■「カウンタック」が登場する映画といえば『キャノンボール』
砂漠地帯のハイウェイを疾走する、ブラックのランボルギーニ「カウンタックLP400S」。コックピットには、胸元が大きく開いたジャンプスーツに身を包んだふたりのセクシー美女。美女たちはポンティアック「トランザム」の高速パトカーを、カウンタックのスピードと“女の色気”で翻弄しつつ、「制限速度55mph(約88km/h)」と記された交通標識に、真っ赤なスプレーペイントで「×」印を落書きする。
●荒唐無稽なアメリカ大陸横断レース
これは、1981年に公開された米・香港共作映画『キャノンボール』冒頭のシーンである。モデルとされたアメリカ大陸横断非公式レースにも参加した自動車ジャーナリストであるブロック・イエーツの脚本を、スタントマン出身のハル・ニーダム監督が映画化したこの作品は、東海岸コネティカットから西海岸カリフォルニアまで、北米大陸を一番早く横断したものが優勝という荒唐無稽な公道レースを、豪華スター陣の出演で描いた超お気楽系アクションコメディである。
ストーリーと呼べるものなど皆無に等しく、豪華キャストたちによるギャグの連発とカーチェイスに終始する、極上のB級映画である。
一応の主人公は、当時のアメリカでセックスシンボルとも称されたバート・レイノルズ扮するJ.J.マクルーアと、ピンチになると「キャプテン・ケイオス」なるヒーローに変身してしまうヴィクター(ドム・デルイーズ)、そしてファラ・フォーセットの演じる天然系セクシー美女パメラたちニセ救急車チームとされている。
ところが、J.J.組のほかにも最新科学装置を大量搭載したスバル「レオーネ・スイングバック」に乗る「自称日本人」チーム(ジャッキー・チェン&Mr.Booことマイケル・ホイ)、豊富なオイルマネーを武器にレースを牛耳ろうとするアラブ某国の王子のロールス・ロイス「シルヴァーシャドウ」、賭博の借金から逃げつつ汚い手でレースを引っ掻き回すニセ神父コンビ(ディーン・マーチン&サミー・デイヴィスJr.)のフェラーリ「308GTS」、自分が007のロジャー・ムーア(≒ジェームズ・ボンド)であると思いこんだ富豪を演ずるロジャー・ムーアのアストン・マーティン「DB5」など、個性溢れる登場人物とクルマたちが全米を舞台に暴れ回り、まるで群像コントのような様相を呈する。
もちろん、この種の映画では必ず「敵役」となる警察官や安全団体との丁々発止のバトル劇がコミカルに繰り広げられるほか、さらには名作『イージーライダー』をセルフカバー(?)したようなピーター・フォンダ演ずるヘルズ・エンジェルス風暴走族を相手に、ジャッキー・チェンがカンフーの大立ち回りを展開するなど、ツッコミどころとお楽しみどころが同時に満載された、愛すべき作品なのだ。
公道レースを題材としたゆえに、素晴らしい名車たちが数多くスクリーンを飾る『キャノンボール』だが、それでもこの作品中でもっとも印象深いクルマといえば、誰がなんといおうとオープニングから登場したカウンタックLP400Sにとどめを刺す。
漆黒のボディの前後に大型ウイングを取り付け、マフラーは気筒数と同じ12本出しという、オリジナル至上主義のランボ・ファンが見たら卒倒しそうな個体なのだが、これがまた、この映画にはピッタリの破天荒ぶりを披露する。
そして今作以降の続編『キャノンボール2(1984年・米作品)』、および『キャノンボール3 新しき挑戦者(1989年・カナダ作品)』でも、カウンタックによるオープニング・カーチェイスは継承される。
実はこの映画が元祖となったというエンドクレジットのNGシーン選集とともに、今なお『キャノンボール』シリーズの象徴とされているのだ。
ところで、スーパーカー界のカリスマ的アイドルとして全世界で圧倒的な支持を受けるランボルギーニ・カウンタックながら、意外にも映画への出演は決して多くない。前任モデルのミウラが『個人教授(1968年・仏)』や元祖『ミニミニ大作戦(1969年・英)』などの人気作品に出演したほか、近年では『トランスポーター』シリーズなどでも「ムルシエラゴ」が素晴らしい存在感を見せているのに対し、カウンタックの登場する映画といえば思い出されるのは、日本の『蘇る金狼(1979年)』くらいのもの。それでもこの2作品での活躍は、カウンタックのカリスマを充分以上に再認識させてくれると思うのである。
●劇中車:ランボルギーニ・カウンタックLP400S
生産年:1978年
LP400に前後オーバーフェンダーを装着して、ウルフカウンタックのイメージに近づいたLP400S
『キャノンボール』/The Cannonball Run
公開年:1981年
上映時間:95分
監督:ハル・ニーダム
出演:バート・レイノルズ、ジャッキー・チェン、サミー・デイヴィスJr.、ロジャー・ムーア
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