現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第17回

ここから本文です

自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第17回

掲載 更新 2
自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第17回

バブル崩壊という会社存続の危機=ピンチをチャンスと捉えてオリジナルスポーツカーの開発が始まった。亀岡工場で開発の指揮を取ったのは70年代の国内レース界にその名を轟かせたエンジニアの解良喜久雄(かいら・きくお)である。解良には既に頭のなかで暖め続けてきたオリジナルスポーツカーのアイデアがあった。

社長、100万円ください!

それはカルトがカルチャーに変わる瞬間!? フランスで300万円アンダーの車が熱い理由

92年1月の役員会で正式にオリジナルスポーツカーの開発が決まった。開発の陣頭指揮はもちろん解良喜久雄(かいら・きくお)が取ることになった。

解良が開発費用として富田に求めたのはわずかに100万円だったという。解良というエンジニアの考え方がこの金額に現れている。もちろんバブル経済の崩壊で会社が厳しい局面を迎えていたこともあった。けれどもそれ以上に解良は安く造ることにこだわっていたのだった。

当時のトミーカイラ製チューニングカーは、フェアレディZやスカイラインGT-Rといった高性能マシンベースに開発が続けられており、勢い国内外のスポーツカーブランドをも巻き込んでの馬力競争にさらされていた。この路線で勝負を続けることは危うい。そう感じていた解良はトミーカイラ製チューニングカーとは全くベクトルの違うスポーツカーを頭に描いていたのだ。

それは軽くてシンプルで乗っているだけで楽しくなるクルマ、である。しかもそれなりの数を売らなければ意味がないとも思っていた。そのためにはできるだけ安く作って安く売らなければならない。

金のかかるトップカテゴリーのF1マシンを造ったレースエンジニアの、それは意地でもあった。

もうひとりのカーガイ  

小さい頃から乗り物とモノ造りに興味のあった解良は、中学時代にバイク屋へ入り浸るようになり、そこで整備や修理の方法を見よう見まねで学んだ。バイクを乗り出す頃にはもう何でも自分でできるようになっていた。二輪は危ないからと父親に諭されて四輪へ転向しても、“自分で何でもとことんやらなければ気がすまない”という性格は少しも変わることがなかった。

サーキットへは溶接道具を持ち込んで走っていたというから、まるでひと昔前の自動車メーカー開発部隊のようだ。走っては考え、考えては工夫を凝らし、その場で切ったり貼ったりした。彼のマシンだけはその日のうちに速くなることが多かった。

金や道具が無いからできない。そんな言い訳が大嫌いだった。無いなりに工夫して勝負する。そうやって生きてきた。失敗を怖れることなく自ら考え抜いたアイデアを実行に移す。その繰り返しが糧となる。誰かに教わったり枠にはめられたりすることが未だに大嫌いだという解良はその代わり、自分で答を探し出すことにはいつも夢中になれたのだった。

70年代にF1やF2、GCマシンを造り続けた経験が、レーシングカーとは全く違うスポーツカーのアイデアを生む。開発がスタートしたときには既に解良の頭のなかには構想ができあがっていた。

だからこそ開発費の要求はたったの100万円だった。

他にない楽しいクルマを

1億円のスーパーカーを少量造ることなど簡単だ。金さえあれば誰でもできる。高い素材や技術、パーツを買い集めてきて造ればいいのだから。けれどもスポーツカーを安くつくるためには頭をフルに使わなければならない。量産するともなれば尚さらだ。逆にいうと頭を使うからこそいいモノもできる。解良はそう信じていた。

それゆえオリジナルカーのシャシー製作には既製品の活用にこだわった。実際に出回っているモノを最大限に活用するのだ。大量に生産されているモノには既に証明された性能や耐久性もあった。どこでも・いつでも・誰にでも買えるモノを使うということは、製造者や販売者のみならず、最後には利用者にとっても多大なメリットになる。

プロジェクトが始まってすぐに解良はパワートレーンやサスペンション、シート、タイヤなど主だった部品を床に並べて、「完成したのも同然」と豪語した。これにはさしもの富田も苦笑するほかなかった。

そして実際、半年後にはプロトタイプシャシーができあがってきた。

プロトタイプシャシー完成す

アルミ押し出し材でモノコックボディを製作することは、レースでの経験もさることながら、トミーカイラ・コンプリートカー用のウィングステーなどパーツ製作からもヒントを得たものだった。当時のレースカーはカーボン時代を迎えており、アルミニウムは性能的にも重量的にも既に使えなかったが、量産性を考えた場合にロードカーにはまだまだ有効なマテリアルだった。

エンジンとミッションは日産プリメーラP11用で、SR20に京浜FCR4連キャブを装備していた。キャブ仕様を選んだのはECUを使うより安かったし、メンテナンスも容易で、チューニングもしやすかったからだ。

それにプリメーラのエンジンなら英国でも簡単に手に入った。生産組立工場があったからだ。チューニングカーの届け出などで役所の頭の硬さ(前例主義)に辟易としていた彼らは、仮に日本で生産できなかった場合に備えて海外生産のプランも既に描いていたのだった。特に車体製造の自由度が比較的大きい英国のSVA要項を満たす開発を解良は行なっていた。

いいクルマを造りたかったわけじゃない。トミーカイラでしか造れない楽しいクルマを造りたかった。

できあがったプロトタイプシャシーに初めて乗ったときの解良の感想ははたして「狙い通り」のひと言だった。

PROFILE
西川 淳
スズキ ジムニーからランボルギーニ カウンタックまで幅広く愛するモータージャーナリスト。富田氏との付き合いも長く、現在自身が京都に居を構えていることから、富田氏とは今も多くの時間を共有している。

(次回予告)
プロトタイプシャシーを徐々に煮詰めていきながらもスタイリングと生産をどうするかという次の課題が待ち受けていた。そこでもまた紆余曲折があった。またプロトタイプシャシーも完成した段階で日本のメディアにテストの機会が供されていた。早い段階でメディアに提供したことで後に思いも寄らぬ結果をもたらしたのだった。

【キャンペーン】マイカー・車検月の登録でガソリン・軽油7円/L引きクーポンが全員貰える!

こんな記事も読まれています

両側スライドドア採用 VW新型キャンピングカー5月7日公開へ 「カリフォルニア」初のPHEVも
両側スライドドア採用 VW新型キャンピングカー5月7日公開へ 「カリフォルニア」初のPHEVも
AUTOCAR JAPAN
アイルトン・セナが所有していたホンダNSXが中古車サイトに。約9800万円で売りに出される
アイルトン・セナが所有していたホンダNSXが中古車サイトに。約9800万円で売りに出される
AUTOSPORT web
限られた選択肢のなか、2025年に向けF1チームとの交渉を行うボッタス。他カテゴリーへの転向は考えず
限られた選択肢のなか、2025年に向けF1チームとの交渉を行うボッタス。他カテゴリーへの転向は考えず
AUTOSPORT web
トヨタ新型「“セダン”SUV」発表! まさかの“シャコ上げ”&ゴリゴリフェンダー採用! タフすぎる「新クラウン“RS”」誕生に販売店でも反響アリ
トヨタ新型「“セダン”SUV」発表! まさかの“シャコ上げ”&ゴリゴリフェンダー採用! タフすぎる「新クラウン“RS”」誕生に販売店でも反響アリ
くるまのニュース
アイルトン・セナは「マールボロ」だけでなく「JPS」のF1にも乗っていた!! 没後30年を記念して3台のF1とホンダ「NSX-R」が集まりました
アイルトン・セナは「マールボロ」だけでなく「JPS」のF1にも乗っていた!! 没後30年を記念して3台のF1とホンダ「NSX-R」が集まりました
Auto Messe Web
レッドブルF1、ニューウェイ離脱に備え、上級職員の移籍を阻止か。テクニカルディレクター&空力責任者と新契約との噂
レッドブルF1、ニューウェイ離脱に備え、上級職員の移籍を阻止か。テクニカルディレクター&空力責任者と新契約との噂
AUTOSPORT web
フォルクスワーゲン、『ポロGTI』に誕生25周年を祝う限定車を設定。日本へは227台が上陸
フォルクスワーゲン、『ポロGTI』に誕生25周年を祝う限定車を設定。日本へは227台が上陸
AUTOSPORT web
そういえば街の郵便車がキレイになったような… なんと全国通達「8000台コーティングせよ!」 大仕事の舞台裏が明らかに
そういえば街の郵便車がキレイになったような… なんと全国通達「8000台コーティングせよ!」 大仕事の舞台裏が明らかに
乗りものニュース
グラベルのWRCポルトガルにトヨタが4台エントリー。オジエとロバンペラが今季初の両出走へ
グラベルのWRCポルトガルにトヨタが4台エントリー。オジエとロバンペラが今季初の両出走へ
AUTOSPORT web
10月にバレンシアで開催のFIAモータースポーツ・ゲームスに欧州最高峰トラック“ETRC”の追加が決定
10月にバレンシアで開催のFIAモータースポーツ・ゲームスに欧州最高峰トラック“ETRC”の追加が決定
AUTOSPORT web
マツダ新型「ロードスター”最強形態”」実車公開! まさかの「2.0リッターエンジン」搭載車! 爆速仕様&技術結集の「スピリットRS」登場
マツダ新型「ロードスター”最強形態”」実車公開! まさかの「2.0リッターエンジン」搭載車! 爆速仕様&技術結集の「スピリットRS」登場
くるまのニュース
トラックの高速道路の最高速度を90km/hに引き上げ……ってホントに効果ある? 物流業界関係者からは疑問の声も噴出!
トラックの高速道路の最高速度を90km/hに引き上げ……ってホントに効果ある? 物流業界関係者からは疑問の声も噴出!
WEB CARTOP
愛車の履歴書──Vol36. 溝端淳平さん(前編)
愛車の履歴書──Vol36. 溝端淳平さん(前編)
GQ JAPAN
現行型ハリアー、初のお色直し。ハンマーヘッドフェイスへ
現行型ハリアー、初のお色直し。ハンマーヘッドフェイスへ
グーネット
待望のスーパーGT開幕戦は「muta Racing GR86 GT」が逃げ切りトップフィニッシュ!岡山ラウンドGT300クラスリポート
待望のスーパーGT開幕戦は「muta Racing GR86 GT」が逃げ切りトップフィニッシュ!岡山ラウンドGT300クラスリポート
LE VOLANT CARSMEET WEB
【ギャラリー】音速で駆け抜けた34年の生涯。アイルトン・セナの輝かしいキャリアを秘蔵写真で振り返る
【ギャラリー】音速で駆け抜けた34年の生涯。アイルトン・セナの輝かしいキャリアを秘蔵写真で振り返る
motorsport.com 日本版
[VW ゴルフ 50周年]フォルクスワーゲンの歴史が切り替わった瞬間
[VW ゴルフ 50周年]フォルクスワーゲンの歴史が切り替わった瞬間
レスポンス
33歳、フェラーリを買う──Vol.18 売却の理由
33歳、フェラーリを買う──Vol.18 売却の理由
GQ JAPAN

みんなのコメント

2件
  • 解良さんは今でもエンジニア集団を率いてます
  • こんな楽しい車を作って世に出してくれて
    ありがとうございます
    屋根は欲しいけど、無いのがまた良い
    一生大切にしますね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村