専用のエアロパーツが特別なモデルであることを主張
この夏、最新バージョンが登場することで大きな注目を集めているフェアレディZ。各所に初代モデルへのオマージュが窺えるとも話題になっていました。そこで、気になる初代モデルですが、なかでも登場に際してビッグニュースとなったモデルが240Z-Gでした。Gノーズとオーバーフェンダーで、他車はもちろん、フェアレディZシリーズのほかのグレードよりも、強烈な存在感が感じられました。そこで、240Z-Gを改めて振り返ります。
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スパルタンなスポーツカーから豪華なグランツーリスモに
初代フェアレディZ(S30)は1969年に、日本を代表するスポーツカー、フェアレディ(SR311)の後継モデルとして誕生。しかしSR311がスパルタンなオープン2シーターだったのに対して、S30はクローズドの2ドアクーペ……正確にはリヤにハッチゲートを持つ3ドアハッチバックへとコンバートされていて、ファンの間でも、はたしてこれがスポーツカーなのか? との激論が戦わされたことも今では懐かしい思い出になっています。
ちなみに登場した時点でのラインアップはL20エンジンを搭載したベースモデルのZに豪華仕様のZ-L。そしてZよりも半年前にスカイラインGT-Rに搭載されてデビューしていた、S20エンジンを搭載するホットモデルのZ432という3グレードでした。ですが、型式はZ-Lが基本車種扱いのS30で、ベースモデルのZがS30S、Z432がPS30となっていました。この辺りにも日産の思い描いていたZ像が垣間見えるような気がします。
それはともかく、輸出仕様はL20エンジン(1988cc=78.0mmφ×69.7mm/ツインキャブを装着して最高出力は130ps)を2393cc(83.0mmφ×73.7mm/ツインキャブを装着して最高出力は150ps)に拡大したL24を搭載。
デビューから2年後の1971年に、このL24エンジンを搭載して国内デビューを果たしたモデルがフェアレディ240Zです。このときは240Zと240Z-L、そして240Z-Gの3グレードで、240Zと240Z-Lは2L仕様に倣って、それぞれHS30S/HS30の型式名を与えられ、240Z-GはHS30Hとされていました。
240Z-G以外の2車は2L仕様と同様に、ボディサイズは全長4115mm×全幅1630mm×全高1285mmでホイールベースも2305mmで共通でしたが、240Z-Gは全長が190mm伸び、全幅が60mm拡幅となっていました。ほかのモデル(グレード)に対して全長が長くなったのはロングノーズ(となるノーズコーン)を装着し、全幅が広くなったのはオーバーフェンダーを取り付けていたからです。
Gノーズと呼ばれるノーズコーンは整流効果を狙っていて、ボンネットのカーブを延長したシルエットを持っていました。またラジエターグリルをバンパー上からバンパー下に移動したことで、ボンネットからノーズコーン、そしてバンパーまでもが一体成型されたようにスムースな面でつながり、見るからに空気抵抗が低減されていたように映りました。これにはヘッドライトを覆う透明なアクリル製のカバーもひと役買っています。
240Z-Lにもヘッドライトのカバーが装着されていましたが、ボンネット前端を左右に延長したラインで折り曲げられた形状となっていて、空力的には明らかに、Gノーズに軍配が上がっていました。ちなみに、Gノーズのことを日産ではエアロダイナ・ノーズと呼んでいました。これが正式名称でGノーズ、あるいはグランド・ノーズは愛称でしかありません。
もう一つ、240Z-Gの大きな特徴となっているのがオーバーフェンダーです。全幅が60mm拡幅されているので、左右それぞれ30mmずつ張り出していることになりますが、ホイールアーチだけでなくフェンダーの上から取り付けられているため、30mmの張り出し以上にボリュームがあり、それがスタイリングを大きく特徴づけることになりました。
240Z-Gはシリーズで唯一、175HR14サイズのラジアルタイヤが標準装着されていました。実際にはもう1~2サイズ太いタイヤでも十分収まってしまうほど、タイヤハウスのキャパシティには余裕がありました。ほかのモデル(グレード)では6.45H14-4PRのクロスプライタイヤが標準装着されていましたが、いずれにしても、今やコンパクトカーのヤリス(のベーシックモデル)も175/70R14を標準装着しているほど。2.4L直6搭載のスポーツカーが、クロスプライや偏平率82%のラジアルを装着していたことに時代を感じます。
サファリラリーで優勝したブルーバードと関連したメカニズム
フェアレディZは、1969年のデビュー時にはスカイラインGT-R(いわゆる“ハコスカ”のPGC10型)と同じ、2L直6ツインカムのS20エンジンを搭載するZ432もラインアップされていましたが、そのほかのモデルは2L直6 SOHCのL20を搭載しています。
一方、240Zは、L20を2.4LにスープアップしたL24を搭載していましたが、これはブルーバードの3代目、サファリ・ラリーで優勝した1600SSS(P510)が搭載していたL16エンジン(1595cc=83.0mmφ×73.7mm。最高出力はSUツインキャブ装着の有鉛ハイオクガソリン仕様で105ps)とボア×ストロークが同じで、言ってみればL16に2気筒分追加したエンジンがL24となります。
そのために、L16でレースやラリーに向けて開発されたエンジンのパーツが、そのままL24でも使用できることから、240Zのパーツ開発で大いに役立ったようです。ちなみに、日産のL型エンジンに関して言えば、1965年にデビューした2代目セドリックのスペシャル6(H130型)に搭載されたL20型が登場。
その2年後に3代目ブルーバード(510系)に搭載されて4気筒のL13型とL16型が登場したために、これらはL20型から2気筒分を切り取った、と説明する文献もありました。ですが、1965年に登場したL20型はとくに初期型と呼ばれ、6気筒でもクランクのサポートが4ベアリングと旧式なスペックでした。
一方1967年に登場した4気筒のL13&L16は4気筒でもクランクのサポートが5ベアリングとスペックがアップデートされています。フェアレディZに搭載されたL20&L24は、このアップデートされたスペックの6気筒ということで、排気量拡大(ボアアップ)に備えてシリンダーピッチも拡げられていました。とくにL20(後期型)はデビューした当初、初期型のL20と区別するためにL20Aと呼ばれていた時期もありました。
ともかくフェアレディZは最初から後期型のL20を搭載してデビューし、シリンダーピッチの拡大もあって排気量を拡大したL24を搭載する240Zが誕生した恰好でした。
Gノーズ装着で最高速で約5%! 中間加速で約30%アップ
240Z-Gの最大の特徴であるエアロダイナ・ノーズ、通称“Gノーズ”についてもう少し詳しく解説しておきましょう。見るからに空気抵抗が低減されていたように映りました、とは先に触れたとおりですが、実際にも空力的に進化したデータが残っています。
それは当時のカタログでも「空気抵抗係数(Cd)=0.390、揚力係数(CL)=0.149。走行性能は最高速で約5%、中間加速で約30%アップ」と謳われていました。事実、エンジン出力は240Z/240Z-Lと同じ150psを発生するL24エンジンを搭載していながら、前者の最高速が205km/hに留まっていたのに対して、240Z-Gでは210km/hを記録。これは160psを発生するS20エンジンを搭載していたZ432と同数値で、空力で10psのアンダーパワーをカバーしたことになります。
ちなみに、240Z-Gと240Z/240Z-L、Z432が搭載していた5速のマニュアルトランスミッションは、変速比も共通でしたが、ファイナル(最終減速比)に関しては、240系が3.900だったのに対してZ432は4.444とローギアード化。985kg~1010kgの240系に対して、Z432が1040kgと30kg以上も重かったことへの対策だったと思われます。
ブルーバード1600SSSに続いて1971年から日産のラリー活動において主戦マシンとなったフェアレディZですが、とくに海外ラリーにおいてはよりハイパワーなZ432ではなく240Zが使用されてきました。それは絶対的なパワーよりも、より野太いトルクが重視された結果の決定でした。
そして240Z-Gがデビューしたあとも、国際ラリーではエアロダイナ・ノーズ、通称“Gノーズ”を装着していない240Zが使用され続けていました。それは空気抵抗の減少というメリットに対して、ノーズが190mm伸びたことで取り回しが大変になるというデメリットも考えられたからでしょうか。
もちろん重量増(市販モデルで240Z-Gは240Z-Lに対して+15kg)もマイナス要因だったでしょう。これに対してレースでは、空気抵抗の低減が、より大きなメリットとなってきます。デビュー当初はS20 エンジンを搭載したZ432で国内レースを戦っていた日産ワークスも、1年後には240Z-Gをサーキットに持ち込んでいます。ライバルのロータリー軍団がパフォーマンスを引き上げてくると、240ZRと呼ばれるマシンを投入するまでになりました。
これはリターンフローでウエッジ型燃焼室を持ったL24のヘッドを、クロスフローで半球型燃焼室を持ったLYヘッドと呼ばれるレースオプションに交換したもので、L28にLYヘッドを組みつけた最終モデルのLY28では2バルブのまま300psを絞り出すまでになっていたようです。
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