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直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 前編

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直列6気筒の上級サルーン メルセデス・ベンツ300とベントレーS1 前編

世界平和を西ドイツから宣言した300

1951年、ダイムラー・ベンツ社は新しい高級車、W186型300シリーズの生産を開始した。ナチスからの縛りが解かれた2代目会長、ヴィルヘルム・ハスペル氏は「メルセデスの名前を再び輝かせるクルマ」に位置付け、輸出の好機だと捉えた。

【画像】メルセデス・ベンツ300bとベントレーS1 最新のSクラスとフライングスパーも 全74枚

戦前に設計された170やW121型「ポントン」といった小型乗用車も、戦後のメルセデスを支える重要な役割を持っていた。だが、新しいフラッグシップ・モデルもまた、ブランド再興には不可欠だった。

才能溢れるダイムラー・ベンツ社の主任技術者、フリッツ・ナリンガー氏は、戦争経済指導者というポストに不本意ながら就任。第二次大戦ではドイツの高度な技術力を見せつけることに一役買ったが、連合軍の勝利にともない、一時的に一線を退いていた。

戦後、高速ディーゼルエンジンの父とも呼ばれるナリンガーは、フランスへ移住。ターボジェットの設計グループに参画しながら、穏やかな2年間を過ごしたという。

だが1948年、その設計プロジェクトは中止に。メルセデス・ベンツへの復帰が許された。西ドイツへ戻ると取締役会のメンバーへ加わり、新型300の構想を練った。

1951年、フランクフルトで発表された新しい300シリーズは、戦前のメルセデス・ベンツ770「グロッサー」や540Kのイメージを一新していた。独裁者時代とは一線を画し、親しみやすい雰囲気を湛えていた。

モダンなスタイリングは、優雅でありつつ威厳を感じさせる。西ドイツの首相を努めた、コンラート・アデナウアー氏にも愛された。世界平和を、西ドイツから宣言したようなクルマだった。

300SLにも搭載された直列6気筒

新車時のメルセデス・ベンツ300aの西ドイツ価格は、ヒーター付きで1700ポンド相当。英国へ輸入されると関税で3500ポンドへ膨らんだが、同時期のベントレーMk VIより安価だった。

機械的には、伝統的な要素と現代的な要素が巧みに融合されていた。楕円形の断面を持つパイプにクロスブレースを備えるシャシーが基礎骨格で、車重は1757kg。ホイールベースは3050mmに設定された。

電圧12Vの電装系は、メルセデス・ベンツ新採用。ナリンガーが好んだスイングアクスル式の独立懸架サスペンションは、サーボモーターで硬さを33%変更できるトーションバーを搭載。リアの乗り心地を、負荷に応じて変えることが可能だった。

エンジンはM186型の直列6気筒で、排気量は2996cc。オーバーヘッドカムが与えられていたが、オリジナルは戦時中の商用車の2.6Lユニットだった。生産工場は、連合軍による空爆を免れていた。

このエンジンは、ガルウィング・ドアの300SLにも搭載されている。チューニングを受けて。

300の場合、アルミヘッドとスチールブロックの接合面が加工され、大きいバルブが組まれた。7本のメインベアリングでクランクを支持し、ソレックス社製のダウンドラフト・キャブレターを搭載。最高出力116psを発揮した。

充分な直線があれば、300aは160km/hの最高速度に届いた。その当時は、西ドイツ最速の量産車だった。さらに1954年、改良された300bが登場。エンジンは高圧縮化されトルクが増大し、10馬力が加算された。

最後の直列6気筒となったSタイプ

一方で英国中部、クルーに拠点を置くベントレーは、自社製のスタンダードスチール・ボディを架装したサルーンを、終戦直後の1946年から生産していた。そのMk VIとRタイプは、傑作に数えられる。

Mk VIの登場から8年が経過した1955年、フラッグシップはSタイプへモデルチェンジ。これが、ベントレー最後の直列6気筒モデルになった。同時に、ロールス・ロイス・シルバークラウドも誕生した。

当時のベントレーはロールス・ロイス傘下にあり、クルーを拠点とする2ブランドは同等の品質を備えていた。エンジンやメカニズムなども共有していた。銘柄での違いといえば、フロントグリルとエンブレム程度だったといって良い。

スタンダードスチール・ボディのスタイリングを手掛けたのは、デザイナーのジョン・ブラッチリー氏。シルバークラウドとSタイプのボディは美しく荘厳で、当時のコーチビルダーの仕事を霞ませるほどだった。

ボンネットやドア、トランクリッドは軽量なアルミニウム製。先代モデルよりサイズが大型化され、アメリカ市場へも効果的にアピールできた。投入されると、販売数が倍増したほど。

ボディの内側は、基本的に先代と大きくは違わない。だが、ボックスセクションのシャシーは剛性が高められ、リアアスクルは安全性が高められていた。

ブレーキはトランスミッション駆動のサーボ付きで強力。より軽量で大きなドラムを備え、ブレーキシューの面積は22%も増えている。

2032kgの車重で最高速度は170km/h

エンジンは、30年前に起源を持つロールス・ロイスの直列6気筒がベース。Sタイプの初代、S1には、Rタイプ・コンチネンタルなど用に開発された4887ccユニットが搭載されている。

6ポートヘッドとSUキャブレターを2基搭載し、高出力化が図られていたが、当時は最高出力が非公表。170ps以上は発揮できていたに違いない。

車重はメルセデス・ベンツ300より重い2032kg。それでも、大型キャブレターと高圧縮比が与えられた後期型では、170km/hの最高速度を実現していた。

先代のRタイプでは、オートマティックに人気が集まっていた。それを受けて、S1ではGMのライセンス生産版となる4速ATが標準装備だった。

ダイムラー・ベンツも北米ではATが必要だと判断。自社開発を進めていたものの、1955年に投入された300cへは、ボルグワーナー社から3速ATを購入し搭載している。

この300cは、ドイツ車として初めてATが標準装備された量産車になった。それ以降、300シリーズの生産が終了する1962年まで、コラムMTはオプション扱いにされた。

現在は小型車でもパワーステアリングは当然の装備だが、メルセデス・ベンツ300もベントレーS1も、当初は採用なし。S1は発売翌年の1956年から、300ではモデル最後の1958年から選べるようになった。

1958年の300dは、燃料インジェクション化で162psを発揮。ピラーレス・ルーフと大きなトランクリッドが特長だった。ロングホイールベース版も300dから標準モデルに加わり、W189型へコードネームも改められている。

この続きは後編にて。

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みんなのコメント

1件
  • イギリスだと、中古で新規登録しても、このクラシックカー用の渋い黒ナンバー付けられるのが素晴らしい。

    日本のお役所じゃあ思いも付かないし絶対許してくれない配慮。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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