マニアック評価vol.679
三菱の軽自動車、「eK」シリーズが6年ぶりにフルモデルチェンジし、ハイトワゴンの「eKワゴン」、「eKクロス」が登場した。これまでのカスタム・シリーズは終了し、代わりにこのクロスが新たに加わったが、その仕上がりはどうか、両車に試乗してみた。
先代モデルと同様に、今回のシリーズも日産、三菱の合弁会社「NMKV」で企画され、設計・開発は日産が担当し、デザインはそれぞれが独自に行ない、生産は三菱が担当するという共同開発モデルで、今回はプラットフォーム、エンジン、トランスミッションなどもすべてゼロから開発されているので、それらのパフォーマンスはどうか、気になるところだ。
パッケージングと実用性
先代モデルと同様に、今回のシリーズも日産、三菱の合弁会社「NMKV」で企画され、設計・開発は日産が担当し、デザインはそれぞれが独自に行なった。そして生産は三菱が担当するという共同開発モデルで、今回はプラットフォーム、エンジン、トランスミッションなどもすべてゼロから開発されている。したがって、それらのパフォーマンスはどうか、気になるところだ。
今回登場したのは軽自動車ハイトワゴンで、eKワゴンがベーシックモデル、eKクロスがSUVテイストの個性派モデルだ。直接の競合モデルはホンダのN WGN、スズキのワゴンR、ダイハツのムーヴとなる。
デザインとしては、軽自動車の規格の中で、より個性的な表情が感じられ、立体感も作り込まれており、独自の主張がある。さらにeKクロスは、デリカD:5 とも共通する存在感の強いダイナミックシールド・フェイスを持ち、三菱らしさを強調した。
インテリアは、最新のパッケージングによる居住スペースの広さ、質感の高さ、そして実用性能としての収納スペースの充実が特長だ。シートに座ってみると軽自動車とは思えないほど腰椎部分の支持がしっかりしており、長時間の運転でも疲れが少ない。
一方で、リヤシートの座面はかなり低めになっている。これは子供や高齢者が乗り降りしやすいように、あえて低めており、さらにシートの左右端も角を丸めるなど乗降性がよく考えられている。もちろんリヤシートの足元スペースは大型セダンを上回る広さで、室内長を最大限に延長した効果が得られている。運転席に座ってみると、ボディの左右幅が軽自動車サイズというだけで、インテリアの質感や仕上げは軽自動車のレベルを超えているということができる。
軽自動車の常識を破る操舵フィーリング
試乗したのはeKワゴン G(先進安全パッケージ+先進快適パッケージ付き)と、eKクロス Gの4WD(先進安全パッケージ+先進快適パッケージ+有料色+ルーフレール付き)だ。メーカープションの先進安全パッケージ(MI-PILOT+電動パーキングブレーキなど)、先進快適パッケージ(デジタルルームミラー+マルチアラウンドモニター表示機能付)で、ほぼフル装備となり、これ以外にインテリアの質感をさらに高めるプレミアムインテリアパッケージも設定されている。
動き出してまず感じるのはステアリングのフィーリングのよさ、剛性感の高さだ。その理由は電動パワーステアリングに中型車クラス並みのブラシレス・モーターを採用していることだ。実はアダプティブ・クルーズコントロール「MI-PILOT」を採用するのに合わせてパワーステアリングを大容量化しているのだが、これは操舵フィーリングの質感向上に大いに役立っている。
また、このパワーステアリングはハンドル戻し制御も採用されており、低速では操舵力が軽い上に自然にステアリングが戻しやすいようにチューニングされている。このあたりは目立たない所だが渋いチューニングで、高齢者や女性でも扱いやすい。
乗り心地も、軽自動車の枠を超え、小型車レベルだ。サスペンション系の剛性感、ストロークの滑らかさなどは軽自動車としてトップレベルであることはもちろん、小型車に比べても遜色ないと感じられた。特にekワゴンはしなやかなサスペンションで、一方、4WDのekクロスはそれより少しスポーティ方向に振ったセッティングになっており、しっかり感、フラット感が強められている。
加速性能と乗り心地
ルノーの3気筒エンジンをベースに開発されたオールニューのエンジンはどうか? 最初はeKワゴンの自然吸気エンジンに乗ってみた。アクセルの踏み込みに対して素直に応答し、加速フィーリングは市街地でも扱いやすい。先代のエンジンに比べ全域でトルクが向上しているので、加速時のタイムラグもなく素直に加速することができ、軽快感のある加速ということができる。
次はターボエンジンのekクロスだ。ターボエンジンはeKクロスだけに設定されているが、当然ながらより強力なトルクだ。ただ4WDのため、発進時などにはFFモデルよりは車両の重量感を感じた。FFモデルと4WDでは約60kgの重量差がある。FFモデルのターボエンジン車なら、強力なトルクを生かしてさらに軽快な走りが体感できるはずだ。
CVTトランスミッションもこのクルマのために新たに開発された。より軽量・コンパクトになり、変速の応答性も高められている。特に常用域での動き出しのスムーズさ、リニアな加速感がCVTであることを感じさせない。ただ、さらにアクセルを踏み込むとスリップ感が顔を出す。しかし、さらにアクセルを踏み込むとあたかもギヤチェンジをするようなステップ変速を味わうことができる。軽自動車初の可変速CVTだ。
ただし、この疑似ステップ変速に切り替わるのはアクセルを3/4以上に踏み込む必要があり、イメージ的にはほぼ全開時に作動する感じだ。実際には軽自動車ユーザーが市街地でアクセル全開にする運転モードはそう多くないのでちょっともったいない気がした。
新開発パワートレーンは、加速性能も高いレベルにあるが、それよりもっと評価すべきはエンジンノイズのまろやかさと振動感が抑えられていることだ。軽自動車の場合、加速時にはエンジン回転数が高くなりがちで、その時点でエンジンの機械的なノイズや振動感が感じられることが多く、これがストレスで軽自動車的なフィーリングを生み出しているが、この新パワートレーンは耳に入る騒音の棘が丸められ、心理的な圧迫感が低められており、微振動感もよく抑えられていた。
もちろん車内の騒音レベルを抑えるために様々な対策が加えられているが、パワートレーンそのものや、エンジン/トランスミッションの結合剛性の大幅な音質の向上による効果が大きく貢献しているのだ。
運転支援システム
eKシリーズのアピールポイントは、MI-PILOTとデジタル・ルームミラー/マルチアラウンドモニターが設定されていることだ。兄弟車の日産デイズと比べ、デジタル・ルームミラーが設定されている点がeKシリーズの特長だ。三菱の名称「MI-PILOT」は、日産のプロパイロットそのものだが、衝突回避・被害軽減ブレーキ、車線逸脱警報、オートライト、ペダル踏み間違い衝突防止システムなどの安全システムを大きく発展させ、全車速対応のアクティブクルーズコントロール/車線維持操舵アシストが先進安全パケージとして装備できることは、ライバルに対して大きなアドバンテージだ。
実際に使ってみると、前走車に追従する、車線を維持する、渋滞時などで前走車が停止し、再発進するといった一連の流れがスムーズで、ストレスなく使用できた。車線の中央を維持する操舵アシストの介入の具合もちょうどよい感じで扱いやすい。
クルマとしての基本性能の大幅な向上と、このMI-PILOTの存在で、eKワゴン/eKクロスの商品力は大幅に向上し、室内のスペースの広さ、走り、運転支援システムの完成度などどの点を取り上げてもBセグメントの小型車に引けを取らない存在になったということができる。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
ek X 諸元表
ekワゴン 諸元表
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