新型Cクラスにおける、令和時代の「メルセデス・ベンツらしさ」はどこかといえば、ズバリ、蓄積された技術と新技術の融合です。取材日は雨に濃霧と厳しい環境でしたが、数々の技術に裏付けされた走行性能が実感できました。
具体的には、次の3点が新型Cクラスのハイライトだと歴代Cクラス(W202、W203、S204前期/後期の計4台)のオーナーである筆者は考えます。
これがキタキツネの本性! 紅葉の大雪山で殺気を放つ美しきハンター
文/西村直人
写真/メルセデス・ベンツ日本(※メルセデス・ベンツCクラスは2021年6月に現行型(5代目/W206型)へとフルモデルチェンジを実施。今回はその公道試乗会のもようをレポート)
[gallink]
■ミニSクラスを思わせる外観デザイン
新型Cクラスでは、どこから見てもメルセデス・ベンツとわかる外観を踏襲しました。ご存知のように、過去から現在に至るまでメルセデス・ベンツのS、E、Cクラスは“後輪駆動シリーズセダン”としてプラットフォームの基礎部分やパワートレーン、そして先進安全技術を全面/部分的に共有しています。
さらにSクラスやCクラスでは外観デザインのイメージを共有させ、片やEクラスでは大胆なデザインエッセンス(W210やW211の丸形2灯ヘッドライトなど)を取り入れ差別化を図ってきました。
新型Cクラスはどこから見てもメルセデス・ベンツとわかる外観を踏襲
新型Cクラスもそのセオリーを踏襲。Sクラスと相似形に見せつつも、サイズに応じてグリルの開口面積を最適化したり、ボディパネルの抑揚を調整しつつ、リヤコンビネーションランプの縦横比率も変更しています。ボディサイズが違うのだから変えるのは当然ですが、比率を変えずに単に小さくしてもデザインは崩れてしまいます。
こうしたデザイン/比率変更は企業のアイコンとされるCI(Corporate Identity)では一般的な手法です。筆者は長年、CIの制作に携わってきましたが、ボディサイズの大きなSクラスのおおらかさにも似た安心感を、より小さなCクラスでも想像させるデザイン力はさすがの一言です。
個人的に今回のCクラスは、1993年に国内に導入されたCクラス(W202)と、当時のSクラス(1991年国内導入/W140)の関係に近いなと感じました。
競合車であるBMW3シリーズと7シリーズ、アウディA4とA8とにも同じような計算された相似形の美しさを感じます。その点、レクサスISと同LSではそれぞれが独自路線を強めて個性を主張。ここは、欧州文化と日本文化の違いとも受け取れます。
■運転操作に徹するための内装設計
車内では、走行中の操作を第一に考えた縦型11.9インチの「メディアディスプレイ」(静電タッチ方式)の存在が大きく、ここでもSクラスとの共通項が見て取れます。
Sクラスの画面サイズは12.8インチと一回り大型ですが、新型Cクラスでは運転席側に6度傾けることで11.9インチながら操作性を高めました。数値の上ではわずかな角度ですが効果は大きく、走行中に身体へと伝わりやすい上下動のなかでも一発で目的の画面位置にタッチできます。
新型Cクラスのインパネデザインでまず気になるのはやはり縦型11.9インチの「メディアディスプレイ」(静電タッチ方式)。使い勝手は上々
BMW3シリーズ、A4、ISともに静電タッチ方式を用いながら物理スイッチやコマンド形式のコントロール機能も併用します。センターコンソール下部に配置された物理スイッチは、S204(2世代前のCクラス・ステーションワゴンで筆者の現愛車)の「COMANDコントローラー」の操作に慣れた筆者にとっても親近感を覚えます。
しかしながらこの先、一般的になるであろうOTA(Over The Air/無線通信)経由による機能アップデートを考慮すると、メルセデス・ベンツが拡大採用を行なう静電タッチ方式による縦型画面は英断といえます。
残る物理スイッチは、ステアリング左右の操作スイッチです。正確には押しボタン式ではなくこちらも静電タッチ方式です。
試乗モデルは異形ステアリングで、スイッチはその左右に機能ごと上下2段にまとめられていました。無骨な車内にあってデザイン上のアクセントになるだけでなく、機能ごとにエリアが明確になるため運転中のブラインドタッチが行ないやすいといった特徴があります。
上下2段式のステアリングスイッチはオプションの「AMGライン」(326,000円)のパッケージに含まれます。標準では一般的な平面スイッチ(静電タッチ方式)で、ステアリング形状もAMGラインの異形ではなく標準タイプに。
こうした縦型画面と独創のステアリングスイッチ、そして「Hi,Mercedes!」に始まる音声入力コマンドのMBUX(Mercedes-Benz User Experience)などは、将来の自動運転社会を見越したHMI(Human Machine Interface/人と機械の接点)として注目されていて、こうしたところからも新世代のメルセデス・ベンツらしさを感じます。
スイッチ・コントロール機能はデザイン上のアクセントになり、さらに運転中のブラインドタッチが行ないやすくなっている
■Cクラスらしく、そしてらしくない走行性能
新型Cクラスで筆者がもっとも驚き、そして感心したのが走行性能です。スペックの上では直列1.5L、4気筒ターボ+電動駆動の形式を踏襲していますが、エンジン型式だけでなく電動駆動の方法も新しくなりました。
出力は204PS/5800~6100rpmと従来型から20PS向上(発生回転数は同じ)、トルクは28.6→30.6kgf・mへと増強され、同時に発生回転数も3000~4000rpm→1800~4000rpmへと大きく拡大されました。
走行性能は今回著者がもっとも驚き、そして感心した。エンジン型式だけでなく電動駆動の方法も新しくなっている
電動駆動の方式は、スターターとジェネレーター(発電機)を兼ねるモーターを、エンジンベルトを通じてクランクシャフトとつなげる「BSG」(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)から、フライホイール一体型のエンジンスターターの「ISG」(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)に変更。モーターもBSGの14PS/16.3kgf・mからISGでは20PS/21.2kgf・mへと増強されています。
ISGの恩恵は発進時から得られます。駐車場や渋滞時に多用する微速のアクセルワークに対して、車両重量1700kgの「C200アバンギャルドAMGライン/リア・アクスルステアリング装着車」ではメルセデス・ベンツが大切にしてきた“しずしずとした走り”が実感できました。
筆者の乗るC350(V型3.5L&7速ATで通常は2速発進、車両重量1680kg)は、1000rpmから30.0kgf・m以上のトルクを発生していますが、まさしく往年の大排気量エンジンが得意とする領域も新型1.5L+ISGはカバーします。
競合車であるBMW320(4気筒2.0Lターボ184PS/30.6kgf・m)、レクサスIS300(4気筒2.0lターボ245PS/35.7kgf・m)と比較しても、微速のマナーでは新型Cクラスが優位です。
こうした力強くフラットなトルク特性は4000rpmあたりまで続くため、山道や高速道路の本線合流時でも力強い加速が体感できます。ただ、その上の領域となると伸びは衰え始めます。
山道や高速道路の本線合流時でも力強い加速が体感できる走り
エンジンそのものはボア×ストローク比でほぼスクエア。高回転域までストレスなく回りますが、5000rpmを超えると明らかに加速力が弱まります。排気量が500cc大きい競合各車とはこのあたりで逆転するようです。
乗り心地はW204時代から具現化され、W205の後期モデルで一定の完成を見た俊敏性(アジリティ)と、往年のメルセデス・ベンツらしい滑らかさが融合したまったく新しいものでした。
具体的には、強靱な剛体によるガチッとしたボディと、取り付け剛性を格段にため前後サスペンションと優れたダンパーの摺動性によって、前後ピッチを抑えつつ、じんわりと車体をロールさせる乗り味が堪能できます。
W205初期モデルに見られた身体にズシンと響く衝撃はありません。また、遮音性も高く、ここも競合各車に対する優位点です。
リア・アクスルステアリングは必須オプション装備(145,000円)のひとつ。前述したAMGラインが必須オプションとなるため合計471,000円となるのでおいそれと手が出ません(単独オプション化を強く希望します!)が、悔しいほどに効果は絶大でした。
後輪操舵角度はSクラスの4.5度から新型Cクラスでは2.5度と小さくなりますが(いずれも最大値)、これはボディサイズに応じた慣性モーメントから計算された最適値です。
最小回転半径はW205の5.3mから5.0m(非装着車は5.2m)とホイールベースが25mm延びているにも関わらず減少。ただし、全長が80mm延びているため実際には前後のオーバーハングが計55mm増えており、後輪操舵による小回り性能の効果はほどほどでした。
ではなぜ必須なのかといえば、走行中のボディサイズが格段に小さくなったように感じられるからです。カーブへの進入から旋回、脱出に至るまでドライバーのステアリング操作に対して遅れなく横Gが発生し、消滅していく、そんなイメージです。
強靱な剛体によるガチッとしたボディ、取り付け剛性を格段にためた前後サスペンションと優れたダンパーの摺動性、遮音性も高く、ここも競合各車に対する優位点だ
後輪操舵の効果は30km/h程度からすでに実感でき、速度を上げた山道では「Mercedes-AMG A 35 4MATIC Sedan」を超える俊敏性と、メルセデス・ベンツらしい滑らかな乗り味が実感できます。
こうした効果はSクラスでも感じていたことですが、ボディサイズの小さなCクラスでは、さらにこの特性が強く感じられます。今回は試すことができませんでしたが4つのタイヤが効率よく働く(≒摩擦する)ため、緊急回避性能も高まっているのでないかと推察。いずれにしろ、この走りは異次元でした。
もっとも、走行性能に大きな違いがあるので独特の運転操作が必要です。リア・アクスルステアリングを装着したSクラスと同じくロック・トゥー・ロック約2回転のステアリングギヤ比になることも考慮して、いつもの運転操作から気持ち早めに、そしてゆっくりとした荷重移動とステアリング操作を行なうと、ドライバーだけでなく同乗者にも気持ちのよい走りが楽しめます。
■まとめ
総評です。一見するとSクラスのダウンサイジングに思える新型Cクラスでしたが、並べて比較するとまるで違いました。
従来型Cクラスもそうでしたが、高額な車両本体価格(新型Cクラスは654万円~)なのに無骨で質素な内装では納得できないという声が新型Cクラスでも聞かれます。しかし、飛行機や船舶、電車やトラクターにしても、運転操作に集中させる環境作りは本来、無骨で質素なものが主流です。
一見、Sクラスのダウンサイジングに思える新型Cクラスだが、並べて比較するとまるで違う
その点、令和時代のメルセデス・ベンツは、ディスプレイ面積を大きくし進行方向と車内の縦揺れを考慮した縦型に集約しつつ、表示ボタンのサイズと配置を機能に応じて変化させ操作性を高めました。
また、フロントウインド部の光学式カメラの映像をカーナビ画面内取り込み映し出すARナビナビゲーションで利便性を高め、ドライバーへの報知では耳に残るサウンド(エコー掛かったブザー音)を効果的に組み合わせ有用性を高めています。
競合各車が王道であったスポーツ&ラグジュアリー路線を貫くなか、新型Cクラスは派手さを廃した考え抜かれた無骨さと、リア・アクスルステアリングがもたらす新しい運転感覚で勝負を挑みます。
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