VWゴルフといえばなんとなく「世界のスタンダード」といったイメージも強いと思う。しかし日本には「永遠のスタンダード」だったカローラがあるではないか。とはいってもなかなかVWゴルフのような強い存在感を打ち出せないし、海外も含めてカローラを比較対象として使うことはほとんどない。なぜカローラはゴルフになれないのだろうか。カローラにもゴルフにも愛車として乗っていた自動車ライター、永田恵一氏がその謎に迫ります。
文:永田恵一/写真:ベストカー編集部
■販売台数世界1位のカローラはなぜゴルフになれない?
2018年はカローラの年かもしれない。3月のジュネーブとニューヨークのモーターショーに出展されたオーリス(ヨーロッパ)、カローラハッチバック(アメリカ)と呼ばれる海外向けのカローラに加え、5ナンバーサイズとなる日本向けのカローラもフルモデルチェンジされる年である。
カローラは日本で販売台数のトップ10をキープし続けているのは事実だ。しかしここ10年ほどは人気車のジャンルが変わってきていることもあり、トップ3には入っておらず、存在感が薄れているのは否めない。
しかし世界的に見れば、モデル末期となっている昨年でも世界販売台数では、「世界のスタンダード」というイメージが強いVWゴルフの約78万8000台(3位)を大きく上回る約116万台を販売。もちろん販売台数世界一である。
ゴルフの存在感は日本のみならず世界でもかなり大きい。そろそろカローラも負けていないのじゃないか、という意見も聞こえてきてほしいが
にも関わらず、「カローラはゴルフと並ぶ世界のスタンダードだ」という声を聞くことは少ないと思う。私にはその理由に思い当たる節がある。
VWゴルフに関しては実家で筆者が25歳(ちなみに現在38歳)になるまで、ゴルフI×2台、ゴルフII×2台、ゴルフIIIと計5台のゴルフを乗り継いでおり、18歳で免許を取った時には我が家のゴルフIIIを乗り回していた。いっぽうのカローラは20代後半に草レースのクルマにAE111型の最後のレビンを使い、プライベートでも同じレビンに乗っていた。
さらに前述の”家族車”ゴルフIIIの後釜は9代目カローラファミリーのランクスで、こちらにもお下がりで1年ほど乗っていた。古いゴルフとカローラであるが、それぞれを自分のクルマとして乗って強く感じたのは、「この2台はライバルだけど、クルマの思想や得意分野はまったく違う」ということだった。
■ゴルフIIIは"我慢"を強いる、カローラは"楽"でいられる
まずゴルフ、というよりゴルフIIIの話である。ゴルフIIIは日本の使用環境、特に都市型の使い方では音がうるさい、ATの出来が悪い、ハンドルが重い、インテリアは質実剛健としか言いようがないなど、弱点をいくらでも挙げられるくらいで、見方によってはひどいクルマともいえる。
クルマとしてはガッチリしていたゴルフIII。しかし日本の道路環境ではその性能を生かすシーンも少なかった
しかし高速道路やワインディングロードに行くと、お世辞にも静かとは言えないながら乾いたエンジン音を響かせる。そしてハンドルに絶大な安心感ある正確なインフォメーションを伝え、ハンドル操作に対し文字どおり1ミリ単位のように忠実にクルマが動いてくれる。とにかく「走りたい!」と思わせてくれるほど運転していて楽しかった。
またよく言われることだが、シートの出来もいいので燃料切れまで走り続けられそうな気になるほどのシロモノだった。当時は「アウトバーンや制限速度100km/hの一般道のある国で生まれたクルマは凄いもんだ」と痛感した。
対するランクスは亡き徳大寺先生がよくトヨタ車のドライブフィールを「クルマを運転しているのを忘れるような」と表現されていたのを思い出す。すべての操作系が軽く、静かで燃費もいい。さらに各部のクオリティや信頼性&耐久性は高いし、壊れても修理代は安いと、とにかく楽と言えば楽なクルマだった。
編集部Sも妙に納得してしまったカローラフィールダー。クルマ好きとしてはアレコレいいたくなるが、ゴルフを認めているのはクルマ好きだけではない
この原稿を依頼してくれたベストカーWeb編集部のSさんは、レンタカーなどで現行のカローラフィールダーに乗ると「これでいいじゃん」と思ったという。その意見には筆者も100%同意する。
しかしカローラのよさはクルマ好きにとっては諸刃の剣で、筆者はランクスに乗っている時に常々思っていたことがある。「これに乗っていたらクルマに対する興味、関心がなくなってしまいそう」という恐怖感だ。
現在のゴルフと海外向けまで含めたカローラファミリーとの間には、昔ほどの差はない。お互いの存在が近づきつつも、「ドイツの厳しい使用環境にも耐えるゴルフ」と「世界中の人に快適な移動手段を提供するカローラ」というどちらも明確なポリシーを持っている。
だが、ゴルフのほうがそのポリシーに強さや趣味性を感じてしまうこともあって、カローラには「日本を代表するクルマ」といったイメージが薄いのではないだろうか。
■カローラにはゴルフになるチャンスはなかったのか?
続いてカローラはゴルフになるチャンスはあったのか、という疑問がわいてくる。私の結論は「あった」だと思っている。それはカローラが40周年を迎えた2006年登場の10代目モデルの時だったと思う。
というのも10代目モデルからカローラファミリーは日本向けの5ナンバー車だけでなく、海外向けのオーリスも加わった。また5ナンバー車はユーザーの高齢化に対応し、セダンのアクシオの初期型はバックモニターを全グレードに標準装備。そしてオーリスはゴルフのような志を持っていた。
当時は2代目プリウスの立場などもあり、ハイブリッドの扱いが難しい事実はあったとは思う。しかし、もしカローラがハイブリッドモデルをリーズナブルな価格で加えていれば、ガソリン価格が高騰していたことも追い風となって、カローラファミリーがゴルフのような注目を世界中で集めたのではないかという気がする。
今更10年以上前の話をしても仕方ないので前向きに考えていこう。今後のカローラはどうすべきだろうか。具体的には燃費だけではなく動力性能の向上も含めたハイブリッドなどのパワートレーンの充実、自動ブレーキに代表される安全性の向上、ヨーロッパ車に負けないようなインテリアの質感向上だ。
ニューヨークショーで発表された新カローラHB。ゴルフへの階段を上っているのか!?
さらにいえば3ナンバー車と5ナンバー車で最良と感じる速度域を変えるのも考慮に入れるべきで、乗り心地やハンドリングに代表される走りの質の向上、そしてリーズナブルな価格も必要だ。やるべきことは多い。
と書きながらニューヨークモーターショーで発表されたカローラハッチバックを見ると、TNGAコンセプトでパワートレーン、車体は強化された。安全性もマイナーチェンジされたアルファードに採用された、次世代トヨタセーフティセンスが着く可能性もある。
自動ブレーキの性能は世界トップレベル、インテリアもよさそうと、3ナンバーカローラに関してはゴルフに対抗できるクルマになっているようにも思える。これで5ナンバーカローラの全体的な質も向上すれば、3ナンバーと5ナンバーのカローラでゴルフ包囲網が完成するかもしれない。
さらにゴルフも同クラスの競争が激しくなっていることもあり、昔ほどゴルフに明確なアドバンテージを感じなくなっているというのも事実。今のトヨタの勢いなら販売台数だけでなくクルマそのものでもカローラがゴルフを負かし、カローラが「日本を代表するクルマ」となる日は意外に近いのかもしれない。
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