マルク・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)のドイツGPは、波瀾万丈なものとなった。ザクセンリンクの風はマルク・マルケスにとって逆に吹いているようだったが、最終的に、追い風に変えてみせた。ザクセンリンクでの12回目の優勝こそならなかったが、2位を獲得した決勝レースの表彰台には、弟のアレックス・マルケス(グレシーニ・レーシングMotoGP)とともに上がった。その光景は、確かにセンセーショナルだった。
「完璧な週末にできたら、(ホルヘ・)マルティン、ペコ(フランセスコ・バニャイア)と戦うチャンスがあるだろう」
得意のザクセンリンクで転倒のM.マルケス、負傷の状態と土曜日の走行は/MotoGP第9戦ドイツGP
左回りのサーキットであるザクセンリンクを大の得意とするM.マルケスは、木曜日の会見で、そう語っていた。
しかし、実際には「完璧な週末」とは逆の週末だった……少なくとも、土曜日までは。M.マルケスは金曜日午後のプラクティス中、11コーナーでハイサイドを喫して激しく転倒した。この転倒によってM.マルケスは左手の人差し指の小さな骨折と、肋骨に打撲を負っている。さらには、技術的問題も発生していた。
「今週末は、ガレージ内で起こりうる全てのことが起こってしまった。起こりうる全てのメカニカル・プロブレムが今週末に起こった」
プラクティスのクラッシュは、「全てが絡み合って起こった」と言う。
「コースインしたけど、メカニカル・プロブレムがあったので戻って、タイヤをもう一台のバイクに付け替えた。メカニックはウオーマーをつけてくれたりしたけど、タイヤがちゃんと温まらなかったんだ。コースインとアウトを繰り返していたからね。風の影響もあって、あのコーナーではゆっくり走っていたんだけど、残念ながらフロントが切れ込んでしまった。そういういくつかの理由があって、ハイサイドを喫したんだ」
転倒する瞬間、M.マルケスは、「だめだ、(クラッシュを)避けなくちゃ」と考えた。ピットにあるもう1台のマシンは、問題を抱えている。走れる状態ではなかった。つまり、ここで今走らせているマシンを失えば、もうプラクティスを続けられない。しかし、M.マルケスはそのままハイサイドを喫した。
翌日土曜日のQ1の最中には、ピットに戻った際にM.マルケスが両手でバツを作っている様子が映像にとらえられている。これはフィジカル面に問題があったのではなく、2回目のアタック用のタイヤに技術的問題があることを訴えていたのだ。
「Q1では2セット目のタイヤにはメカニカル・プロブレムがあった。だから、このバイクはだめだ、もう一台のバイクに変えよう、と言ったんだ」
こうした要因によってクリアラップを逃したM.マルケスはQ2進出を逃し、13番グリッドとなった。オーバーテイク・ポイントが少なく難しいザクセンリンクでは、いかに30周という長丁場のレースとはいえ、厳しいグリッドポジションである。
ここまで聞くと、散々、と言ってもいい週末だが、M.マルケスは日曜日の決勝レースを、それまでのネガティブ全てを帳消しにするものにした。確かに優勝はできなかった。ただ、この週末を鑑みれば2位という結果はさすが、の一言に尽きるだろう。
さらには、弟であるアレックスが3位となってともに表彰台に立ち、1997年イモラGPでの青木宣篤(2位)、青木拓磨(3位)以来となる、最高峰クラスでの兄弟揃って表彰台獲得を果たした。
ここでM.マルケスの決勝レースに触れる前に、トップを快走しながら残り2周の1コーナーで転倒を喫したホルヘ・マルティン(プリマ・プラマック・レーシング)の話をしよう。そのとき、確かに後方から2番手のフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)が追い上げていたが、まだ0.5秒の差があった。マルティンはなぜ転倒したのだろうか?
「理解するのが難しい。分析に時間が必要だ」と、レース後にマルティンは言った。転倒には驚いた、と言う。マルティンは、全てがコントロール下にあり、完璧に走っていた、と考えていた。だが、後ろからマルティンの走りを見ていたバニャイアは、マルティンがハイペースだと感じていた。
「このサーキットは、一部のコーナーでブレーキングがとても難しいんだ。1コーナーと12コーナーがとてもトリッキーで、フロントがかなり動くし、ロックする。1コーナーで彼がワイドになったのは2回目で、12コーナーでもそうだった。彼のペースはすごく速かったけど、ワイドになる可能性があると思っていた」
ドイツGPを優勝で終えたバニャイアは、この結果により、チャンピオンシップのランキングトップに浮上した。
さて、こうした状況が絡み合って、センセーショナルとも言えるM.マルケスの2位、マルケス兄弟の表彰台獲得となったわけだ。M.マルケスは、土曜日の時点では強力な痛み止めを服用してスプリントレースを走っていた。この日は5周以上も走ると、深呼吸をしたときにひどい痛みがある状態だった。肋骨が凝り固まっているような状態で、息をするのも難しかったという。
「この週末はとても難しかった。いい週末ではなかったよ。でも、2位になったことが全てをカバーしてくれた」と、M.マルケスはトップ3会見でレースを振り返った。
「ドクターと理学療法士がとてもいい仕事をしてくれた。朝起きたら、よくなっていたんだ。ピットでチームに『今日は思ったように走れる』と伝えたよ。ただ、13番手からのスタートでは全てがとても難しかった。フロントタイヤの内圧をマネージメントするのも大変だった」
そして、「もし初日に『きみは勝てないけど、弟と一緒に表彰台に乗るよ』と言われても、『ふうん』と返しただろうね」と笑った。
一方、兄マルクとともに表彰台に上がったアレックスは、自分としても表彰台を獲得できるとは思っていなかったという。「マルクと一緒に表彰台に立ててうれしいよ」と、満面の笑みで答えていた。
会見では兄マルクが「もしかしたら、(アレックスと)一緒に表彰台に上がるのはこれきりかもしれない。わからないけどね。だからこの“ラスト”を楽しむよ」と言い、「そうじゃない?」と弟に問いかけて「そうだね」とアレックスが応じるなど、仲の良い兄弟ぶりを見せていた。二人揃って世界最高峰のMotoGPを走るトップライダーだが、そんなやりとりには、少しばかり彼らの家族的な空気が混じる、微笑ましいものがあった。
M.マルケスは「(プラクティスでの)11コーナーでの転倒がなければ、僕のパフォーマンスは変わらなかっただろう」とも言う。おそらくは彼自身も期待したような結果ではなかったのだろうが、しかしその結末は、やはりドラマチックだった。
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