無冠の帝王 1992年シーズン
1960年代のF1グランプリでワールド・チャンピオンを獲得したイギリス人ドライバーはジム・クラークやグラハム・ヒルなど数多く存在したが、1976年のジェームス・ハント以来途絶えていた。1980年代後半からチャンピオンの至近距離にいながらその座を掴めず「無冠の帝王」と呼ばれていたのがイギリスの星たるナイジェル・マンセルだった。
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そのマンセルに勝利の女神がほほ笑んだのが1992年シーズンだ。当時最も戦闘力の高かったウイリアムズFW14Bルノーを手にしたマンセルは、16戦中9勝という圧倒的な強さを見せ、悲願のワールド・チャンピオンを手にしたのである。愛機ウイリアムズFW14Bのノーズに着くゼッケンはレッドで描かれ、親しみを込めて「レッド・ファイブ」と呼ばれた。
グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2019の中で開かれたボナムス・オークションに主役として用意されたのが1992年シーズンにナイジェル・マンセルとリカルド・パトレーゼがドライブしたウイリアムズFW14Bルノーだ。それもただ乗っただけではなく、南アフリカGP、メキシコGP、ブラジルGP、スペインGP、サンマリノGPと開幕5連勝を成し遂げたシャシナンバーFW14-08なのである。
それだけではない。心臓部にも高評価の理由があった。
今も残る名機
ワークス・エンジンを搭載したF1マシンは、シーズン後にエンジンを返却してしまうためディスプレイ仕様となるケースが多い。
しかし、このシャシナンバーFW14-08は当時のまま残されていたことが評価を高めている。また細かな点では、コクピット内に付くマニュファクチャラーズ・プレートの回りには、往年の戦闘機の撃墜サインよろしくチームで貼られた勝利の星ステッカーが残されている点も見逃せない。
イギリス人のヒーローで今も人気の高いナイジェル・マンセルが5勝を勝ち取り、ルノー・エンジンが残され、ヒストリー的にも、メカニカル的にも申し分ないことから、グッドウッド・オークションにふさわしい激しい入札合戦が繰り広げられ、最終的に3億6761万円で落札された。
近年は低迷しているウイリアムズだが、その最盛期を彩ったFW14Bはこれからも最高のマシンと評価され続けてゆくに違いない。
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