Audi R8 Coupe × R8 Spyder
アウディ R8クーペ × R8スパイダー
アウディ R8はなぜ万能スーパースポーツなのか? その秘密はV10エンジンにあった【Playback GENROQ 2017】
最高峰のマイティスポーツ
主力ラインとは別にスポーツブランドを展開するメーカーは数多くあるが、最後発ながら圧倒的な実績をもつ“アウディ・スポーツ”は別格だろう。サーキットから多大なフィードバックを注ぎ込まれたR8は、その代表である。アウディ・スポーツが誇る“万能スポーツモデルの懐”を街中で覗いてみた。
「全方位をカバーする圧倒的な動力性能。懐深き新世代のスーパースポーツ!」
音速をはるかに超えるスピードで飛行できるジェット戦闘機が低速域での敏捷性でプロペラ式のアクロバット飛行機にかなわないのと同じように、混雑した市街地で思い通りにならないスーパースポーツカーを走らせるのはストレスのたまる作業だ。ひとたびパワーバンドに入れば爆発的な運動性能を示すスーパースポーツカーも「10mだけ急加速してまた急減速」という走らせ方では軽量なハッチバックカーの後塵を拝しかねない。そして都市部の一般道では、そんな動きが思い通りにできるかどうかでドライバーの感じるストレスはずいぶんと変わってくることは読者諸氏もご存知だろう。
しかし、アウディR8は違う。追い越し車線に生まれたわずかなスペースに飛び込むのも思いのまま。いや、そんな運転をしちゃいけないのは承知のうえだが、ときにはスムーズな交通の流れのため、そしてときにはアクシデントを避けるためにも、そんな“すばしっこさ”が求められるシーンはきっとあるはずだ。
「俊敏な加速力を生み出すためのテクノロジーが、いくつもの層を成す」
R8が数あるスーパースポーツカーのなかで例外的ともいえる敏捷性を発揮できる理由のひとつは、コクピット背後に搭載された自然吸気式V10エンジンにある。いうまでもなくNAゆえにエンジンのレスポンスは鋭敏。しかも5.2リッターと排気量に余裕があるから低回転域でもありあまるトルクを生み出せる。なにしろ、1000rpmのボトムエンドでも400Nmを超えるトルクを発揮できるのだ。これで1690kgのボディを走らせるのだから、機敏に加速できるのは当然といえる。
もうひとつ、このエンジンパワーをたぐい稀な瞬発力に結びつけているのがその駆動系。とりわけデュアルクラッチトランスミッション(DCT)のSトロニックが果たす役割は大きい。いまやスーパースポーツで当たり前の存在となったDCTだが、世界で最初に量産化に成功したのは他ならぬアウディ。しかも、彼らはデュアルクラッチの最大の魅力でもある俊敏な駆動力の立ち上がりにこだわって開発してきたようで、単にシフトが速いだけでなく、ギヤチェンジを終えてからボディがぐっと押し出されるまでの時間が圧倒的に短い。これはエンジン自体のイナーシャが小さいことに加え、エンジンやギヤボックスを司る制御系ソフトウェアにも秘密が隠されていそうだ。
そしてひとたび路面が濡れればおなじみのクワトロが4輪で駆動力を伝達し、ドライとほとんど変わらないトラクションを生み出す。つまり、俊敏な加速力を生み出すためのテクノロジーが、いくつもの層を成してR8を支えているのだ。
「R8はより幅広いシーンで使える万能性に重きを置いた」
もっとも、都市部でストレスを感じない理由はそのパワートレインだけに存在するわけではない。わずかな操舵にもシャープに反応するステアリングもそのひとつ。また、いくらハードウェアとしてのR8が卓越した俊敏性を備えていても、ドライバーがそれを行使できなければ何の意味もないが、R8はミッドシップスポーツには珍しいくらい斜め後方の視界が開けているため、進路変更を躊躇なく行える。これには、比較的アップライトに腰掛ける着座姿勢も貢献しているはずだ。
一方で、ちょっとした段差を乗り越える際にチンスポイラーが路面と接触するのを防ぐフロントの車高調整装置をR8が持たない点を指摘する向きもある。しかし、筆者はこれまでヨーロッパや日本国内の様々な道でR8を走らせてきたが、チンスポイラーをこすったことは一度もない。おそらく、車高調整装置なしでも市街地走行で不自由することがないよう、慎重にアプローチアングルが設定されているのだろう。
さらにいえば、荒れた路面を低速で通過してもしなやかにその振動を吸収する足まわりが、R8で都市部を走る際のストレスを劇的に軽減している。確かに兄弟モデルのランボルギーニ ウラカンも乗り心地は良好だが、足まわりが滑らかにストロークする領域はR8のほうが長く効果的。これはどちらが良い悪いというよりも、外観から受ける印象通り、ウラカンのほうがスポーツ性にウエイトを置いているのに対し、R8はより幅広いシーンで使える万能性に重きを置いた結果というべきである。
「スパイダーの印象はクーペに酷似。唯一、路面から大入力で微振動が残る」
こうした美点はR8スパイダーでも基本的に変わらない。アルミスペース・フレームを基本としつつ、キャビン周りにカーボンコンポジットを多用したボディ構造は、コンバーチブルに改めても先代R8クーペに匹敵する剛性を実現する一方、新型クーペと比較しても車重は80kgしか重くなっていない。このため、試乗した印象はクーペに酷似する。唯一、異なる点があるとすれば、路面から大入力を受けるとわずかながらボディに微振動が残る点くらい。それでオープンならではの爽快感が手に入るなら、悪くないトレードオフといえるだろう。
ここまで新型R8の都市部での使い勝手をレポートしてきたが、ひとたびワインディングロードに繰り出せば、シャシーの圧倒的な高速スタビリティに支えられながらシャープなハンドリングとエンジンレスポンスを堪能できる。その爽快さはまさにスーパースポーツの名に恥じない。これについては田中哲也氏が次項(※GENROQ 2017年 10月号 P92-95)で詳しくレポートしているはずなので重複を避けるが、優れたスポーツ性能をまったく損なうことなく、日常的な快適性や実用性をこれまでなかったレベルまでに引き上げた点にこそ新型R8の真骨頂はある。
「コンセプトが明快で、完成度の高いスーパースポーツカーといえる」
そんな魅力を噛み締めながらR8を眺めていて気づいたことがあった。これまでのスーパースポーツカーとは一線を画すエレガントで洗練されたデザインが新型R8の魅力のひとつだが、先代に比べると微妙にアグレッシブさが増したような気がする。その最たる部分がボディ前後のメッシュグリルがやけに目立つ点。エンジンパワーの向上に伴って必要となる冷却気の量が増大したことは理解できるが、エアインテークを気圧の高い位置に移して開口面積を狭めることはできなかったのだろうか? そのほうがさらにスタイリッシュなデザインになったような気がするのだが・・・。それが無理ならメッシュ部分をボディ同色とするだけでもずいぶん印象は変わるはず。裏を返せば、そんな些細なことが気になってしまうほど、新型R8はコンセプトが明快で、完成度の高いスーパースポーツカーといえるだろう。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
アウディ R8スパイダー
ボディサイズ:全長4425 全幅1940 全高124omm
ホイールベース:2650mm
トレッド:前1645 後1610mm
車両重量:1770kg
エンジン:V型10気筒DOHC
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
圧縮比:12.5
総排気量:5204cc
最高出力:397kW(540ps)/7800rpm
最大トルク:540Nm(55.1kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドウェーブディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後295/35ZR19
車両本体価格:2618万円
アウディ R8クーペ
ボディサイズ:全長4425 全幅1940 全高1240mm
ホイールベース:2650mm
トレッド:前1645 後1610mm
車両重量:1690kg
エンジン:V型10気筒DOHC
ボア×ストローク:84.5×92.8mm
圧縮比:12.5
総排気量:5204cc
最高出力:397kW(540ps)/7800rpm
最大トルク:540Nm(55.1kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドウェーブディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後295/35ZR19
車両本体価格:2456万円
※GENROQ 2017年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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