ランボルギーニ・ワークスドライバーの“エース”として、DTMドイツ・ツーリングカー選手権やGTワールドチャレンジ・ヨーロッパ(GTWCヨーロッパ)のエンデュランスカップなどで活躍するミルコ・ボルトロッティ。来季2024年からはWEC世界耐久選手権やル・マン24時間レースでランボルギーニがLMDhマシンで参戦することがすでにアナウンスされているが、その準備として彼は今季のWEC/ル・マンにプレマ・レーシングから参戦し、ダニエル・クビアトとドリアーヌ・パンとLMP2マシンをシェアしている。
ボルトロッティにとって自身2度目の挑戦となったル・マン24時間と、来シーズンからランボルギーニとして本格的にLMDhの活動を開始することについて話を聞いた。
ランボルギーニLMDh、2024年はWECとIMSAともに1台での参戦に。開発と学習に集中するため
――昨季2022年はチームWRTから、今季はプレマ・レーシングからLMP2マシンでのル・マン参戦となりました。残念ながら、リタイアとなりチェッカーフラッグを受けずに終了してしまいましたが、あらためてル・マンを振り返ってみていかがですか?
ミルコ・ボルトロッティ(MB):残念ながらダニール・クビアトがクラッシュしてしまい、ゴールを見ずに自宅へ戻らなければならなかったという、僕たちが望んでいた結果ではなかったことに非常に失望したのが正直なところだ。
MB:ハイパーポールではかなりチャレンジングな走りもできたし、もしもレッドフラッグが出なければ、LMP2クラスのポールを取れていただろう。残念ながら決勝レースではリタイアとなったが、このル・マンへ向けてしっかりとチーム全体で準備を重ねて挑み、レースウイークを通してペースはとてもよく、チームとしてはよい仕事をしたと思うし、来年に向けてのフォーメーションの練習もできた。プレマ・レーシングの皆をとても誇りに思う。
――ランボルギーニワークスとして、いよいよLMDhでの挑戦が来年からはじまります。あなたが初めてル・マンに参戦した昨年と、今年のパドックの様子はまったく異なった風景でしたね。新たな時代が始まった今シーズンをどう見ていましたか?
MB:スポーツカーレースの新しい幕開けをひしひしと実感した。数多くの自動車メーカーやプライベーターがふたたび一同に集い、モータースポーツが正しい方向へ向かっていると思ったよ。そして、このビッグフィールドにランボルギーニが加入できることがとても光栄で、強豪らと戦えることが非常に楽しみで仕方がない。
――恐らく、ランボルギーニワークスとしてすでに精力的にテストを重ねていますよね?
MB:現時点では僕の口からはなにも発言することはできないが……(満面の笑顔)、来年に向けて今できることをひとつづつ積み重ねているところだ。マシンは現在も開発フェーズだが、恐らくもう間もなく皆に情報を発信することができるだろう。
――2023年のWECやル・マンにはポルシェ、キャデラック、プジョーと新顔が加わりパドックでは『信頼性』が多く話題に上がりました。
MB:今季のル・マン24時間レースには出ていたけれど、自分たちの仕事に集中していたので、正直をいうとハイパーカークラスの詳細までは追えていない。だが、トヨタ以外はほぼみんなが同じラインに並んでいる『新参者』で、どこもマシンが成熟するまでには時間が必要だと感じる。
MB:トヨタは長年LMP1クラスから継続してWECやル・マンに参戦し、どこよりも早くこのハイパーカークラスへ参入している。他のメーカーより、一歩も二歩も先をゆく経験値を持ち、数多くの成功を収めている。成功を得られるのは、なによりも『信頼性』があるからこそだ。その経験値は、さまざまな『経験』を経て得られるものであって、誰もすぐには手にいれることができない。だから、新参者たちにはまだ時間が必要なのだが、これはごくノーマルなことで、良いことも悪いことも少しずつ経験を積んで、コンペティティブになっていく。
MB:忘れてはいけないのは、スポーツカークラスの最高峰は、マシンやチームが成長過程であろうが、初心者であろうが、いきなり世界のトップクラスのレベルとして戦わなければならないことだ。LMP2やGT3のように、格下のレースで練習して、慣らしてからWECやル・マンへ参戦というのは通じない。したがって各メーカーやチームに関わる人々がどれだけの準備をして今年のル・マンへ挑戦したのか、それは想像を絶する大変さだったと思う。
■フェラーリの快挙は「同じイタリア人として素直に栄誉を称えたい」
――数多くのドライバー仲間ともル・マンで会ったと思いますが、スモールトークの中で受けたあなたの感想は?
MB:僕がル・マンのパドックで見聞きした様子では、誰ひとりとして開発でトラブルなしのマシンはなかったということだ。みんな何らかしらのトラブルを抱えており、それを解明する、改良するのにどれだけの時間や人員を費やしてきたか……。
MB:それゆえに、記念すべき100年目の歴史的なル・マンで総合優勝を誰もが目標とし、それに向けて準備を重ねていたものの、事前にトラブルのすべてを解決してスタートしたマシンは一台もなかったのではないだろうか。本来ならば開発段階で済ませたい、済ませておかなければならなかった事項も、次から次へと起きてしまうトラブル対処をしている途中にもレース活動があり、またそこから新たなトラブルが起きる。さまざまなことが追いつかなかったというのもあるだろう。実際に我々ランボルギーニが現在開発段階であるだけに、手に取るようにその様子が分かるよ。
MB:来年にはランボルギーニに加え、アルピーヌやBMWも参戦するが、今季のハイパーカークラスと同様なことが起きると推測する。『信頼性』を得るには、多くの『経験値』が必要だ。
――ランボルギーニとは互いの本社がすぐご近所にあり、イタリアを代表する自動車メーカーのフェラーリが、一大大快挙を達成しましたね。
MB:フェラーリは速さだけでなく、開発時間が短かったマシンの高い信頼性を示したことは、本当に素晴らしい仕事をしたと思うし、その努力が実った。先に述べたように、新マシンで信頼性を得るのは、本当に想像を絶する困難さとあり、彼らの快挙には同じイタリア人として素直に栄誉を称えたい。
――さて、あなたも参戦するスパ24時間レースですが、ル・マンで総合優勝したフェラーリのドライバーらをはじめ、数多くのトップドライバーが参戦しますね。とくに昨今ではヨーロッパのメーカーに所属し、世界で活躍するワークスドライバーには、ひとつのカテゴリだけではなく、どのマシンをドライブしても速さや成功を求められますが、ドライバーとしてのその大変さや魅力とは?
MB:次の異なるカテゴリのレースまでに、非常に短時間しかなく、その短時間に自身をスイッチでき、どのマシンにも対応できる適応力と才能が必要とされる。また、他のふたりのチームメイトとマシンを共有しなければならないので、自分がドライブできるわずか数ラップの内にマシンに順応しなければならない。だが、その適応力は僕の得意としていることのひとつであり、GT3であろうがプロトタイプであろうが、すぐにフィーリングを掴める。
MB:スパ24時間レースはGTカテゴリで世界最高峰のレースであり、自動車メーカーやワークスドライバーにとって、ポテンシャルが試されるレースだ。このすさまじく高いレベルの中で勝つことはとんでもなく難しく、チャレンジングなレースであるだけに、誰もがここで頂点に立つことだけを考えて挑んでいる。
MB:フェラーリのドライバーをはじめ、プロのドライバーは皆思っているだろうけれど、LMDhだけでなく、どれに乗っても『一番になりたい、なってみせる』という意志と実力。それが結果的には、ワークスドライバーに求められる能力であり、そうでなければならないと思う。WECやル・マンも同様に、このとんでもなく高いレベルの中でのチャレンジが、プロドライバーとしてのなによりも魅力だろう。
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