大ヒット中のトヨタの新型「ランドクルーザー」に今尾直樹が試乗した。大きく進化した和製オフローダーの実力とは?
“どこへでも行き、生きて帰って来られる”
極上のメルセデス・ベンツ190SLに迫る! “ヤナセ”ならではのこだわりとは?(前編)
昨年8月に国内発売となった新型ランドクルーザーのディーゼルに、ごく短時間ながら試乗する機会を得た。
ランドクルーザー、略称“ランクル”は、年間1000万台が生産されているトヨタ車のなかでも、世界中のひとびとからもっとも熱望されているモデルである。日本に住んでいると、“どこへでも行き、生きて帰って来られる”というキャッチフレーズは大仰に感じるけれど、それがランクルのアイディンティティであるとトヨタは考えている。だからこそ、SUVの多くがモノコックの全輪独立懸架を採用する時代だというのに、あいかわらずフレーム構造と、リアにリジッド・サスペンションを使うことにこだわっている。
パワーユニットはピュア内燃機関のV6ツイン・ターボで、ガソリン3.5リッターとディーゼル3.3リッターがあり、どちらもおなじギア比の10速ATを組み合わせている。駆動方式はセンター・ディファレンシャルにトルセンLSDを用いたフルタイム4WDで、現代の4WDの多くが採用している多板クラッチは使っていない。多板クラッチは熱を持ちやすく、熱を持つと壊れやすいからだ。
価格はエントリー・モデルがGX 3.5L ガソリン(5人乗り)で510万円。GRスポーツを別格とすると、最上グレードはZX 3.3L ディーゼル(5人乗り)で、760万円。ガソリンはGX以外、3列シートの7人乗り、ディーゼルはすべて5人乗りとなる。
試乗したのはZX、すなわちディーゼルの5人乗り、装備満載のグレードである。
まずもって新型ランクル、全長5010×全幅1980×全高1925mmという巨体である。とりわけ1925mmという全高は、新日本プロレスのオカダ・カズチカの191cmより高い。もっとも、プラットフォームを一新しているにもかかわらず、ホイールベースは先代とおなじ2850mmで、ボディは先代も大きかった。
特徴のひとつは最低地上高が225mmもあることで、乗り込むにはよっこらしょ、とよじ登らねばならない。運転席に着座してしまえば、トヨタの最高級車クラウンと間違えそうなほど豪華絢爛、なんでもついているコクピットが待っている。
さすがキング・オブ・オフローダー
3.3リッターV6ディーゼル・ターボは最高出力309ps/4000rpm、最大トルク700Nm/1600~2600rpmを発揮する。低速から大トルクを生み出しているけれど、車重は車検証で2600kgもあり、ふわりと羽のように動き出すわけではない。
むかしの東映の実写版特撮TVドラマの『ジャイアントロボ』みたいに、といってもご存じない方もいらっしゃるでしょうけれど、「飛べ、ジャイアントロボ!」と大作少年が命令すると、「バッ」と一拍置いてから動き出す。あれは大きさを表現していたわけで、アクセルを踏む。
バッ。とはいいませんが、ランクルは一拍おいてから、動き出す。動物でいえば、大きなクマとかが物憂げに、それじゃ、いきますか、という感じで歩み始める。いかにも大きなものを動かしている感がランクルのおもしろさである。
乗り心地はいいといえばいい。リア・サスペンションにリジッドを使い続けている、という意味では同類のメルセデス・ベンツ「Gクラス」よりたぶんソフトだ。もちろんGクラスの開発陣は硬いほうがウケると考えて、あえてそうしているわけである。ランクルはあくまで民生品だから、トラックっぽい固定懸架の欠点をなるべく隠そうとしている。こころもち、フワフワする。タフな4×4をペリメーター・フレーム時代のクラウンのやさしさでくるんでいるような、そういう乗り心地を実現している。もちろん、クラウンほどフワフワではないですけど。
3.3リッターV6ディーゼル・ターボはおおむね静かで、ディーゼルっぽさを感じない。動き出してしまえば、2.6tの巨体をまどろっこしくなく動かす。クロス・レシオの10速ATも黒子に徹しつつ、大きな役割を果たしているのだろう。100km/h巡航は1500rpm程度だから、エンジンの存在感はほとんど消えている。
アクセルをガバチョと踏み込むと、ターボっぽさは当然ある。でもそれは、ターボラグはあるかな? ということを確認するためにガバチョと踏んだためで、そういうことをしなければ気づかない。
フツウに高速道路のカーブを走っていて、アンダーステアっぽい感覚はある。背が高い、ということは重心が高くて、大きくて、フレーム構造で車重が重い4輪駆動車がスイスイ曲がるほうが奇妙というもので、ステアリングを切ると、ロールがあって、それから曲がり始める。曲がりたがらない巨体を、いかにスムーズに曲げていくか。これはなかなかやりがいのある操作で、ランクル乗りの腕の見せどころ、もしくはたのしみのひとつ、といえるかもしれない。
着座位置が高いから、眺めがいい。高所恐怖症の方はやめておいたほうがよい、と忠告しておきたいほどだ。横浜ベイブリッジなんか走った日には、もう遠くまで見えちゃう。もちろん富士山も見える。富士山は低いクルマから見えるけれど、ランクルから見る富士は日本一の山である。どこが違うのか? 景色が違う。横浜ランドマークタワーの根元まで見えちゃう。実際に見えたかどうかは別にして、そういう気がする。しもじものクルマを見下ろしながら、気分は王さま。さすがキング・オブ・オフローダーである。
4年待つ価値は十分にある
試乗後、開発担当者の方と立ち話する機会を得た。新型ランクル、発売以来、大人気出そうで、その理由はアウトドア・ブームだから? と、質問すると、こんな答が返ってきた。
「も、ございます。あと、10年ぶりに刷新させていただいたということで」
前のオーナーの買い替えがあると。
「ちょっと変わったところでは、アルファードを買われているお客さまが3列シートということで」
そんなお客がいるのだ。こっち(ランクル)のほうが付加価値がついていて高いから、トヨタとしてはこっちが売れた方がいいですね。
「アルファードもけっこう……」
あ、確かに。そうなると、どっちが売れてもいい。でも、やっぱり自分が開発した方がカワイイですね(笑)。
「……(笑)」
開発にあたって、オフロード性能をどのくらい考えていますか? 日本ではオフロードの使用状況はほとんどゼロでしょ。
「とはいえ、ランドクルーザーを買っていたいただくお客さまというのは、グローバルでいくと、オフロード、荒れた路面で乗っていただくことになります。なので、まずオフロードを基準と考えています。といったところでフレームを残していますし」
想定しているのは、ドバイとかですか。
「高速道路がしっかりしているところもあるんですが、ドバイのお客さまとか、昼休みに砂漠に行って、坂をガーっと、そういうレジャーをやっておられます。砂漠の山をどこまで登って行けるか。前のモデルがしっかり走れるところを、新型でも走れるようにしています」
そういう砂漠での使用にも耐えて、新型ランクルでは200kgも軽量化しているのだから、スゴイ。と、設計者の方を称賛しておくべきだった……ということにいまになって気づいた。
耐久性をおもんぱかって、センター・ディファレンシャルにトルセンを用いるようなことをやるのであれば、いっそパートタイム4WDにして、FRと4WDの切り替え式にしたほうがもっと頑丈そうなのに……と、勝手なことを申し上げたところ、担当の方は呆れることなく付き合ってくださった。
「はい。そこはなかなか考え方的なところだと思うんですけど。切り替えのわずらわしさをもたれているお客様がいらっしゃって、戻されずに高速を、4WDのまま走られるお客様がいらっしゃる。そうすると、熱をもってしまうことになって、壊れやすくなる」
ハイブリッドの採用を見送ったのも、「生きて帰って来られる」ようにするためだ。電動化でいちばん辛いのは熱で、バッテリーは水にも弱い。水のなかをじゃぶじゃぶ走るなんてことは、ハイブリッドではアブナイ。
燃費規制のため、アメリカ向けはレクサス「LX」のみとし、ランクルは輸出しない。レクサスだったら高いから、ランクルほど台数が出ない。だから燃費規制をクリアできるわけだ。将来の電動化はもちろん検討しているという。
新型ランドクルーザーはその後も世界中でメチャクチャ売れていて、トヨタのホームページによると、半導体不足もあって、いま注文すると納車は4年後になるという。国内は年間1万~2万台の計画だそうだから、それから想像すると、最大8万台の受注を国内だけで抱えていることになる。
それにしても4年は長い。4年後の2026年、あなたはなにをしているだろう? たとえ、なにをしているにせよ、新型ランクルほどタフな使用環境を想定してつくられている自動車は、おそらく地球上に存在しない。早速、ご注文にいかれると、よろしいのではないでしょうか。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
ランクルではなくLXだが、中東の砂漠らしき所でボンネットとドアを開けた状態で、運転手が干からびた写真が某サイトにアップされてた・・・