり、オーナー専用のラウンジ、無料の手洗い洗車や駐車場利用など、「レクサス」ディーラーでの“おもてなし”は、いまや高級ブランドのホスピタリティにおけるお手本とも言われ、そのホスピタリティは自動車作りにも色濃く反映されている。
レクサスに限らず、そもそもトヨタ車の高級車ラインアップには、かねてから、ときには過剰とも思えるような豪華装備が採用されてきた歴史がある。
「お・も・て・な・し」と書いてトヨタ車と読む!? 受け継がれる豪華装備とは?
今回は“もてなしの権化”こと、トヨタの高級車における豪華装備を振り返ってみたい。
文/藤井順一、写真/トヨタ、FavCars.com
給湯、製氷、冷温蔵庫までビルトイン! クルマとは“移動するバー”である
トヨタ・ハイエース(100系)のカタログ。一部グレードにオプション設定されたセンターコンソールに配置可能な「湯沸かしポット・アイスメーカー付冷温蔵庫」をはじめとした豪華装備がてんこ盛り
1989年“トヨタの、もうひとつの最高級車。”というカタログコピーで誕生した「トヨタ・ハイエース(100系)」。
注目したいのは「スーパーカスタム リミテッド」。このグレードは7名乗車のセカンドシートを横向き、対面など多彩なシートアレンジが可能で、上質なモケット地のシートとあわせ、さながら“動くラウンジ”のようだった。
さらに、センターコンソールには製氷、冷蔵、温蔵機能、さらに湯沸かし機能ポットを備えた「湯沸かしポット・アイスメーカー付冷温蔵庫」がオプション設定されていた。
当時、氷や熱湯を走行中の車内でどのようにやりとりしたのか、オーナーに使い勝手を聞いてみたくなるのは筆者だけではないだろう。
ベロア調のシートに製氷機能となると、まるで昭和レトロなスナックで水割りでも出てきそうな雰囲気に思えてしまうが、これが当時は同乗者へのもてなしの最先端だったのだ。
製氷や湯沸かし機能はともかく、この時代以降、トヨタの高級車には伝統的に保冷庫がオプションで設定されてきた。
その代表は「トヨタ・クラウン」や「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」といったモデルだが、いまだバックオーダーを抱えている「トヨタ・ランドクルーザー(300系)」にもメーカーオプションとして「クールボックス」が設定されている。
センターコンソール後方に、500mlのペットボトルを6本程度冷蔵可能で7万円強の価格は妥当なのか評価は分かれるだろう……。
“24時間働けますか”を具現化! 電話、ファックス完備の移動オフィス
初代セルシオのカタログ。自動車電話やファクシミリ、カラー液晶TVなど、当時としては最先端のデバイスをオプションで設定していた
高級ミニバンである前述のハイエースと対をなす最高級車として、同年トヨタがデビューさせたのが初代「トヨタ・セルシオ」だった。
「センチュリー」を除けば、“アガりのトヨタ車”だった「クラウン」を超える旗艦車であり、“高級車の新しい世界基準。”を謳い誕生したセルシオ(※特にC仕様Fパッケージ)。
実質的ライバルだった「日産・シーマ」がドライバーズカーだったのに対し、後部座席でのくつろぎやビジネスシーンでの機能性や機動性を重視していた。
後席の電動パワーシートには、当時の国産車では目新しかったマッサージのバイブレーション機能とシートヒーターを内蔵。後席から助手席をコントロールし、レッグスペースや前方視界を拡張できたうえ、エアコンなどの空調やオーディオも後席を配慮した設計だった。
後席のセンターアームレストには各種操作ボタンが集中配置され、その横には後部座席用の「自動車電話」も設置可能。助手席グローブボックスには「自動車ファクシミリ」まで搭載可能で、まさに“24時間働けますか”な、モバイルオフィスのルーツと言えるものだった。
そう考えると、タイヤノイズや外部からの騒音を抑えるセルシオの静寂性は、仕事に集中したり、休息をとりやすくすることにも寄与していたのだろう。
ホームシアターか高級ラウンジか!? 自宅のようなくつろぎを
トヨタ車として初採用となったアルファード/ヴェルファイアの「LEDルーフカラーイルミネーション」が車内を上質に彩る
自動車における贅沢な装備品としてマッサージ機能をあげるクルマ好きも多いだろう。初代セルシオの「C仕様Fパッケージ」にも採用されていたが、搭載されていたのは後部左側座席のみだった。
そして時代は変わり、現行「レクサス LS」は、後左右席はもちろん(※後席は一部グレード)、なんと前席までマッサージ機能を備えている。
LSの「フロントリフレッシュシート」は、前席向けのマッサージ機能で、シートバックとシートクッションに内蔵したエアブラダー(空気袋)を膨張させることで、背中から大腿部を押圧し心身をリフレッシュさせてくれる。
後席はさらにグレードアップ。押圧に加え、肩部と腰部に専用のヒーターを設置し、合計7つのコースを設定する「温感リラクゼーション」が搭載されている。こういう気遣いがニクいのである。
また、今でこそ当たり前になった室内の間接LED照明。航空機を思わせる上質な空間演出をトヨタ車として初めて採用したのもラグジュアリーミニバンとしての立ち位置を明確にした、2015年発売の「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」だった。
LED灯の技術的な進化で、色変更や調光をカスタマイズできるようになったことで、日本でもトヨタ・アルファード/ヴェルファイアが国内で初めて採用、それが「LEDルーフカラーイルミネーション(色替え+調光機能付)」だった。
後席の頭上空間をUの字型に光のラインで囲うLEDライトは全16色、4段の調光機能を備え、同車の上質な室内空間を象徴するアイコンとなった。
アルファード/ヴェルファイアはこの他にも、助手席や7人乗り仕様の2列目シートにおけるオットマン付き電動シートや、合計17個ものスピーカーを備えたメーカーオプションのオーディオ「JBLプレミアムサウンドシステム」など、車内での過ごし方を根本的に変えるような装備を次々に打ち出した。
高級車=4ドアサルーンという日本人のイメージを一新し、政府要人や芸能事務所の定番送迎車となった。まさに“いつかはクラウンからいつかはアルファード/ヴェルファイア”となったことは、ご承知のことだろう。
この初夏にフルモデルチェンジを予定しているアルファード/ヴェルファイアだが、次はどんな上質装備でユーザーを驚かせてくれるのだろうか。
レクサス LMはトヨタ車のおもてなしのココロの集大成か!?
レクサスLMの市販車最大級となる、ド迫力の大型ワイドディスプレイ。自宅のテレビより大きい!! という人も多いのでは?
先日上海モーターショーで発表され、今年秋に上陸が予定されている「レクサス LM」。“ラグジュアリームーバー”の頭文字から取った車名が意味するのは極上の移動空間だが、注目したいのは4人乗り仕様だ。
欧米ではミニバンのような多人数乗車のクルマを“ピープルムーバー”ともいう。広い居室空間は大勢を効率良く乗車させるためのものであり、シートアレンジなどは可能であってもそれ以上の機能性を備えたものは少ない。
一方、LMはその後部座席の空間をエグゼクティブのための、パーソナルなプライバシー空間と位置付けたのだ。これにより2020年に販売を開始した初代LMは、主に中国やアジア地域でヒットし、日本へ凱旋を果たすという。
まず目を奪われるのは、リア席前方に配された48インチ大型ワイドディスプレイだ。これは世界最大級のサイズで、各種エンターテイメントの他、オンラインでのビジネスミーティングに対応したものだという。
フロント席とリア席の間には昇降式スモークガラスによるパーティションで仕切られており、その下部のキャビネットにはスピーカーやシャンパンボトル2本が収まる冷蔵庫を内蔵したキャビネットまで完備している。
広大な後部空間に設置された左右独立式のオットマン付き専用大型シートは、脱着可能なタッチ式のコントローラーにより、シートポジションからオーディオ、照明、エアコンなど各種設定が可能で、アームレストには格納式のテーブルまで備えるなど、そのもてなしは航空機のビジネス/ファーストクラスさえ凌駕するものだ。
前後席をパーティションで隔てた密室なんて、筆者には現実味がなさすぎてイヤらしい想像しか浮かばないが……。LMへ乗り替える予定の方々にはぜひ健全に仕事に使っていただきたいものである。
成功者が乗るから豪華なのか、豪華だから成功者が乗るのか
そもそもなぜ、トヨタ車の装備には他社よりも際立って豪華なものが多かったのか。これは、政官財、各界のVIP専用車として、トヨタの「クラウン」や「センチュリー」が選ばれてきたことと無関係ではないだろう。
いわゆる「ショーファードリブン (自分自身で車を運転するのではなく、雇われの専属ドライバーに運転してもらうこと)」の対象となってきたことが、今日、トヨタ車の高級車に際立ったラグジュアリー装備を与える礎となっているのは間違いない。
現在、その地位は高級ミニバンであるアルファード/ヴェルファイアへと受け継がれているが、トヨタの豪華装備のルーツはバブル絶頂の時代に花開き、新型「レクサス LM」として、ある種の極みに達しそうである。
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みんなのコメント
そのうえマナーの悪い車なんかは白線はみ出して停めるから勘弁して欲しい、走っているときも変に視界をふさぐし。
ところで「お・も・て・な・し」のに中点って何の意味があるのですか?何をアピールしたいのですか?