トヨタグループがいま、大きく揺れている。
日野自動車、ダイハツ工業、そして豊田自動織機と、トヨタグループの中核企業で相次いで発覚した認証試験に係る一連の不正問題を受けて、トヨタ自動車会長の豊田章男が2024年1月30日、記者会見の中で謝罪した。
「絶対にやってはいけないことをやった」/「お客様の信頼を裏切った」/「(お客様、取引先などのすべてのステークホルダーの)信頼を取り戻すには時間がかかる」といった厳しい言葉が並んだ。
その上で、豊田はトヨタグループ全体の今後のあり方について語った。それがトヨタグループが進むべき方向を示した「ビジョン」である。反省し、原因を深堀りして追求し、そしてさらに前に進んでいこうというのだ。
この日、記者会見の前にトヨタグループ17社の経営者、また現場のリーダーらが集まり、豊田氏と「ビジョン」に対する意識の共有を図った。
ビジョンとは「次の道を発明しよう」。豊田佐吉翁が1891年に発明した「豊田(とよだ)式木製人力織機」という、トヨタグループの原点に戻って、トヨタグループの現状を見据え、さらに未来を考える。
近年、トヨタ自動車が新しい技術を紹介する際も、こうしたトヨタの原点を大切にする気持ちを示してきたが、これを改めてトヨタグループとして共有した。
「心構え」も共有
「次の道を発明しよう」というビジョンを掲げたうえで「心構え」も示した。
・誰かを思い、力を尽くそう。
・仲間を信じ、支えあおう。
・技を磨き、より良くしよう。
・誠実を貫き、正しくつくろう。
・対話を重ね、みんなで動こう。
これら「心構え」は、まさに一連の認証不正の解決策である。ただし、言うは易く行うはとても難しい。
難しさの背景にあるのは、対象がひとつの企業ではなく、トヨタグループという企業連合によって実現しなければならないからだ。
今回会見を開いた、JR名古屋駅近くのトヨタ産業技術記念館は、トヨタグループの原点である豊田自動織機の工場跡地に、トヨタグループ全社が主体となった1994年に設立した。設立当時は13社だったトヨタグループは現在、以下の17社となっている。
豊田自動織機/トヨタ自動車/愛知製鋼/ジェイテクト/トヨタ車体/豊田通商/アイシン/デンソー/トヨタ紡織/トヨタ不動産/豊田中央研究所/トヨタ自動車東日本/豊田合成/日野自動車/ダイハツ工業/トヨタホーム/トヨタ自動車九州という17社(表記順はトヨタのニュースリリースの通り)
一般の自動車ユーザーにとって、これら17社の名前の中には馴染みがないものがあるだろう。一方で、馴染みがある名前もあろう。
トヨタグループの特殊性
こうした、一般の自動車ユーザーにとって馴染みがある、またはない企業が集結していることがトヨタグループの特殊性であり、それが一連の認証不正が起こった背景にあるように、筆者は思う。
例えば、豊田自動織機が「ランドクルーザー」/「ランドクルーザー・プラド」/「ハイエース」/「ハイラックス」などで搭載しているディーゼルエンジンの開発について、トヨタ自動車が同社に対して図面等の譲渡契約を結んでいることを、多くのユーザーは認識していないだろう。設計図面の所有権と知的財産権は豊田自動織機に帰属している。
また、ダイハツ工業が軽自動車やコンパクトカーの製造販売を行っていることは世間で広く知られているが、ユーザーの中には「ライズ」と「ロッキー」など、いわゆる兄弟車における開発の主体がダイハツ工業側にあるという認識がないかもしれない。
そもそも、OEM供給(オリジナル・エクイップメント・マニュファクチャー)というビジネスモデルに対する認識がなく、ダイハツ工業の工場停止が、トヨタブランド/スバルブランド/マツダブランドのモデルまで影響することに驚いた人もいるかもしれない。
要するに、トヨタグループは、トヨタ自動車と部品メーカーなどの周辺企業の集まりではなく、自動車メーカーの集合体なのだ。
海外の自動車業界はどうなのか?
グローバルで自動車産業界を見渡すと、ドイツのフォルクスワーゲングループがトヨタに近い形かもしれない。フォルクスワーゲン/アウディ/ポルシェ/ランボルギーニ/ベントレー/セアト/シュコダなど多国籍な企業が並ぶ。
ただし、いわゆるM&A(企業の合併買収)という資本の論理で形成されたという印象が強く、トヨタグループ各社のような密接な関係性とは違う企業連合に思える。
また、ステランティスの場合、FCAとPSAが連携したことで多様なブランドを持つが、企業体としては日本における商社のようなイメージがある。
トヨタグループは、密接な関係のある自動車メーカーの集合体が母体であるがゆえに、特に日野自動車、ダイハツ工業、さらにフォークリフトの世界シェアNo1の豊田自動織機など、自社ブランドを持つことでの企業のプライドと、トヨタ自動車からの受託事業に対するトヨタ自動車への配慮という、2つが併存している。
その併存の中で、各社の働き方の一部がバランスを崩した。または、時代の変化に追いついていない。だから、不正という最悪の事態を招いたのではないだろうか。
「ビジョン」と「心構え」を持って、トヨタグループがこれからどう変わっていくのか、世界が注目している。
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