2ドアクーペの電動ドライバーズカー
ロールス・ロイス・スペクターの車内は、ボディサイズを活かし、前後に大人が2名づつ寛げるゆとりがある。リアシートへの乗降性は、リムジンより僅かに劣る。とはいえ、ロンドンで稀に見かける同社のクーペで、後席に人が座っていることは殆どない。
【画像】完璧な無音と無振動 ロールス・ロイス・スペクター ファントム・クーペとレイス 2ドアのBEVも 全122枚
2ドアクーペのスペクターは、ドライバーズカーだといえる。もちろん、車重が2890kgもあるバッテリーEVだから、ポルシェ911とはまったく特性が異なるけれど。
サスペンションは、リムジンのロールス・ロイス・ゴーストからの進化版。フロントがダブルウィッシュボーン式で、リアはマルチリンク式となり、エアスプリングとアクティブ・アンチロールバーが組まれている。
横方向の動きを制限していたアッパー・ウイッシュボーンのダンパーは、ボディのねじれ剛性が30%増したことに伴い、省かれている。またアンチロールバーは、しなやかな乗り心地のため、直進時は完全にアクスル側から切り離される。
ホイールのサイズは23インチ。タイヤは、フロントが255/40で、リアは295/35の、ピレリPゼロを履く。単体としては大径だが、大きなボディとのバランスを考えると、妥当なサイズだと思う。外界との隔離性も担保されている。
ロールス・ロイスの技術者は、スペクターのようなモデルをどう仕立てるべきか、理解している。完璧に落ち着いた乗り心地に、これ以上ないほど正確で一貫したステアリング、発進から停止まで至って滑らかに操れるペダル。すべてが備わっている。
静止状態から見事なほど滑らかに進み出す
バッテリーEVだから、スペクターが静かなことに驚く必要はないだろう。従来のロールス・ロイスでも、V型12気筒エンジンがアイドリングしているのかどうか、判断が難しいことは珍しくなかった。
静止状態でアクセルペダルを傾けると、瞬時的に立ち上がる駆動用モーターのトルクにも関わらず、見事なほど滑らかに進み出す。パワーの立ち上がり方も、レスポンスも、完璧に整えられている。
ブレーキペダルを緩めると、クリープ走行へ移る。停止直前の、1.0km/h程度の細かな制御は少し難しいかもしれない。とはいえ、経験を積んだプロの運転手が気を配るような仕草に過ぎないが。
シフトセレクターでBを選択すれば、アクセルペダルだけで発進から停止までまかなえる、ワンペダルドライブにも対応する。この場合、クリープ走行もしなくなる。
必要なら、スピーカーから人工音を響かせることもできる。何種類か音色があり、宇宙船がワープするような電子音から、V型12気筒エンジンのハミングを模したもの、かなり荒々しいノイズまで用意されている。
筆者はいずれも好ましく聞こえたが、人工音はオフにもできる。これまでのロールス・ロイスは基本的に常時静かなままだったから、特に問題は感じないだろう。
高速道路の速度域では、若干加速力が鈍くなる。それでも一般的な感覚でいえば、不満なくたくましい。
カーブの連続する道を巧みに駆け抜ける
カーブ以外での姿勢制御は、かなりソフト。舗装が剥がれたような穴や、隆起部分を中低速で通過すると、稀に緩やかな上下動が伝わってくる。エアサスペンションのモデルでは、一般的な振る舞いといえるだろう。
ステアリングホイールの重み付けは理想的といえ、常に感触は安定している。速度域を問わず、操舵に必要な手の力は同じ。セルフセンタリング性も変わらない。アクティブ後輪操舵システムの介入具合によっては、小さな違和感を感じることもあるけれど。
今回の試乗で筆者が最も感銘を受けたのが、スポーティだとメーカーが主張しない、車重が3t近くあるクルマでありながら、カーブの連続する道を巧みに駆け抜けること。ボディロールは最小限で、コーナー出口から余裕のパワーで勢いよく脱出してみせる。
これまでの素晴らしいロールス・ロイスと同様に、スペクターの体験は別格。卓越の仕上がりといえ、それでいて運転する喜びも備わる。このブランドを長年指名してきたユーザーも深く納得するであろう、成功作といえそうだ。
ロールス・ロイス・スペクター(北米仕様)のスペック
英国価格:33万ポンド(約5575万円)
全長:5453mm
全幅:2080mm
全高:1559mm
最高速度:−km/h
0-100km/h加速:4.5秒
航続距離:529km
電費:5.1km/kWh
CO2排出量:−g/km
車両重量:2890kg
パワートレイン:ツイン他励同期モーター
駆動用バッテリー:102kWh(実容量)
急速充電能力:195kW
最高出力:584ps
最大トルク:91.6kg-m
ギアボックス:シングルスピード/四輪駆動
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