WRC 2021 第6戦
第1回 サファリ・ラリー・ケニア 2021
日時:6月24~27日
サーフェイス:グラベル
SS総走行距離:320.19km(SS数18)
サービスパーク:ナイバシャ
19年ぶりにWRCへ帰ってきた、伝統のラリー「サファリ・ラリー・ケニア 2021」が6月24~27日に開催され、TGR(トヨタGAZOOレーシング)のセバスチャン・オジエが今季4勝目を飾った。総合2位にはTGRラリーチャレンジプログラムで参戦中の勝田貴元が、自身最高位&初表彰台を獲得し、トヨタが1-2。ヒョンデのオィット・タナックがこれに続き、3位でフィニッシュしている。
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■リタイア続出のサバイバルラリー
WRCがアフリカのサバンナに帰ってきた。2002年を最後にアフリカ大陸を離れていたWRCだが、2020年シーズンからカレンダーに復帰。コロナウイルスの影響で昨年はイベントキャンセルとなってしまったが、2021年は無事に開催された。
以前のサファリと比べて大きく変わったことが2点ある。ひとつは、1000kmを下回ることがなかったSS走行距離が320kmまで大幅に短縮されたこと。そしてもう一つは、ステージが他のラリーのように完全クローズされた道路を使えるようになったことだ。どちらも現代のWRCの基準に合わせた変更だが、昔からサファリを知る人にとっては少し寂しい気もする。とはいうものの、ステージはすべて私有地(!)で行われるため、1番の課題でもあった安全面の問題はクリアできている。
●ポディウムの様子
ラリーは通常のグラベルラリーのような展開になるかと思えば、足まわりやタイヤに問題を抱えるマシンが終始続出することとなった。サファリらしい荒れた路面は健在だったということだ。本格的にラリーが始まったデイ2では、TGRのエルフィン・エヴァンスとカッレ・ロバンペラ、ヒョンデのダニ・ソルドと3組のワークスマシンがデイリタイアに追い込まれ、スポット参戦のオリバー・ソルベルグ(ヒョンデ)もリタイアとなった。
そして最終日には、初日からずっと首位を走っていたティエリー・ヌービル(ヒョンデ)がサスペンションを破損しリタイア。デイ2のSS4でリヤサスペンションが壊れながらもなんとかサービスにたどり着いたオジエが、7回のステージベストをマークする猛追を見せ、見事今季4勝目をマーク。11台エントリーのWRカーが5台もリタイアするという、サバイバルラリーを制した。
●最終日まで首位をキープしていた、ヒョンデのヌービル。左リヤサスペンションを破損し、SS14でリタイヤ
■“若武者”勝田、飛躍の理由とは?
このラリーでの1番大きなトピックは、やはり“若武者”勝田貴元の総合2位フィニッシュだろう。ついにWRCのトップカテゴリーでポディウムにあがったのだ。もちろん自身初の表彰台、そしてWRCにおける自身最高位フィニッシュも更新した。
今季の勝田は、これまでのシーズンと比べ大きく変わった点がある。それは、完走率だ。今シーズンはここまで、すべてのラリーで完走。デイリタイアも一切なく、100%完走している。これは驚異的なことで、全ワークスドライバーのなかでも、100%の完走率はもうすでに勝田だけだ。第1~3戦までは連続で総合6位フィニッシュ。続くグラベルの第4・5戦はともに総合4位を獲得。そして今回の2位。しかもこのサファリでは、最終日にラリーリーダーにもなっている。WRカーデビューだった昨シーズンが、WRC参戦5戦中デイリタイアなしの完走2戦だったことから考えれば、大きな進歩だ。
●ポディウムの様子
これにはヤリスWRCというマシンに慣れてきたことと、もちろん天性の速さも影響しているのだろうが、もうひとつ確実なことがある。それは、R5マシンでWRC2クラスに参戦を始めるよりも前から、勝田自身が取り組んできたこと。そしてそれが実を結んできているのである。サーキットレース出身の勝田が、ラリーで苦労して習得してきた技術。それは「100%の速さで走らない」ことだ。
これは勝田本人から以前聞いたことで、ある程度自分の中でマージンを取りながらスピードを調整していくというドライビング技術だ。元々フォーミュラのレースで戦っていた勝田の持っていたスピードの感覚は、ラリーの常識には当てはまらなかったらしい。プログラムの初期段階では、これくらいのスピードでクリアできるだろうとコーナーに侵入すると、速すぎてしまうことが多々あったようだ。そこでTGRラリーチャレンジプログラムでは、マージンを取って走る方法を勝田に提案したのだった。
●勝田貴元/D・バリット組のヤリスWRC
■いま、何パーセントですか?
この技術を勝田に教えたのは、当時TGRラリーチャレンジプログラムに参加していたヤルモ・レーティネン。コーナーへの減速を早めたり、走行ラインを1本アウト側にしたり、明らかにステージタイムがロスしてしまう方法を勝田の横でアドバイスしていった。もう最初のうちから速かった勝田の翼を削いでしまうかのような、一見マイナスなイメージのドライビング技術。だが、勝田ならばそのうちすぐに元の速さを見せるようになる。レーティネンはそう考えたのだろう。ミッコ・ヒルボネンと共にWRCで大活躍した名コ・ドライバーからこのドライビングを提唱された勝田は、最初のうちは戸惑いながらも徐々に自分のものにしていく。
●優勝のオジエと喜び合う、勝田
なかなか結果に現れず、下位に沈んでしまうラリーもあったがそれも最初のうちだけ。2017年ラリー・サルディニアではクラス3位、そして18年のラリー・スウェーデンでクラス優勝すると、次第に完走率が上がっていき、クラス上位に名前を並べることもしばしば見られるようになった。
あとは勝田自身がスピードの底上げを段階的に行うだけ。元々持ち合わせていたスピードレンジが高かったためか、WRカーのスピードにもすぐに慣れ今季のリザルトに生きてきている。このドライビングスタイルの変革があったからこそ、今の結果に結びついているのだろう。
●3位のタナックも一緒に勝田の初ポディウムを祝う
荒れたサバンナの道を200km/h近い速度で駆け抜けていく勝田のヤリスを映像で見ながら、「貴元くん、いま何%で走っているんだろ?」と考えてしまうくらい、安心して見ていられる勝田の走り。このまま完走を続けていけば、今シーズンは間違いなく勝田にとって大飛躍の年になるだろう。ポディウムの頂点に立つことも、遠い未来ではなさそうだ。
WRCの次戦は、高速グラベルが特徴の第7戦ラリー・エストニア。約2週間後の7月16日にスタートする。
<写真=Redbull/TGR 文=ドライバーWeb編集部・青山>
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