ランボルギーニ初のSUV「ウルス」が大人気らしいですが、こちとらランボルギーニの元祖オフローダー、伝説の名車「チータ」で富士スピードウェイの本コースを激走してきたのである。
スーパーカー界の異端児
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ランボルギーニ・チータと聞くと、幼稚園児だった頃にスーパーカー消しゴムで遊んだことを思い出す。スーパーカー世代よりはちょいと下の世代なので、なんとなくブームの残り香があったのは幼稚園に通っていた頃になる。頂点に君臨していたカウンタックの消しゴムは兄に奪われ、代わりにスーパーカーという言葉とはまるでかけ離れた風貌を持つチータが弟の私の手に回ってきた……正確には覚えていないが、おそらくそんなところだろう。
だが成長するにつれ、このチータというクルマがとんでもない化け物で、貴重な存在だということを知るようになる。自動車専門誌を買うようになった小学生の頃、大人になったらフェラーリでもロールスロイスでも買えるようになると信じ込んでいたが、それでもチータを運転することになるなんて想像すらしなかった。
そのチータがいま目の前に鎮座し、しかもそれで富士スピードウェイを一周しろという話なのだ。
正確にはチータの名称は軍用として開発されたプロトタイプのもので、民生用はLM002という名称なのだが、まぁもうチータでいいだろう。消しゴムの裏にもチータって書いてあったし。
おそらく屋外でチータを見るのは初めてになると思うが、肥大化著しい現代のSUVを見慣れた目にも、やはりチータの体躯は恐ろしくでっかく映る。
乗り込むと……広い! 正確に言うと、助手席が遠い。センターコンソールがやけに広く、ここにもうひとり乗れそうな幅がある。
メーターはウッドパネル張りで、室内は真っ赤な総レザー! まさにランボルギーニならではのハイエンドな世界が広がっている。
話が前後するが、なぜひとりの自動車メディア編集者にすぎない私が、チータのステアリングを握るという幸運を射止めたのか? しかも富士スピードウェイの本コースで。
なんのことはない。富士スピードウェイで開催されたモーターファンフェスタのグリッドウォーク(ホームストレート上にレーシングマシンやスーパーカーを並べ、来場者が間近で見られるというプログラム)にランボルギーニ・チータが出展され、そのグリッドに並べる役を筆者が仰せつかったから。
グリッドに並べるには、レースと同じようにピットからサインティングラップを経ることになっている。つまり一周走れるわけだ。
キルスイッチをオンにして、キーを回す。ヒュイーンと、なんだかわからないが電気系っぽいものが起動した音が聞こえたところでスターターボタンを押す。
シュルシュル……すぼぼぼぼぼぼんっ!
カウンタックと同じV型12気筒エンジンはあっけなく目覚めた。あっけなさ過ぎない?
そしていよいよコースインである。もうここまで読んでくださった方なら想像がついているかと思うが、はい、記事タイトルにある「激走」なんかしていません。貴重なチータを、とにかくグリッドにつかせることが最大にして唯一の目的。シフトレバーを慎重に1速に入れ、そろーりとクラッチをつなぐ。
前はランボルギーニ・アヴェンタドールで、後ろには数台のフェラーリが連なっている。アヴェンタドールに置いていかれても、フェラーリに煽られても、とにかく無理はしない。
そう肝に銘じて1コーナーに進入したが、思いのほかブレーキが効くではないか。ガツンという効きではないだろうし、そもそもパレードランなのだからそこまで試せるはずもないが、巨体から想像されるような「スーと吸い込まれるようにアウト側に膨らむ」ような事態にはならない。
走っているうちにだんだん全体のペースが上がっていくのはこの手のスーパーカーによるパレードランにはありがちなことだが、試しにアクセルを3/4くらい踏み込んでみると、コーッという、高らかなのか重低音なのかよくわからない、けれど迫力に満ちていることは確かな独特の咆哮とともにチータならぬ象のような巨体が猛然と加速を始め、驚いてすぐにアクセルから足を離した。
不安はないが、なにしろ貴重なビンテージカーである。一瞬でも我を失ってはいけない。
それにしてもシフトレバーのゲート感は明確だし、ステアリングにも変な遊びがない。10年くらい前、カウンタックLP400を運転したことがあるけれど、なんだかそれと変わらないくらい、サーキットでもしっかり走ってくれる。そういう意味では、いまのハイエンドSUVと変わらないんじゃないの?
だがこれには但し書きが必要だろう。このチータは、スーパーカーの販売およびパーツ制作で有名なROBERUTA(ロベルタ)というスペシャルショップが所有するもので、極上コンディションの個体なのだ。車高の低いスーパーカーのサスペンションにコンプレッサーを組み込み、フロントの車高を上げて段差やスロープを乗り越えやすくするリフターシステム、通称「ROBERUTAカップ」はあまりに有名だ。そんな彼らのことだから、もしかしたらチータが持つ何かしらの弱点を解決してしまっている可能性もある。
ともあれ、タフなオフローダーにV12をブチ込む。今でこそひとつのカテゴリーとして確立されたハイエンドSUVだが、1970年代にプロトタイプで世に問い、80年代に実際に販売してしまったランボルギーニの慧眼には感服せざるを得ない。
チータにも慣れたところで、コースサイドに目をやると、お客さんたちがこちらに向かって手を振っている。借り物なのにオーナー気分で手を振り返す。カメラやスマートフォンを向けられたのは何度だったか、もう数え切れない。みなさんのフォトライブラリーのなかでは、私はチータのオーナーということになっているのだろうか? 実に気分がいい。
先ほど激走したのはウソだと書いたが、チータの巨体が轟音を響かせながら富士スピードウェイを走るサマは、やはり激走というほかなかったのではないか? 自分では見られなかったけれど。写真を撮ってくれたみなさん、そうですよね?
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