■各社のミドルサイズミニバンで販売格差が生じた理由とは
最近はSUVの売れ行きが好調ですが、ミニバンも人気の高いカテゴリーのひとつです。国内で新車として売られる小型/普通乗用車の30%弱をミニバンが占めています。
しかも2022年以降は、ミニバンの注目度とお買い得度が大幅に強まりました。というのも、売れ筋のミドルサイズミニバンが一斉に新型へフルモデルチェンジしたからです。
2022年1月にトヨタ「ノア/ヴォクシー」、同年5月にホンダ「ステップワゴン」、同年11月に日産「セレナ」といった具合に、各車が相次いで全面刷新を実施。ミドルサイズのミニバンは、新型の出そろった今が買い時といえるでしょう。
ミドルサイズミニバンの売れ行きを見ると、車種ごとの差が大きいことがわかります。2023年1月から7月の1か月平均登録台数は、ノアが8604台、姉妹車のヴォクシーは8190台、セレナは6075台、ステップワゴンは2933台です。
このうち、ノアとヴォクシーは基本部分を共通化した姉妹車ですから、登録台数を合計すると1か月平均が1万6830台に達します。
トヨタの「ヤリスシリーズ」(コンパクトカーのヤリス+SUVのヤリスクロス+スポーツモデルのGRヤリス)を合計した1か月平均が1万6611台ですから、ノア/ヴォクシーはこれを上まわって小型/普通車の実質1位になるのです。
好調なノア/ヴォクシーと比べてライバル車は少々苦戦しています。セレナは1か月平均が6075台ですから、ノア+ヴォクシー販売台数の36%、ステップワゴンは2933台ですから同17%に留まります。
ノア/ヴォクシーとセレナ、ステップワゴンは、ボディサイズや動力性能が似ていますし、すべてのモデルでガソリン車とハイブリッド車を選べます。
発売時期もほぼ同じで、価格にも大きな差はありません。それなのに、なぜ売れ行きに大差が付いたのでしょうか。この背景には複数の理由があります。
前述の通りミドルサイズミニバンでは、外観、ボディサイズ、車内の広さ、シートアレンジといった基本的な機能が、いずれの車種でも似ています。従ってミドルサイズミニバンのユーザーは、車種を選ぶ時に迷いやすく、好調に売るには魅力的で分かりやすい特徴を備えることが大切です。
ノア/ヴォクシーはこの点を重視しており、例えばオプション価格が11万円前後の「トヨタチームメイト」を装着すると、渋滞時にステアリングホイールから手を離しても運転支援機能が作動するアドバンストドライブ、スマートフォンを操作することで車外から車庫入れなどが行えるアドバンストパーク、進化した衝突被害軽減ブレーキなどが加わります。
オプション価格が11万円前後の割に、プラスされる機能は豊富ですから、魅力的で分かりやすい特徴になっています。
このほかにも、スライドドアが開きかけている時にほかの車両が接近すると、ドアの作動を止めて降車時の事故を防ぐ「安心降車アシスト」、リアゲートを任意の角度で開き、後方が狭い場所でも荷物を出し入れがしやすい機能、オプション価格を3万3000円に抑えた「ユニバーサルステップ」(乗降用のサイドステップ)などがあります。
さらにフロントマスクは存在感の強いデザインで、ヴォクシーは個性をさらに際立たせるなど、ノア/ヴォクシーは基本的に同じクルマでも商品の幅を広げました。ノアには標準仕様も用意され、価格が一番安いガソリン車の「X」は、装備をシンプルに抑えて267万円です。
セレナは標準仕様を5ナンバーサイズに抑えて、シートアレンジも豊富です。最上級グレードの「ルキシオン」には進化した運転支援機能の「プロパイロット2.0」も用意しました。
また、ステップワゴンは走行安定性と乗り心地のバランスが優れているなど、もちろんライバル車にも優れた特徴がありますが、販売面では魅力の分かりやすいノア/ヴォクシーが絶好調です。
■ノアヴォクが売れてる理由はほかにもある?
ノア/ヴォクシーが好調な理由には、トヨタの販売店の数の多さがあります。
今はトヨタの全店で、ノアとヴォクシーを含めた全車種を購入でき、その店舗数は全国に約4600箇所あります。
ホンダの約2200箇所、日産の約2100箇所と比べると、販売網は2倍以上となり、そのためノアとヴォクシーは売れ行きも増やしやすいです。
単純にいえば、1店舗当たりの販売台数が日産やホンダと同じでも、トヨタなら登録台数が2倍に達するのです。
そんなトヨタは小型車や普通車がラインナップの中心となっており、ノア/ヴォクシーも販売しやすい点も挙げられます。
2023年1月から7月に国内で新車として販売されたクルマのうち、トヨタ車の比率は36%でした(レクサスを含む)。
ところが軽自動車を除いた小型/普通車に限ると、トヨタ比率は55%に急増します。トヨタは小型/普通車が中心のメーカーで、軽自動車は一部のOEMに限られるため、小型/普通車の販売ではトヨタが過半数を占めるのです。
一方、ホンダでは、国内で売られる新車の約40%が軽自動車の「N-BOX」で占められます。「N-WGN」なども含めた軽自動車全体では50%を超えており、そのために今はホンダのブランドイメージが「背の高い小さなクルマを造るメーカー」になりました。
なお、N-BOXの次に国内販売の好調なホンダ車は「フリード」です。発売から約7年を経過したフリードが、ステップワゴンや「フィット」「ヴェゼル」などよりも多く売られている理由は、今のホンダのブランドイメージに合っているからだといえるでしょう。
つまりステップワゴンは、今のホンダ車のイメージでは大きすぎるのです。「ホンダでミニバンを買うなら、ステップワゴンではなく小さなフリード。大きなミニバンならトヨタか日産」とユーザーが感じているというわけです。
日産は、ホンダほど軽自動車比率は高くありませんが、それでも国内で新車として売られる日産車の40%を占めます。セレナは日産の小型/普通車では登録台数が多い部類に入りますが、前述のようにノア/ヴォクシーには及びません。
そして、ノア/ヴォクシーは先代型の販売も好調で乗り替え需要があります。
今から5年前の2018年には、先代型のノア/ヴォクシーが売られていました。この年の登録台数を1か平均で見ると、ヴォクシーが7563台、ノアは4727台、セレナはe-POWERの追加で8322台、ステップワゴンは4739台でした。
このようにノア/ヴォクシーは先代型の販売も堅調で、乗り替えをするユーザーも多く、そこに先に挙げたようなさまざまな要因が加わり、現行モデルは売れ行きも増えました。
ノア/ヴォクシーは複数の理由の上に成り立つ人気車ですから、今後も堅調に売れ続けるでしょう。ただし先代セレナが意外に好調だったことからもわかる通り、ライバル車にも挽回のチャンスは十分にあるといえそうです。
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