この記事をまとめると
■マツダCX-60の直6ディーゼルモデルとPHEVモデルに試乗
【試乗】CX-60 PHEVは車格にマッチしたジェントルなパワーユニット! 充電設備が自宅にあるならアリな選択だった
■CX-60の中で例えれば直6ディーゼルモデルは「ライトウエイトスポーツ」のような走り
■一方のPHEVモデルはGTカーのような味付けと例えられる
直6+FRのパッケージは家族持ちのためのスポーツSUV
マツダCX-60のマイルドハイブリッドモデルを初めて走らせたあとに心に残っていたのは、3.3リッターの直6ディーゼルターボなのにビックリするくらい燃費が伸びたことと、ワインディングロードがめちゃめちゃ楽しいSUVだっていうことだった。僕としては結構な好印象だったのだ。
ただ、その乗り味に賛否両論があったのもたしか。車格から考えるとサスペンションが硬めで、そのうえ車体の動きの収まりがよろしくなくて落ち着かない、というような声を見聞きした。感覚が鈍いのか個体差が大きかったのか、じつはそのあたり、僕はあんまり気にならなかった。もう少ししなやかなあつらえでもよかったかも……と感じたところがなかったわけじゃないけど、それよりマツダらしい走らせる歓びが大柄なSUVからもちゃんと感じられて、それが嬉しかったのだ。賛否でいうなら、断然“賛”だったのだ。
そして今回、マイルドハイブリッドを持たない3.3リッター直6ディーゼルターボのモデルと2.5リッター直列4気筒ガソリン+プラグインハイブリッドのモデルにも試乗することができたのだけど、やっぱり“賛”な気持ちに変わりはない。3.3リッター直6ディーゼルターボ+マイルドハイブリッド、3.3リッター直6ディーゼルターボ、2.5リッター直列4気筒ガソリン+プラグインハイブリッドと、それぞれ別のキャラクターが同じベクトルの上に並んでいたことに感心させられたほどだった。
まずは3.3リッター直6ディーゼルターボを積む、CX-60 XD SKYACTIV-D 3.3からお話を進めていこう。このXD、ひと言でいうならマイルドハイブリッド機構を持たない“素”の3.3リッター直6ディーゼルターボ搭載車ということになるのだけど、走らせてみると、単に電動系のデバイスを取っ払っただけのモデルには思えない。ピュア内燃エンジンのモデルにはディーゼルにもガソリンにもFRと4WDが用意されていて、試乗車がそのFRのモデルだったこともあるのだろうが、最初に3.3リッター直6ディーゼルターボ+マイルドハイブリッドのモデルで感じた以上にスポーティなフィーリングを感じさせられたのだ。こちらのほうがパワーもトルクも低いというのに、である。
マイルドハイブリッドモデルと“素”のモデルは、同じ内燃エンジンでありながら、そのチューニングが異なっている。マイルドハイブリッド用の254馬力/3750rpmと550Nm/1500-2400rpmに対して、231馬力/4000-4200rpmと500Nm/1500-3000rpm。単純に数値だけを較べると23馬力と50Nmほど素のモデルのほうが低い設定なのだ。その反面、クルマが軽い。最軽量モデル同士で較べるとマイルドハイブリッドの1910kgに対して1790kgと、120kgも違っている。“素”のなかのもっとも重いモデルですら、マイルドハイブリッドの最軽量モデルより20kg軽いのだ。この軽さは間違いなくアドバンテージとなる。
そのうえ、シャシーのセッティングの違いだ。バネレートやダンパーの減衰を変更するのはもちろんだけど、何とリヤのスタビライザーを外して3つのピロボールのうちのひとつをブッシュに変更するなど、かなり念入りな調律が行われてるのだ。このあたりを妥協しないあたりがマツダらしい。もちろんロードスター990Sに引き続き採用されたキネマティックポスチャーコントロールは、このクルマにも備わっている。
走りっぷりは、ひと言で表すなら軽快、だろうか。モーターを持たず、エンジンのアウトプットも抑えられたモデルではあるが、その加速にストレスはなく、力強さの面でもスピードの面でも不満は沸いてこない。500Nmのトルクを幅広いレンジでキープし続ける性格と、やはり軽さが効いているおかげだろう。もちろんその場で乗り比べたりしたら力強さとスピードでマイルドハイブリッドモデルに軍配が上がることがわかってしまうだろうが、走らせる気持ちよさの面では一歩も引けを取っていない。むしろあらゆる意味で振る舞いが自然だから、そこに好印象を抱く人も少なくないだろう。
それ以上に印象がいいのは、やはりハンドリングだ。右へ左へとコーナーが続くように滑り込んでいくと、次から次へと素直に滑らかに身を翻して曲がっていく。背の高さや車重を意識させるような動きはほとんどなく、路面をしっかり捕らえながら、極めて安定した姿勢でスルッと曲がっていく。そこにはロードスター、それも990Sに通じるような楽しさと気持ちよさがたしかにあって、思わず嬉しくなってしまった。家族持ちのためのスポーツカー、と言ったらホメ過ぎだろうか?
PHEVは例えるならGTカーのような仕上がりだ
もう一方のプラグインハイブリッドは、前述のとおり2.5リッター直列4気筒ガソリンエンジンにモーターを組み合わせたモデル。直4エンジンを縦置きにして、クラッチ、駆動モーター、クラッチ、8速ATというレイアウトで、FRをベースとした電子制御式の4WDだ。2.5リッターエンジンは188馬力/6000rpmと250Nm/4000rpm、モーターは175馬力と270Nmで、システム合計では327馬力に500Nmとなる。
ちなみにEV状態での走行可能距離はWLTCモードで75km、満充電までは3kWの普通充電で約7時間、6kWで約3時間、急速充電では20%から80%まで約25分と発表されている。
走ってみての大きく気持ちに残った印象は、まず“街なかではほぼEV”ということ。充電量がちゃんと残っていれば、アクセルペダルをグッと踏み込みでもしない限り、静々とモーターだけで走行を続けることができる。EVモードもあるのでそちらを選ぶこともできるが、ノーマルモードでも穏やかに走る限りはほとんどがEV走行といっていいだろう。その状態でも、しっかりした力量を湛えてることを意識させるように、滑らかに加速していく。
そしてもうひとつはスポーツモードに切り換えたときの速さである。思いのほか心地のいいサウンドを聞かせながら、強力な加速を味わわせてくれるのだ。0-100km/h加速は5.8秒。その数値はシリーズのなかで断トツ、である。とはいえ、その加速の伸びは高速道路の本線合流時ぐらいでしか楽しめないので、コーナーからの立ち上がりなどで実力の恩恵にあずかってニンマリさせてもらうことになる。
プラグインハイブリッドモデルも、コーナリングパフォーマンスは高い。軽やかに入っていく鼻先、力強く蹴り出す後輪、狙ったラインをトレースしやすくしてくれる前輪への駆動トルク。最軽量グレードで比較するとマイルドハイブリッドより130kg、“素”のディーゼルより250kgも車重が重い計算だが、それは乗り心地の落ち着き感に効いていて、マイルドハイブリッドより重厚にして快適な印象だ。それに重量物が低い位置に集中し、重量バランスを意識してレイアウトされてるので、前後と左右の重量配分も良好。適度に押さえ込まれたロール感とともに、コーナーを見事に安定した姿勢で、気持ちよく曲がっていくことができる。コーナリングスピードも結構なものだ。
そういう意味ではもっともスポーティなCX-60といえなくもない。ただし、“素”のディーゼルをたとえば“ライトウエイトスポーツカーのよう”とあえて表現するなら、こちらはその重厚な乗り味などから“高性能なGTカーのよう”と表現したくなるようなキャラクター。この2モデルほどはっきりしてはいないが双方のいいところをしっかり兼ね備えてるマイルドハイブリッドもあるわけで、CX-60のラインアップには見事に異なる個性が並んでいることになるわけだ。
それが美しいと形容しても異論が出てこないスタイリングと上質なインテリアを持ち、マツダらしい走りの気持ちいい走りを味わわせてくれるプレミアムSUVという同じベクトルの上に乗っている。ライバルとなる欧州勢にも負けていない存在感を漂わせ、それでいて299万2000円から626万4500円と価格帯はなかなかリーズナブルでもある。
このクラスのSUVを狙っている人にとってはかなりバリューの高いモデルだと思う。
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