ファンからも「小さいクルマの会社」と揶揄されるようになってしまったホンダ。現在「N-BOX」ばかりが売れていて、登録車で健闘しているのは「フィット」と「フリード」くらい……。なぜここまで軽自動車に頼る会社になってしまったのか?
ホンダファンならずとも心配になる事態となっている原因は何なのか? ホンダの現状とその抱えた問題点について考察していきたい。
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文/渡辺陽一郎
写真/HONDA、編集部
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■軽自動車とコンパクトカー4車種で全体の70%超え ホンダを悩ます現状
ホンダがスポーティなクルマを造るメーカーだと思っているのは、今ではオジサン世代だけかも知れない。日本国内のホンダは、以前とは違う「小さなクルマのメーカー」になったからだ。
今のホンダの売れ筋は、軽自動車の「N-BOX」と「N-WGN」、コンパクトカーの「フィット」、コンパクトミニバンの「フリード」に集約される。2020年度上半期(2020年4~9月)の販売データによると、この4車種の販売台数を合計すれば、国内で売られるホンダ車全体の70%を超えてしまう。
2017年8月にフルモデルチェンジした「現行型N-BOX」。ライバルが多数登場した現在でも、販売台数ランキングでトップを走る
現行型フィットは、クロスター(手前左)、ホーム(手前右)、ベーシック(奥右)、ネス(奥中)、リュクス(奥左)という5タイプをラインナップ。ホームが販売構成比の半分を占める売れ行きとなっている
ホンダにはセダンの「インサイト」や「アコード」、SUVの「ヴェゼル」や「CR-V」、ミドル&Lサイズミニバンの「ステップワゴン」や「オデッセイ」、スポーツカーの「NSX」や「S660」など、さまざまな車種がそろう。
しかしこれらをすべて合計しても、国内で売られるホンダ車の30%以下だ。今のホンダの国内販売は「小さな4車種とその他大勢」になった。
ホンダ車のコンパクト化は、2001年に発売された初代フィットの頃に始まっている。安全装備の充実などによってクルマの価格が高まり、その一方で景気の低迷により、平均給与は1990年代後半をピークに下降を開始した。クルマの値上げと所得の伸び悩みにより、実用的で割安なコンパクトカーと軽自動車に人気が集まり、その代表が初代フィットだった。
しかし2001年の時点では、ミニバンの初代ストリームが1カ月平均で約1万台売れていた。今のフィットを超える台数だ。ステップワゴンも2代目が1カ月に9000台以上、オデッセイも2代目が約6000台であった。スポーツカーはすでに下がっていたが、ミニバンを中心に、ミドル&Lサイズカーには勢いがあった。
初代ストリーム。5ナンバーサイズのコンパクトボディに、7人乗り乗用車の快適な室内空間とスタイリッシュな外観、スポーティな走りを高次元に融合していた
そのために当時のトヨタは、ホンダのミニバンを追撃するため、「ストリーム」には「ウィッシュ」、「モビリオ」には「シエンタ」という具合に競争相手を送り込んだ。
2010年になっても、ステップワゴンは1カ月平均で約6700台、2014年もコンパクトSUVのヴェゼルが8000台を超えるなど、前述の4車種以外にも売れ筋モデルがあった。
この流れを変えたのが「初代N-BOX」だ。2011年に発売されると、年を経るごとに売れ行きを伸ばしていく。クルマの一般的な売れ方は、発売直後が最も多いが、初代N-BOXは違った。
2012年は月販平均が1万8000台、2013年には2万台と増えた。目新しさというより、実用性や価格の割安度が注目され、足場を着実に固めながら浸透していった。2017年に2代目の現行N-BOXに刷新されると、国内年間販売台数の総合1位になり、2020年もその座を明け渡していない。
商品が好調に売れるのは喜ばしいが、ホンダの場合はN-BOXの勢いが強すぎて(あるいはほかの車種が弱すぎて)、総合自動車メーカーとしての販売バランスを悪化させた。今では国内で売られるホンダ車の30~40%をN-BOXが占める。N-WGNなどを加えた軽自動車全体では約50%だ。
その結果、軽自動車がホンダのブランドイメージを「小さなクルマのメーカー」に変えた。そこに商品力の高いコンパクトカーのフィットとコンパクトミニバンのフリードが加わり、4車種だけで国内で売られるホンダ車の70%以上を占めるに至った。
この台数は膨大だから、過去約10年間にわたり、ホンダのメーカー別国内販売ランキングはトヨタに次ぐ2位だ。直近の2020年はスズキに抜かれて3位だが、それでもN-BOX/N-WGN/フィット/フリードの売れ行きは好調だから、ほかの車種の販売促進に手がまわらない。1台当たりの粗利が多いオデッセイやアコードを売りたくても、小さなクルマに忙殺されている状況だ。
その結果、以前は1カ月に9000台以上を登録したステップワゴンが今は約2600台になり、8000台を超えたヴェゼルも、設計の古さが伴って約2400台に下がった。いずれも最盛期の約30%と低迷する。
■売れているから変われない… 求められる変革への積極性
この販売格差が生み出す一番の弊害は、「日本市場はN-BOXやフィットなどの4車種に任せればいい」という空気がホンダに蔓延することだ。
日産のように全般的に売れず、メーカー別国内販売ランキングも5位まで下がれば、抜本的にテコ入れを図ろうとする気運が盛り上がる。それがホンダは、粗利が少ないとはいえ、4車種がキッチリと売れている。メーカー別国内販売ランキングも2位を保ってきた。そうなると前述4車種への依存度が一層強くなり、「小さなクルマのメーカー」にハマっていく。売れているために生じる弊害もある。
この影響により、2018年以降に国内で発売されたホンダ車は、軽自動車やフィットを除くと販売の主力にならない車種ばかりだ。インサイト(2018年)、クラリティPHEV(2018年)、CR-V(2018年)、アコード(2020年)、ホンダe(2020年)という具合になる。
このうち、アコードは2017年に北米で発表され、2年半も経過してから日本国内で発売された。それまで安全性の劣る旧型アコードを国内で売っていたのだから、日本メーカーの日本のユーザーに対する向き合い方としては相当に消極的だ。クラリティPHEVは価格が割高で、CR-VはLサイズSUVなのに内外装の質が低い。
こういった2018年以降に発売されたホンダ車は、発売時点において、すでに販売低迷が予想されていた。N-BOX/N-WGN/フィット/フリードの4車種に比べると、日本における市場性が雲泥の差であったからだ。4車種への依存体質が出来上がり、ほかの車種は国内市場に対する意欲を失っていた。
シビックもせっかく国内販売を復活させたのに、セダンは2020年に廃止された。十分な販売促進が行われた結果とは思えない。もはやシビックセダンが国内で改めて売られることはないだろう。
せめて近年において好調に売れた実績のあるヴェゼルとステップワゴンは、特別仕様車の追加などを含めてテコ入れを行い、販売促進に力を入れるべきだ。このままでは、ますます付加価値の高いホンダ車が登場しにくくなる。
起死回生を狙って2020年1月にマイナーチェンジを行ったシビックセダンだったが、復活からわずか約3年で日本市場から姿を消した。トップ4車種以外が苦戦する、ホンダの現状を表わす撤退となってしまった
なお特定の車種だけが好調に売れる販売格差の背景には、取り扱い車種を含めた販売系列の撤廃がある。かつてのホンダには、クリオ/ベルノ/プリモ店があり、レジェンドやアコードはクリオ店の専売車種だった。軽自動車はプリモ店の専売だからクリオ店は扱わず、薄利多売は成り立たない。そこでレジェンドやアコードを大切に売っていた。
それが全店で全車を扱う体制になると、販売しやすい車種だけが売れ行きを伸ばし、ほかは落ち込む。トヨタも今では全店が全車を扱い、アルファードは好調に売れてヴェルファイアは低下した。両姉妹車には、短期間で8倍の販売格差が生じている。
つまりホンダの国内販売状況は、今の国内市場の典型ともいえるだろう。ホンダに限らず各メーカーとも、いろいろな車種を選べる楽しさを大切にして欲しい。
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