欧州、特にドイツのEV(電気自動車)に対する期待度は、落ち着いてきた感があるが、それでも自動車メーカー各社は、独自のEC製造に力を注いでいる。ドイツ最大の自動車メーカーといえば、フォルクスワーゲングループ。傘下にアウディ、ポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーなどを抱える巨大企業だ。当然、このグループを構成する各社もEVの生産・販売を企画し実行に移しているわけだが、同じアーキテクチャーをコストダウンのために採用していたとしても、それぞれが特徴あるEV製造を行なっているところが面白い。
「ID.4」の中でもおすすめしたいのはLite!
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今回紹介する「ID.4」は、フォルクスワーゲンのEVで、2022年11月に日本市場向けの特別仕様車を発売した。それが完売したことを受け、2023年5月から本格的な日本市場向けのEV生産に取りかかった。日本市場向けの「ID.4」は、Pro(プロ)とLite(ライト)の2モデル用意されている。Proは上級モデルで、搭載する電池の総容量が77.0kWhで、204PS、310Nm。航続距離も618km(WLTCモード)。一方、Liteは52.0kWhで、170PS、310Nm。航続距離は435km(同)、車両本体価格はProが648.8万円、Liteは514.2万円。もちろん、それぞれに補助金が国や地方自治体から支給される。
この2車を乗り比べてみたが、おすすめしたいのはLiteだ。確かに航続距離はProのほうが長いものの、ハンドリング、乗り心地、扱いやすさではLiteのほうが上だと感じた。その理由はいくつかある。まず車両重量。Proは2140kgに対し、Liteは1950kgなので90kgもLiteは軽い。装備の差も理由の一つだ。例えば、パノラマガラスルーフはPro専用。先進安全性能の違いについては、コーナリングライト、LEDマトリックスヘッドライト、緊急時停車支援システムは搭載されていないが、他の先進安全装備は同等に装備されているので、実用面での差異は小さい。
もうひとつの大きな違いといえば、タイヤ/ホイールだ。試乗した2車の場合、タイヤはハンコック製の「VENTUS EVO3」でProは(前)235/50R20、(後)255/45R20を装着していた。Liteは前後とも235/60R18を履いている。45、50の20インチと60の18インチでは、乗り心地の差異は大きく、さらに軽量化も乗り心地に影響を与えている。
試乗車のLiteは、充電99%で、航続距離は満充電時の435kmからは程遠い363kmを示していた。差が大きいが航続距離の表示は、直近の運転方法によって大きく影響を受けるので、数値を鵜呑みすることは避けたほうがよさそうだ。
初めて購入する人にも不便さを感じさせない実用的なEV
走行モードは「コンフォート」モードを選択。他に「エコ」「スポーツ」「カスタム」のモードが選べる。アクセルを踏み、走り出すと、地下駐車場には周囲にウォーンという低い唸り音(電子音)が響いた。これは30km/h以下で意図的に発生させているとのこと。「ID.4」のボディーサイズは、全長約4.6m、全幅1.85m、全高1.64m。レクサス「NX」や日産「アリア」に近いサイズなので、街中での取り回しもラクだ。ちなみに、車両価格も「NX」のEVや「アリア」よりも「ID.4 Lite」のほうが安い。
Dレンジへのつまみスイッチを前方に倒すように回す。もう1回、回すとBレンジになる。Pはつまみを押しこむように動かす。Rはつまみを手前に回すように動かしてシフトする。センターコンソール上にはスッキリしている。スタートからの動きは、床下に電池を搭載しているので、重心が低く、コーナーでも安定している。
「ID.4」は車体後部にモーターを搭載し、後輪を駆動する方式だが、車体の重量配分は前後50ずつに近いので、バランスは良い。さらに、最低地上高は160mmなので、オフロードでの走りも安心感がある。
一方、回生ブレーキは、Dレンジでの一般走行ではほとんど体感できない。むしろ、中・高速域で、アクセルを離しても、コースティングするので、アクセルを離した瞬間は、回生ブレーキを期待しているのに、加速するかのような動きをする。最初は慣れが必要だった。街中ではBレンジを使うことをすすめたい。ただし、Bモードでも車両は完全停止しない。
充電に関しては、自宅の200V、3kWだと、電池残量30%から100%までは約8時間かかる。夜間にガレージで充電をしておけば、翌朝には100%充電になるので、日常の使用にはまったく不便は感じなかった。
実用面でも「ID.4 Lite」は、運転席の着座はやや低めにしても、右後方の視界はリアドアウインドウが少し視界に入るので、黙認できる。斜め前方もAピラーやミラーの死角は少なく、運転しやすかった。後席も床面はフラットで、前席下に足が入るスペースもあるので、長身の人も狭い思いはしなくてすみそうだ。
4対6で可倒する後席と、ラゲージスペースは床面がやや傾斜しているが広い。さらにラゲージでスペースも横幅が1000~1260mm確保されているので、ゴルフバッグが横置きできた。床面は左右に深さのあるポケットもあり、サブトランクの深さは約110mmあるので、充電ケーブルなどを収めることもできる。使い勝手のよいラゲージだといえる。「ID.4 Lite」は、EVを初めて購入する人にも不便さを感じさせない実用的なEVといえそうだ。
■関連情報
https://www.volkswagen.co.jp/ja/models/id4.html
文/石川真禧照 撮影/萩原文博
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