8月に鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーGT第3戦では、GT300クラスを制した244号車たかのこの湯 GR Supra GTの面々が、参戦2年目で手にした初勝利の喜びを噛み締めていた。しかしその裏で、「身の置き所がない思い」に駆られた者がいた。それが、244号車の車両メンテナンスを請け負うつちやエンジニアリングの代表で、HOPPY team TSUCHIYAの監督を務める土屋武士だ。
土屋監督が複雑な感情に苛まれた理由には、HOPPY team TSUCHIYAが走らせる25号車HOPPY Porscheの苦戦がある。彼らは2020年、競技車両を前年まで使っていたマザーシャシーのトヨタ86 MCからGT3車両のポルシェ991 GT3-Rにスイッチ。しかし、これまでの最高位は6位に留まっており、244号車スープラが優勝した鈴鹿戦でも23位だった。
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「どの車両でもイーブンに勝つチャンスがあると思っていたんですが、実際は全然そんなことはありませんでした。現実は、“BoP”が全く機能していないんです」
土屋監督の語るBoPとは“バランス・オブ・パフォーマンス”、いわゆる性能調整のこと。『GT300(昨年までのJAF-GT300)』、『GT300マザーシャシー』、『FIA-GT3』という3つの車両規格が存在し、多種多様な車種が参加するGT300クラスでは、拮抗した戦いを生み出すために性能調整が行なわれ、最低重量やエアリストリクター径、最大過給圧などが調整されている。特にポルシェのようなFIA-GT3車両に関しては、シャシーや空力パーツ、エンジンや足回りといったホモロゲーション(公認)されたパーツは全て改造が禁止されているため、BoPによる性能調整は戦いの肝となってくる。
しかし土屋監督は、GT300規格の244号車GRスープラとFIA-GT3規格の25号車ポルシェを共にメンテナンスし、自らの手でドライブもするからこそ、BoPが機能していないことが「ハッキリと分かる」という。彼は「スープラを物差しにすると……」と、おもむろに説明を始めた。
「スープラはもちろん勝てるクルマですが、どこのサーキットに行っても、ポルシェではスープラに勝てないんですよ。それは自分が両方のクルマに乗っていて、両方エンジニアリングをやっているからこそ、ハッキリと分かります」
「今、(GT3車両で)スープラと良い勝負ができるのはGT-R(日産GT-R NISMO GT3)だと思います。これは実績が証明していますよね。しかし、スープラとGT-Rは良い勝負ができるのに、スープラとポルシェではそれができない。FIA-GT3のBoPが均衡を保っているとしたら、スープラとポルシェは良い勝負ができるはずなんです」
「同じ人がいじっているクルマでこれだけの差がついてしまっているので、『ポルシェをやってる人が下手なだけなんじゃないの。チーム力がないんでしょ』という理屈は通じない訳です。開発タイヤだから(均衡を保つのが)難しいという話も出ますけど、(25号車と244号車は)タイヤも一緒ですからね。それらがFIA-GT3の均衡が崩れているという根拠になると思います」
鈴鹿でのスープラの勝利は、土屋監督の父であり、つちやエンジニアリングの創設者でもある春雄氏が逝去して以来、同社が手がける車両の初優勝となった。土屋監督は「親父に優勝を報告できたという点では少し救われた」と語ったが、同時に「今の自分ではダメだと気付かされたレース」だったとも語った。
「身の置き所がないような、そんな思いに駆られてしまったというのが正直なところです」
「応援してくださっている方々や、一生懸命走ってくれているドライバーふたりに対して、みんなの気持ちや生活を背負っているチーム責任者、オーナー、リーダーとして申し訳ない気持ちです」
「GT3とは“そういうもの”だと思っていた自分が甘かった。良い勉強になりました。生き抜くにはこの甘さじゃいけないと思います」
ポルシェを競技車両に選んだことに対する自責の念を語った土屋監督。今後、競技車両を再び変更する可能性もあるのか? そう尋ねると、彼はこう語った。
「もちろん、車両スイッチの可能性もありますし、これ(現状)を変えられる方法が他にあれば、そちらに尽力をする可能性もあります。そういったアクションはもちろん考えています」
自らの甘さを認識したと語った土屋監督だが、その心の炎は消えていないどころか、むしろその強さを増している。「確かに“甘かった”とは認識しましたが、自分の価値観やスタイルは変えずに、“負けない自分”になって挑戦したいです」と締めくくってくれた。
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みんなのコメント
トヨタ系のV型エンジンの低音は慣れない。