CANインベーダーという新たな自動車盗難装置。すでにテレビなどで、わずか数分で窃盗犯がクルマを盗んでいく映像を見た方も多いだろう。
本サイトではそのCANインベーダーによる自動車盗難を防ぐことはできるのか、「【実録】自動車盗難の新手口 その名もCANインベーダーの恐怖! 最新最強盗難術をどうすれば防げるのか?」という記事を2021年10月17日に公開した。
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その後、筆者がCANインベーダーの取材を進めるなかで、6000ユーロでCANインベーダーを販売している海外サイトを発見!
はたして、どのようなサイトだったのか、その中身を紹介するとともに、警察関係各所に通報した。
さらに自動車盗難撲滅に向けて何をすべきか、自動車盗難を追ってきた筆者による、渾身のレポートをお届けしよう。
【実録】自動車盗難の新手口 その名も「CANインベーダー」の恐怖! 最新最強盗難術はどうすれば防げるのか?
文/加藤久美子
写真/Adobe Stock(トビラ写真/Alexander Potashev@Adobe Stock)
[gallink]
■昨今の自動車盗は「狙いを定めて周到な準備をして盗む」
車両本体の盗難発生場所一覧(出典:日本損害保険協会)
自宅屋外と屋外の契約駐車場の盗難が7割以上を占めている(出典:日本損害保険協会)
昨今の自動車盗難は組織化されており、「狙いを定めて盗む」方法が主流だ。狙うべき獲物はどこにあるのか? Googleストリートビュー等を使ってまず獲物を探し出し、現地に行って実車の状態を確認する。
実車がそこに存在しているかどうかだけではなく、どれくらいの頻度で動かしているのか? どのようなセキュリティがついているか?
警報の音はどれくらいか? 周囲の防犯カメラや逃走経路、Nシステムの有無、オーナーはいつクルマを使うのか? 家を出る時間、帰宅時間、就寝時間や休日の過ごし方など生活パターンまでを入念に調べつくしてから満を持して盗んでいくのである。
盗む車種などを指示する国際的な窃盗団も存在しており、国内外からのオーダーを受けて実行役に依頼する。今は「コンビニの駐車場にキーをつけっぱなしのクルマがあったから盗んだ」という偶発的な盗難ではなく、プロの窃盗団が綿密な計画のもと盗難を実行しており、盗難後のクルマの処理や売却までの一連の手順も確立されている。
日本損害保険協会の調べによると、2020年11月に保険金を支払った158件の盗難のうち、発見は38件、未発見は120件で圧倒的に未発見が多い。なお、この数字は、あくまでも車両保険に入っていたクルマということになる。
盗難車市場でも人気急上昇の国産旧車スポーツカーなど古いクルマは車両保険をつけることが難しく、未発見の割合はさらに多くなる(国産旧車の場合、発見されるのは10台に1台あるかないかとも)
盗難の手口も年々高度化しており昨今は電子機器を使った手口が主流となっている。いわゆる「リレーアタック」「CANインベーダー」「コードグラバー」などの方法だ。
昔のように、ドアをこじ開けてキーシリンダー周りを壊して…という原始的な方法はそもそも、スマートキーでドアを開閉するような現代のクルマでは不可能だし、修理代も高額になり、効率的ではない。セキュリティシステムを組んでいない、国産旧車スポーツカーなどは大体この方法でやられてしまうのだが……。
■急増する「CANインベーダー」とは
スマートキーから出る微弱な電波を使ったリレーアタックは、微弱な電波を遮る金属の缶や遮断ポーチなどで防止できることが広まったため、自動車盗難の手口はスマートキーのIDコードを読み取ってスマートキーそのものを複製してしまうコードグラバーやCANインベーダーに移行してきているという(katsu@Adobe Stock)
これらの手口のなかでリレーアタックに関しては、昨今メディアで取り上げられる機会が増え対処方法(スマートキーを電波遮断が可能な金属の箱に入れて保管するなど)も比較的に容易なことから、この1~2年は激減している。
しかし、リレーアタックの上級版ともいえる「コードグラバー」については、電波を遮断する方法では太刀打ちできない。コードグラバーはスペアキーをつくるための特殊な専用機械でスマートキーのIDコードを読み取ってスマートキーそのものを複製してしまう。
出始めの頃は数メートルの距離しか読み取れなかったが、最近では1km以上離れた場所からでもIDコードを読み込める機械が出てきているというから恐ろしい。ディーラーなどでスペアキーを作成する場合はクルマから至近距離で読み取れば良いわけで、離れた距離でIDコードを読み取るための機械はほぼ犯罪目的だと思っていいだろう。
ただし、コードグラバーが使えるのは狙ったクルマのオーナーがスマートキーを使ってドア解錠などの操作を行うタイミングに限られるため、効率はそれほど良くないとされる。
とはいえ、スペアキー作りの機器であるコードグラバーは電波遮断ポーチなどの簡易的な方法では防御できないことも覚えておきたい。
一方、リレーアタックやコードグラバーと比べて、盗難の成功率が高く効率よく盗めるのがCANインベーダーだ。スマートキーもオーナーの操作も不要。前回ベストカーwebで詳細にわたって紹介しているのでぜひ見ていただきたい。
とにかく、クルマだけあれば盗めてしまう。自宅駐車場はもちろん、オーナーの行動を追跡して勤務先の駐車場や自宅から離れた屋外の駐車場に停められたクルマを狙う。クルマの前に立ち、フロントバンパーをずらすなどしてCANインベーダーをクルマの制御システムにつなげるだけでOKだ。
CANインベーダーの場合は、最新のレクサスが主流となる。特殊な機械は高額(100万~200万円)ではあるものの、成功率からすれば非常にコスパが良い手口といえるだろう。
■通報案件! ガチでCANインベーダーの機械が販売されていた!!
CANインベーダー関連用品を販売していた海外のサイト。テレグラムを使って販売
ベストカーwebのCANインベーダーの原稿を書いている時、CANインベーダーとはどんな機械なのか? を調べていたところ、兵庫県警が押収したCANインベーダー本体の写真が出てきた。まあ見た目はまるきり、モバイルバッテリーか、カラーなどは昔のiPodのような体裁だ。
何か別の画像はないものかといろいろ調べていたところ、かなりヤバそうなサイトを発見してしまった。なんと! CANインベーダーやコードグラバーに関わる機器が販売されていたのだ。
使用方法を説明した動画まであり、それらはロシア語であるが英語にも対応している。指定される連絡手段は「テレグラム」だ。ご存知の方もいらっしゃるとは思うが、テレグラムといえば犯罪者からも人気の非常に秘匿性の高いメッセージアプリである。
ただし、CANインベーダーやコードグラバーはキーを紛失した時に緊急でクルマ移動をする際などに使う正規の目的もあるため、販売自体は違法ではない。これらを業務の中で必要としている業種もあるだろう。
これが販売サイトに掲載されていたCANインベーダー。見た目はモバイルバッテリーそのものだ。兵庫県警が押収したCANインベーダーはほぼ同形状でピンク色だった。Webサイトには操作方法のマニュアルや動画、対象車種まで載っていた
筆者が実際にメッセージを送ってみたところ、な、なんと3時間後に返事が来た!
・日本にはこれまで何度も送っていて1度の失敗もなくすべて届いている。
・ロシアからの発送で日本に到着するまでEMSで7~10日
・送料は無料(商品代に含まれる)
こちらの素性を詮索することもなく、また、レスポンスはとても早い。
車種別のCANインベーダー使用方法についても、わかりやすい説明図までつけて送られてきた。そこにあった車種はレクサスNX/GX/IS/LX/LS/UX、トヨタRAV4/ハイランダー/カローラ/ランドクルーザープラド……。スマートキーのタイプまで記されていた。
なぜ、対象車種がレクサスやトヨタ用が主流なのかを聞いてみると、「レクサスとトヨタは人気があるから」という返事だった。
価格は日本円にして約80万円。ちなみに以前、CANインベーダーを扱う業者に聞いた時には、「正規の価格は80万円程度だが、私たちは表ルートでは買えないので海外で販売している会社の従業員に横流ししてもらっている。
その関係で中間マージンを含めると値段は2倍以上になる」と話していた。ということはこのサイトで販売されているCANインベーダーは「正規の価格」ということになるのか? 兵庫県警が押収した際も、窃盗団は「知り合いから200万円で購入した」と話していた。
コードグラバーの機械もCANインベーダーと同様の価格帯(というより少し高め)で販売されている。正規の目的で使用する人がいないとは言えないが、今話題のCANインベーダーの機械が誰でも簡単に買えてしまうサイトは看過できない。そこで、ベストカーwebでは編集部から警察にこの件を通報した。
通報したところで、日本の警察は海外が絡むと自動車盗難のような事例ではなかなか動いてくれないのが現状だ。盗まれたという確実な証拠(エンジン番号などで照合できる盗品が海外のオークションや販売サイトで売られているなど)があっても、本気を出して動いてくれることはまれ。どこまで対応してくれるのか。
※本件に関しては、取材中に知りえた違法性の高い事案として、警察庁、警視庁、県警など各所自動車盗難担当の部署、サイバー対策課へ通報いたしました。通報後の対応に関してはいくつかの当局から「記事化しないでほしい」という要請がありましたので、控えさせていただきます。もしご報告できる進展がありましたら当サイトにてお知らせいたします。
■警察庁へ自動車盗難に関して質問してみた
こんなに簡単にCANインベーダーやコードグラバーの装置が海外サイトから入手できてしまうとは……、まさに由々しき事態だ。
そこで、こうした最新の自動車盗難事件に関して、日本の警察はどのように対応しているのか、警察庁へ質問をぶつけてみた(質問および回答はすべて原文ママ)。
■質問1:「警察全体としまして、リレーアタックやコードグラバー、CANインベーダーなど、こうした車両盗難に対して、何か具体的な対策を取られていますでしょうか?」
■回答:「リレーアタックやコードグラバー、CANインベーダーなどと言われる手口を含め、自動車盗難を防止するためには、バー式ハンドルロックや電波遮断キーケース、センサー式警報装置などの盗難防止機器を活用していただくほか、明るく安全な駐車場を利用するなど、複数の対策を実施していただくことが効果的です。
警察庁をはじめとする、財務省、経済産業省、国土交通省の4省庁及び民間19団体から構成される「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」では、毎年、広報ポスターを作成するなど、自動車の使用者に対する広報啓発、防犯指導を推進しており、また、各都道府県警察においても、盗難防止機器を配布するなどの取組を行っております」。
■質問2:「盗難の被害者の方に話を聞くと9割以上の方が「警察は動いてくれなかった」と言います。警察はなぜ、自動車盗難の捜査を積極的に行わないのでしょうか? また車両盗難の被害届が出されると、警察はどんな捜査を行うのでしょうか?」
■回答:「個別具体的な被害の状況により捜査内容が異なるため、一概にお答えすることはできないほか、具体の捜査手法等に関するお尋ねにお答えすることは困難ですが、被害の届出があった場合、法と証拠に基づき、適切に捜査を行っています。
警察としましては、自動車盗を重要窃盗犯のひとつと位置づけ、各都道府県警察が、捜査本部を設置したり、都道府県警察間で積極的に合同・共同捜査を行うなどして、取締りを進めています」。
……なるほど、自動車盗が重要窃盗犯のひとつだったとは。筆者の周りで国産旧車を中心とする自動車盗難の被害にあった人々に話を聞くと、9割以上が「警察は何もしてくれなかった」と話している。
被害額が億を超える自動車盗と国産旧車スポーツカーなどではまた扱いが違うのかもしれないが……。
■ちゃんと最新情報や実情に即した盗難対策を喚起してほしい!
先の警察庁からの回答にもあったが、自動車盗難防止のための、官民合同プロジェクトをご存知だろうか? 2001年9月に発足した「自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム」のことである。
警察庁・国交省・財務省・経産省の4省庁と、日本損害保険協会、日本自動車工業会、日本自動車輸入組合などの団体で構成されており、2021年で発足から丸20年になる。盗難が激減したのはこのチームの活動によるところも大きいと考えられるが、最新の状況はいかがなものだろうか?
自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチームが発足してから2021年で20年になるそうだ
自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム
筆者もこのサイトはよくみているが、実際、盗難認知件数など数字の部分の情報以外は、15年以上前と思われるものも多数あり、全般的に古い。ピーク時の10分の1以下に盗難件数が激減したからあまり力を入れていないのだろうか? 参考までにサイトにある「盗難防止対策」を紹介しておこう。
1:確実な施錠→短時間でもクルマから離れるときは、完全に窓を閉め、キーを抜いてハンドルロックとドアロックを施しましょう
2:イモビライザーの装着→盗難被害に遭わないためにも自動車にイモビライザーを装着しましょう
3:盗難防止機器の活用→センサーが衝撃・振動・音等の異常を感知し警報音を発する警報装置、ハンドル固定器具、タイヤのホイールロック、GPS追跡装置等の盗難防止機器を活用しましょう
4:防犯設備が充実した駐車場を利用→見通しがよく、防犯カメラや照明等の防犯設備が充実し、管理された駐車場を利用しましょう
5:貴重品は車内に放置しない→車内に現金、カード類やカバン等の貴重品を置いたままにすると犯罪を誘発します。車から離れるときは、必ず持ち出しましょう
6:自動車部品への盗難防止対策→ナンバープレートやタイヤ、ホイールなどの部品ねらいに注意が必要です。盗難防止ネジなどでしっかり固定するなどして対策をしましょう
こ、これは……。正直、10年以上前の情報? と思ってしまった。やたらとイモビライザーの装着を推奨していて急増するCANインベーダー等の文字はもちろん、リレーアタックへの対処方法すら紹介されていない。
実車を使ってクルマの盗まれにくさ(防盗性能)を検証するコーナーもあるが、そこの結論も「自動車の盗難防止にはイモビライザーが効果的です」とある。昨今急増している国産旧車の盗難についてもかけらも触れられていないのは非常に残念である。
なお、以下はチームによる第21次自動車盗難防止キャンペーン(2021年10月1日~20日)のために作成された最新ポスターである。
第21次自動車盗難防止キャンペーン(2021年10月1日~20日)のために作成された最新ポスター。若手落語家の林家けい木さんが、自動車盗難防止キャンペーンのキャラクターを務めている(出典:自動車盗難等の防止に関する官民合同プロジェクトチーム)
官民合同プロジェクトという大そうな名前がついているのだから、もう少し最新の盗難手口についての注意喚起を行うべきではないだろうか。
ハンドルロックやタイヤロックも推奨されているが、入念に下見をして切断等の準備をして盗難に臨む窃盗団の手に掛かればものの数分で切断されてしまう。
防犯のためハンドルやバッテリーを外していても下見の際にはそれらを確認して代替のハンドルやバッテリーを持参して盗んでいくのだから。
警察も保険会社も自動車メーカーももう少し自動車盗難の最新情報を知って、実情に即した対策を施し、盗難車の捜査にも本腰を入れてほしい。
CANインベーダーの車種別の接続図や実際にCANインベーダーを使ってロックを解除するマニュアルや動画などが掲載されている海外サイトを見れば衝撃を受け、危機感を抱くはずなのだが……。
早急に、こうした自動車盗難装置が国内で売買されないようにする対策のほか、最新の盗難手口や防止策を正確にユーザーに対して注意喚起をすべきではないだろうか。
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