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登場から10年【カワサキW800誕生ストーリー】 開発者に聞いた「空冷・クラシックテイストへのこだわり」

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登場から10年【カワサキW800誕生ストーリー】 開発者に聞いた「空冷・クラシックテイストへのこだわり」

W650の後継として、2011年に登場したW800

1999年のW650登場からは20年以上、この後、2011年に登場したW800となってからも10年を経過したカワサキWシリーズ。

【画像26点】W1、W650、新旧W800……カワサキ歴代「ダブル」を写真で解説

年々厳しくなる排出ガス規制の影響で2016年には一度生産終了となるものの(こちらを当記事では表記上「初代W800」とする)、2019年には核となる空冷バーチカルツインをより進化させて再登場(こちらを「2代目W800」とする)、欧州の最新排出ガス規制「ユーロ5」もクリアさせた。
ライバルに比肩する排気量での動力性能の確保、フレームと足まわりの性能向上も果たしており、世界的なネオクラシックカテゴリーの人気にも対応してきた。

また2019年に再登場した現行モデル(2代目)はアシスト&スリッパークラッチやLED灯火類など現代的な装備も投入。3種類のバリエーションを展開する。
アップハンドルの装備に加えソリッドなデザインをまとったフロント18インチ仕様の「W800ストリート」、スポーティなローハンドル+カフェレーサー風シート+ミニカウルを装備したフロント18インチ仕様の「W800カフェ」、2020年に追加されたフロント19インチホイールのクラシカルな「W800」である。
基本性能の熟成、環境性能の向上とともに、より広い地域(販売市場)、あらゆる年齢層、嗜好に合わせた、充実したラインアップと言えるだろう。

20世紀の空冷カワサキといえば「Z」だろうが、21世紀の空冷カワサキ=「W」と言えるような存在となっているのだ。
当記事では2011年、初代W800が登場した時の開発者インタビューをお届けする。この頃から、日本市場のみならず世界的な嗜好を加味した開発へシフトしていったことが伺え、現在まで連綿と続く作り手のこだわりが垣間見える──。

※当記事は『別冊モーターサイクリスト2011年3月号(No.398)』特集「21世紀のカワサキ黄金時代」内の一部ページを再構成したものです(カワサキ開発陣の所属、肩書きは2011年取材当時のもの)。

W800のコンセプト「W650からの路線を継承しつつ、よしクラシカルに」

見た目だけではないクラシカルな乗車感、味わい深いエンジンフィールなど、1999年のデビュー時から独自の路線を歩んできたカワサキW650。
そして同車の後継モデルW800は、「Z」と同様に、Wシリーズがブランドとして認知された証左とも言える内容を盛り込み、進化・熟成を果たしていた。

W800誕生の経緯。それは、W650で築き上げたイメージを崩すことなく、いかにその持ち味を伸ばすかに力が注がれている。
なぜそのような手法をカワサキが選択したのか。理由は、W650が定番モデルとして市場に認知されていたからであり、コストとの折り合いをつけるという側面もあったのだろう。
ただ、ここで言うコストとは「単純に安く仕上げる」という意味とは違い、いかに求めやすい価格に抑えるかという、同社の親心みたいなものである。そのためにカワサキが行った仕事は、ユーザーの声(要望)を新しいWにきっちり反映することだった。

W800の先代モデルであるW650は1995年に開発をスタート。
ゼファーシリーズの成功により、すべてのライダーがバイクに高いパフォーマンスを求めているわけではないことを確認したカワサキは、英国風のビンテージスタイルを追求し、ベベルギヤを採用した新規エンジンを起こすなど、とことん雰囲気にこだわってW650を造ったわけだ。
ちなみに排気量を表す650という数字には、かつてのW1シリーズのイメージを与える意図が込められた。

W650の雰囲気を重視したねらいは見事に的中した。
W650を購入した動機で最も多いのがスタイリングデザインで、55%と過半数を超えるのである。
それに続く要因が乗車フィーリングやバーチカルツインエンジンで25%、残り20%はカワサキファンだからという理由が占めるという。

W1を知らない世代も増え「650にこだわる必要もなくなった」

さらに興味深い数字がある。カワサキが過去5年間のユーザー年齢層を調べたところ、20代から50代までほぼ均等の割合だった。この数字から、W650が市場に浸透するにつれ、W1を知らない世代のライダーが多くなっていることがうかがい知れる。
そうしたことも関係してか「650という数字にこだわる必要がなくなった」と商品企画の赤松さんは言う。

650→800化への動きは、以前にもカワサキ社内に提案としてあったようだが、諸事情により見送られ、正式には2009年4月ごろに決定したという。
この排気量アップの背景には、前述のように650にこだわる必要がなくなり「もう少し大きいWを」というユーザーの要望が多かったことに加え、新しい排ガス・騒音規制に対応した際に、そのままの排気量では力不足になることを考慮した結果である。

ただ、ライバル関係にあるトライアンフ・ボンネビルが865cc(当時)ということを考えると、もう少し大きい排気量で開発してもよかったのではないかとも思う。
とはいえ、実際W800に試乗した後の印象としては、もしこれ以上の排気量をWに与えると、おそらく足まわりの強化だけでは対応し切れず、フレームにも大幅に手を付けなければならなくなる。その場合、販売価格はぐんとアップしてしまい、現実的ではないという判断が、開発陣にあったのではないだろうか。

W800のデザイン「クラシカルなテイストをより突き詰める」

先述したように、W650の購入動機の過半数が、スタイリングデザインである。そうしたユーザーの要望を反映し、W800にはW650以上にクラシカルな雰囲気が盛り込まれることとなった。

自ら担当を志願したというチーフデザイナーの松村さんは、「W650はすでに完成されたデザインだったので、Wブランドのイメージを壊さないように、見た目の質感向上を目指しました。特にこだわったのがシリンダーの塗色で、650との差別化を図るために、黒塗りからシルバー塗装に変更しています」という。

確かにW650とW800とを比べるとと、一見どこが変わったのかという印象を持つ人がいるかもしれないが、細かい変更点は多岐にわたる。
インジェクション化に伴ってのW1風のスロットルボディカバーの採用や、タンクエンブレム、ドラムブレーキパネル、ヘッドライトステー、フロントフォークのボトムケースのバフ磨き、ベベルギヤのアルミダイキャストカバーのメッキ化、そして大型ウインカーの採用など、W650以上にクラシカルな装いに仕上げられている。

特に、W1の意匠を受け継いだチェーンケースは、プレスの工程が複雑なうえ、重量も重くなることから設計には苦労したようだが、素材は樹脂(W650)からクロームメッキのスチール製となった。
また、グラフィックを水転写とすることで、燃料タンク表面との段差を感じさせない仕上がりにするなど、こだわりと意欲的な試みが随所に見受けられる。

W800の車体「操作性・快適性を向上」

車体設計に関しても、そんなスタイリングへのこだわりを十分に考慮しつつ、ユーザーの意見を取り込んだと、W800プロジェクトリーダーの菊地さんは言う。
シートは前半分のウレタン形状を変更し、パイピングをタンデム部から下に配することで(従来はライダー側まで伸びていた)足着き性を改善。さらにはタックロールのピッチを細かくすることで、デザインと乗り心地を両立した。

W650の特徴のひとつであったキックアームは廃止されたが、それによりステップの位置が左右で均等になっている(従来は右ステップが若干後ろだった)。また、そのステップは可倒方向を、後ろ方向からほぼ真上とすることで、シフトチェンジ、ブレーキの操作性向上を図っている。

800cc化によるトルクアップに伴い、リヤショックは減衰力を伸び側20%、圧側10%アップ。欧州での高速走行や二人乗りにも対応した変更だ。そしてリヤショックのバネは2段から不等ピッチになったが、この変更は性能面ではなくデザイン上の理由とのこと。また、シートレール根本のガセットを肉厚化して強度を保つ工夫が施される。

そのほか細かい点では、調整式の左右レバーの採用(W650は非調整式)や、W650よりも8.5度起こされて視認性を向上させたメーター、使い勝手をよくするためのヘルメットホルダーの上部への移設、シート下にタンデムライダーのヘルメットをつないでおけるワイヤを追加するなど、かゆいところに手が届くような変更が加えられた。

ところで、W650時代はアップとローの二つのハンドルポジションが用意されていたが、W800ではローに統一されている。これは開発当初からオプションのカフェスタイルがあったことも関係しているが、操安性を考慮した結果、ロー仕様に一本化したとのことだ。
またそのハンドルバーは、一般的な22.2mm径サイズに変更され、それに伴いW400のアッパーブラケットを採用している。一本化と言えば、タイヤもパターンありきでダンロップのTT100GPに集約されている。

W800のエンジン「ドラマチックなフィーリングを造り込んだ」

エンジンに話を戻そう。ボアを5mm拡大して675→773ccとなったバーチカルツインは、規制対応のためのインジェクション化によってスムーズになりすぎるパワー特性を、いかにドラマチックにするかにも腐心している。

走行実験の井上さんは、インジェクション化してテスト走行した際「体感的な発進時の力量感が足りなかった」と語る。
そこで、1速のローギヤード化をはじめ、最大トルク値をどんどん下げて行く方向で手が加えられた。さらにインジェクションとエアクリーナーを結ぶファンネルの内径の絞り込みと延長、エキパイの内径を29.4→26.2mmに細くすることで、2500rpmで最大トルクを発揮する特性を得ている。

そのほか、騒音規制に適合させるために、サイレンサーをテーパー形状からストレート形状として容積をアップしているほか、カムシャフトのベアリングの組み付けをルーズフィットからタイトフィットにすることでメカノイズの低減を図っている。
また、5mm大径化されたピストンは、W650と同じ重量に仕上げられた。そのためフライホイールマスや1軸2次バランサーを変更する必要がなかったと、エンジン設計の黒下さんと実験の大杉さんは言う。

変えるところは変えて、残すべきところは残す。
言葉にすると簡単だが、そのさじ加減、線引きの見極めほど難しいことはない。W800の開発過程には、W650路線の踏襲という保守的な側面はあるものの、そこにはユーザーの要望に応えようというカワサキの姿勢を感じることができる。
もちろん、他のメーカーがユーザーを大切にしていないというわけではないのだが、一般ライダーの等身大の気持ちを一番よく理解しているのがカワサキではないかと、今回、開発された各氏のお話を聞いて思った次第である。

レポート●縞田行雄/阪本一史 写真●久住伸之/カワサキ/八重洲出版
編集●上野茂岐

■カワサキ W800(2代目・2021年モデル)主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:77.0mm×83.0mm 総排気量:773cc 最高出力:38kW<52ps>/6500rpm 最大トルク:62Nm<6.3kgm>/4800rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2190 全幅:790 全高:1075 ホイールベース:1465 シート高790(各mm) タイヤサイズ:F100/90-19 R130/80-18 車両重量:226kg 燃料タンク容量:15L

■カワサキ W800(初代・2011年モデル)主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:77.0mm×83.0mm 総排気量:773cc 最高出力:35kW<48ps>/6500rpm 最大トルク:62Nm<6.3kgm>/2500rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2180 全幅:790 全高:1075 ホイールベース:1465 シート高790(各mm) タイヤサイズ:F100/90-19 R130/80-18 車両重量:216kg 燃料タンク容量:14L

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みんなのコメント

3件
  • 650から800になってもう10年も経過したんかいな・・・
    そりゃオッサンになるわけだ
  • 日本車で唯一、鑑賞用に飾れるバイクやな、タンクの色使いが又ええ、トラ・ボンとかBSAを思い出すな
    ノスタルジックでメグロも中々、ええ、造形美やな
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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