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いま乗るポルシェ997 GT3 RS 「芸術品」と言われるワケは

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いま乗るポルシェ997 GT3 RS 「芸術品」と言われるワケは

もくじ

ー プロローグ ヴァイザッハより愛を込めて
ー テイスティングのあとに浮かぶ言葉
ー 「良識やモラルのために、ためらう必要などない」
ー マシンであり文化であり芸術でもある
ー 番外編 よく聞くメツガー なぜすごい?

究極のスポーツカーはどっち? ポルシェ911GT3 vs ルノースポール・メガーヌR26

プロローグ ヴァイザッハより愛を込めて

2017年11月某日。長い峠道の終わりにある駐車場にたたずみGT3 RSが発する音に耳を傾けている。450ps 3.8ℓフラット6はしばらく前にイグニッションをオフにされたが、完全な静寂に戻ったわけではない。

まだ、パキンパキンと音を立てている。車体、ボディ・パネルや精緻なメカニカル・パーツがそれぞれ異なる材質、異なる形状と厚みでできているために、冷めていく時間が違うのだ。パキンパキン、パキンパキン。

このクルマは既に路上で7年を過ごし、その間に約48,000kmを走ってきた。恐らく、後期型997 GT3 RSの中で最もハードに扱われてきた1台だろう。

もとは広報車両で、これまでに数えきれない程ドリフトやスピンを繰り返してきたに違いない。ポルシェ広報は賢明にもそんな履歴について言及しないし、それを示す証拠もない。

パキンパキンと美しい音を発しながら、このクルマの情熱がゆっくりと冷めていく。

まずはこのGT3 RSがやってきた時のことをお話ししよう。GT3 RSは輸送車に積まれてやってきたが、最初の任務はショッピングだった。

幸いにも、この任務にはいくつかの選択肢が残されていた。とりわけ本誌長期テスト車両のまっさらな911がある。しかし、ほかの車両を選ぶなんて考えもしなかった。

スーパーカーで全く見当違いの事をするのが好きなのだ。ランボルギーニ・アヴェンタドールSVをマクドナルドのドライブ・スルーへ連れ出したのはわたしの自慢だ。そして、このGT3 RSの素晴らしい点は、スーパーカーにしては驚くほど使い勝手が良いことだった。

スーパーカーにしては幅が狭く、乗り心地も驚くほど良好だ。さらに4000rpm以下で運転している限りは静かでさえある。

トランクは大きく、カーボン・ファイバー製のリア・ウイングは、ポケットの中の無骨な鍵を探している間、ドイツからやってきたディスカウント・スーパーの買い物袋を置いておくのに最高の場所だ。

ただし当然、997 GT3 RSの素晴らしい点は他にもある。

テイスティングのあとに浮かぶ言葉

ウイングを見て欲しい。そして、ミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2を、スタンス、カーボン・ブレーキ、デカール、そして、そのサーキットでの資質を示す雄叫びを。

ひどい渋滞の中でさえ楽しみは数多く用意されている。ステアリングの感触、ギア・シフト、そして、各ペダルの完ぺきに調和した踏み応えは、都会の制限速度以下でも味わう事ができる。

ここからが本番だ。少したとえ話にお付き合い頂きたい。もし、ここに最高級ワイン、ペトリュスのマグナム・ボトルがあったとしても、いきなり栓を抜いて、ボトルから直接ガブ飲みしたりはしないだろう。

つまりはそういう事だが、もう少しだけこのくだらないたとえ話を続けさせて貰えれば、スワーリングをして、そのアロマを嗅いでみるのだ。これでヴァイザッハ周辺では、2010年がヴィンテージイヤーのひとつに数えられるという事がわかる。

少しだけ口に含んでみよう。スピット・バケツに吐き出せば問題ない。まさにこのクルマは最高級ワインそのものだ。道は開け、体はほぐれている。この先に待ち受ける道のためにウォーミング・アップを始めたフラット6のエンジン音が聞こえる。

ある言葉が頭に浮かんでくる。それは「メカニカル」という1語だ。この言葉はまさにこのクルマの感触そのものであり、もし、これが言うまでもないことの様に聞こえたとしても実際はそうではない。

ほかの50代と同じく、自分はまだ30才だと感じているが、実際には30才のころどんな風に感じていたかなど思い出せない。結局自分でそう思い込ませているだけなんだろう。

同じように、最新の電動パワステ、パドル付きオートマティック車に慣れてしまえば、かつてある特別なクルマだけが持っていた全く違った感覚など簡単に忘れ去ってしまう。そんな昔のことではなかったのに。

「良識やモラルのために、ためらう必要などない」

GT3 RSの「ギアを変える」というのは、単にシフトを動かしているということではない。それは、ひとつのギアを切り離して、別のギアにつなぐという機械的なプロセスを行っているのだ。

クラッチ・ペダルを踏んだ時に左足の筋肉に抵抗を感じるのも、それはこのクラッチがサーキット内外での長期にわたる使用に耐えるための必要な重さであることの証しだ。

いま峠道にいる。これまでの人生でクルマと共に親しんできた馴染み深い場所だ。しかし、いまだに驚きもある。

最近おろしたての700psを誇るGT2 RSを連れ出したばかりだったので、GT3 RSをこんな風に速く感じるとは考えていなかった。でもそれは間違いだったのだ。

公道上でのGT2には、常に慎重さが求められたし、それ以上を試すには相応の道が必要だった。しかしGT3 RSには、無駄な場所などない。

常にすべてを出し切れるとは言わないが、路面が乾き開けて空いた道があれば、良識やモラルのために、ためらう必要などない。逆に、まさに開放されるのだ。

まずはメツガーによる傑作エンジンだろう。現在でも、その8500rpmのレッドラインは天井知らずで、回転上昇をためらう必要などない。

このクルマは相当古く、エンジンは地球を周回するほどの距離をこなしたかも知れないが、その感触はまるでこれから慣らし運転をするかのようで、力強く、新車よりもパワフルだ。これまでで最高の状態だろう。

回転を上げるほどにGT3 RSは喜びを増す。このエンジンはそのサイズには不釣り合いな程の、素晴らしい中間トルクを伴った巨大なパワーを発生させる。

しかし、残念ながらこのフラット6に組み合わされるギア・ボックスは、決してこれまでで最高のできではない。これは大きな欠点と言わざるを得ないだろう。

このクルマには不必要にワイドで、すべてのシフトを強引にでも操作しなければ、次のギアにつないだ時にはトルクのピークを外す事になってしまうのだ。

それでもこのクルマは喜び以上の存在であり、栄誉とさえ感じられる。

マシンであり文化であり芸術でもある

このクルマは可能性そのものである。たとえGT3 RSが最善をもたらしてはくれなくても、その高みへと連れて行ってくれるのはこのクルマなのだ。

0-100km/h加速や、最高速度、出力といったスペックを越えた未知の世界へ踏み出すべき時なんだろう。ニュルブルクリンクのラップ・タイムや、その他測定可能なもの、事実や数字だけでは説明できない世界だ。

つまり、すべてはこのクルマをどの様に感じ、そして、このクルマがどの様に感じさせるかだ。必要なのは、強靭な精神力であり、瞳に宿る輝きであり、この太くグリップに優れたミシュラン・タイヤに熱を入れることなのだ。

ハードに走り込む。サスペンションを動かすために負荷をかける。セラミック・ブレーキを正しく使う。一旦暖まればブレーキ・ペダルを通じて適切な感触が得られるようになる。そうすれば、ペダルは正しい位置におさまり、ヒール&トウを使ってのダウン・シフトも自然にきまるだろう。

ヒール&トウ? もうひとつの失われゆく芸術だ。

そしてこのクルマが911であることを思い出す。

早いタイミングでコーナーに侵入し、エンジンのパワーだけでなく、リア後端に張り出したそのレイアウトをも利用して、コーナーから脱出するのだ。

もし、リアに挙動を感じたら、ステアリングを少し戻してそのまま進むだけだ。そうすればまさに人車一体の瞬間がやってくる。

ドライバーの考えが乗り移り、このクルマはその意思のままに動く。そして駐車場にクルマをとめて我に返ると、クルマが冷えていくパキンパキンという音。

この瞬間を何度も何度も繰り返す事になるだろう。

まさにこれこそが、このクルマがこれまで運転したカタログ・モデルのGTシリーズの中で最高のポルシェであるだけでなく、すべてのクルマのなかでもベストの1台だという理由だ。

いつの日か再び巡り合えることを信じて。

番外編 よく聞くメツガー なぜすごい?

全ての911にはオーバーヘッド・カムを持つフラット6エンジンが搭載される。このエンジン形式には多くのデザインがあるが、GT3 RSとその他多くの911のリアに積まれてきたメツガー・エンジンほどの称賛を得たものはない。

高名なその設計者、ハンス・メツガーから名付けられた。メツガーは多くのエンジンをポルシェのために設計し、その中にはポルシェ単独としては唯一のF1勝利(1962年のフランス・グランプリ)を飾ったエンジンである1.5ℓフラット8、カンナムカーレースを席巻した917/30に積まれた1217psを発する5.4ℓフラット12、そして1984年から1986年にかけてマクラーレンと組んで3度のF1タイトルを手中に収めたポルシェTAGターボ・エンジンが含まれる。

事実、メツガーは1998年に水冷化されるまで、ほとんど全てのフラット6エンジンに携わっており、重要な点は、他の911が新設計の後に問題を起こす事になるエンジンに切り替わったあとも、991シリーズに至るまで、全ての911ターボとGTシリーズにはメツガーと深い関わりがある。

何故か? それはこのエンジンが1998年のル・マンにおけるポルシェ911 GT-1 98を勝利に導き、ほとんど壊れることの無いその耐久性の高さで既に知られた存在だったからだ。この信じがたい事実は単なるお飾りではなかったのである。

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