「日産復活、復権のリーダーシップをとれ」。現在の日産にあってもなお、世界が憧れるブランドがGT-R。その最高峰に位置する2020モデルをじっくり試す。
2007年、浜松近郊にある小さなサーキットで、デビュー直前の「GT-R」に乗った。参加したジャーナリストたちの誰もが、この日を待っていたのだ。2001年の第35回東京モーターショーで「GT-Rコンセプト」が登場し、国産最強を謳うスポーツカーの存在が明らかなった。さらに2003年にはあのカルロス・ゴーン氏が、完成の暁には2007年に発表・発売を行うと約束した。そして2005年に「GT-R PROTO」が東京モーターショーに出品され、いよいよカウントダウン開始か、と思った。さらに、そこから2年も待たされたのだから、期待度の高さも分かろうというもの。
流麗なフォルムが美しいLEXUSのフラッグシップコンバーチブル「LC500 Convertible」
おまけに試乗会場はサーキットである。GT-Rは当初から国内主要サーキットではGPS連動で180km/hのスピードリミッターを解除できたのだから、思いっきり振り回せると、と張り切っていたジャーナリストも多かった。その時点で7年あまりも待ったのだから、それぐらいのご褒美はあってもいいだろうとテストカーに乗り込んだ。ところが助手席には、日産関係者が乗り込み、私たちが無茶をしないかと監視役同乗のテストとなった。
結局は、公道よりは少しだけ速いペースで走るというテストになった。ところが軽く流しながらも、垣間見せる最高出力480馬力による強烈な加速力、4輪で路面をガッチリと掴んでのコーナリングの抜群の安定感、そしてガツンと効いてくれるブレーキ性能の高さに驚かされたのだ。これがもし名実ともに自由にサーキットを走ったら、とんでもないことになるかも。そんなことを容易に想像できるほどのパフォーマンスを見せてくれたのだ。想像を遙かに超えた楽しさを味わいながら周回を重ねる。助手席のスタッフも気が気では無かったかもしれないが、これほどの安定感があれば、破綻はないだろうと言い訳をしながら、ペースは上がっていった。
試乗を終え、クルマを降りてからも、しばらくは興奮状態が続いた。少し落ち着いたところで、ある古刀が思い浮かんだ。16世紀中盤から活躍した九州肥後の刀工集団、同田貫(どうだぬき)のことである。作風は華美な装飾を抑えた実用本位、質実剛健の剛刀。頑丈で切れ味がよいという、刀本来の性質を徹底して追い求め、研ぎ澄ませた存在である。GT-Rはまさにそれで、クルマの本質「走りを極める」ために生まれてきた剛の者だった。
さらに鍛え上げられていた名刀
発売と同時に日本ばかりか海外のスポーツカー好きから熱狂的な支持を受け、なんとデビューから14年が経過したいまも、その人気はほとんど色あせていない。正直に言えば、ここまでGT-Rが進化を続け、世界中から高い評価を得つづけるスーパースポーツになるとは想像していなかった。
初期モデルの最高出力480馬力も、2017年モデルでは570馬力に到達。スペシャルモデルの「NISMOモデル(以下ニスモ)」は600馬力を発生するまでになり、どちらも現在までそのパワーを維持している。
価格も初期モデルは777万円だったが、今ではノーマルモデルで1082.84万円からであり、最高峰のニスモは2420万円(20年モデル)というプライスタグが下がる。14年間の性能の進化、価格の推移にはやはり驚かされる。
そんなことを考えながら、ワンガンブルーと名付けられたボディカラーが塗られた最新のプレミアムエディションを走らせてみる。市街地ではいきなりアクセルをガツンと踏み込むのは危険。まずは慎重にスタートをすると、拍子抜けするほど静かに穏やかにスルスルッと加速が始まったが、力強さは十分に感じる。ずいぶんと冷静にアクセルを操作しながら走り出したつもりだったが、気が付くと交通の流れをリード、いや引き離すような場面がしょっちゅうである。調子に乗っているとライセンスがいくらあっても足りなくなる。
それにしてもパワーやトルクが初期モデルより大幅に上がったため、クルマの動きすべてが軽く感じる。あの浜松のサーキットでは力任せの印象が強かった走りも、一気にラウトウエイトスポーツへと変身したかのようだ。ヒラリヒラリという感覚で一般道を走り抜ける。コーナーに突入したところでブレーキをグッと踏み込む。これまた適正な効き具合がなんとも気持ちのいいブレーキングフィール。思ったとおりの感覚でしっかりと減速してくれる。
さらに気持ちがいいのはコーナリングだ。少しばかりオーバースピードで進入したワインイングのコーナーでも、まるでタイヤのグリップ力の限界に挑むかのようにキチッと粘り、曲がってくれる。ちょっぴりオーバースピードで突っ込んだコーナリング中でもブレーキによって意外なほど簡単にコントロールできるし、十分にリカバリーが効く。
当然、コーナーの立ち上がりではアクセルとグッと踏み込むと瞬時に加速体勢へと移行する。それも強力な加速Gを感じながらも、実に安定しているから恐怖感が少ないのである。
人によっては、この扱いやすさを「硬派なクルマとしての面白さがなくなった」という人もいるかもしれない。しかし、これからのスーパースポーツは、持てるパフォーマンスをいかにソフトにアウトプットするかも考えなければいけないと思う。サーキットならいざ知らず、一般道においてセーフティは第一優先である。しばらくするとGT-Rが体にピタリと一体となっていることに気が付いた。14年間に名刀はさらに鍛えられ、より鋭い切れ味を手に入れていた。いや日産のイメージを牽引する重要な存在にまでなっていたが、一方で「ひょっとしたらこれが最後」になるのでは、とも言われている。4月には2022年モデルのGT-Rニスモも先行公開された中でも、「どうやらニスモをベースにしたファイナルエディションを出して、GT-Rはそれで一端終了」などという噂は絶えない。もちろん世界は次世代のGT-Rにも期待している。
すっかり見慣れたGT-Rの顔は、高性能の証でもある。
迫力あるリアスタイルは
丸型4灯ランプとともに独特の存在感を発揮。
より軽く、より強靱に、2020年モデルにはレイズ製アルミ鍛造ホイールを装着。
オーソドックスなメーター類のレイアウト、デザインは視認性がいい。
ドライバーの意思と走行状況に応じ1~6速まで自動変速するアダプティブシフトコントロール(ASC)を採用。
基本的レイアウトなどは変わらないインテリア。
厳選されたレザーの質感と体にジャストフィットするシートの感覚が愉しめる。
足元は少し狭めだが、状態のホールド感は良好なリアシート。
進化を続ける3.8L V型6気筒エンジン。強烈な加速感を実現する。
わずか数名の選び抜かれた匠の手作業によりひとつひとつ組み上げられるエンジン。手掛けた匠のプレートが貼られている。
スペースも確保されたトランクで実用性も高い。
スペック
モデル名:GT-Rプレミアムエディション
価格:12,329,900円円(税込み)
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4,710×1,895×1,370mm
車重:1,770kg
駆動方式:4WD
トランスミッション:AT
エンジン:V型6気筒DOHC 3,799cc
最高出力:419kw(570PS)/6,800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3,300~5,800rpm
問い合わせ先:日産お客様相談センター 0120-315-232
TEXT : AQ編集部
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みんなのコメント
最後のガソリン車でのGT-Rというのもありますが
国産最強の車としていつまで君臨するのだろうか
また32の時のようにNSXやランエボのような強力なライバルに出てきてもらって、また国産車のスポーツ業界が盛り上がって欲しい
それと、この車を栃木の量産工場で生産するのも画期的な試み。
車の性能と言い、量産技術と言い、エポックメイキングな車だと思う。