華やかなヴィンテージカーが集う最高の週末を体験レポート
世界最高と評される自動車のビューティ・コンテストのひとつ「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」。2023年5月19日~21日にイタリアはコモ湖畔で開催されたクルマ好きにとって最高の週末に参加、その様子をレポートします。
「ミウラ」とのたった15分のランデヴー。フェラーリにはなかった瞬発力を当時のランボルギーニはたしかに持っていた【クルマ昔噺】
昔は最新、今は懐古趣味
自動車のビューティ・コンテストは世界に数多くある。なかでもアメリカの「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」と並んで世界最高と評されるイベントが、イタリアはコモ湖畔で開催される「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」だ。
会場となるのはエステ家の別荘を活用したグランドホテル・ヴィラデステ。コンテストは1929年に始まったというから歴史は長い。つまり当初は、ヴィンテージカーが対象のイベントではなかったということ。いわばクルマの最新ファッションショーのようなものだったらしく、コンセプトカーや最新モデルが美しさを競った。
1986年にヴィンテージカーイベントとして復活する。昔は最新、今は懐古趣味という点では、走るイベントの雄「ミッレミリア」と同様の展開だったと思えばいい。近年ではBMWグループがメインスポンサーで、今年も最新モデルやコンセプトカーが多数展示されていた。
コンクールだけでなくサーキットやツーリングも楽しめる
そんなクルマ好きにとって最高の週末は「プレリュードツアー」と呼ばれるプレイベントで始まる。発泡ワインで有名な北イタリアのフランチャコルタにコンクール参加者の一部が集合し、そこからコモ湖まで1泊2日のドライブを楽しむというツアーだ。
BMWクラシックが持ち込んだ戦前の「328」シリーズや戦後の「507ロードスター」、さらにはスーパーカーの「M1」といったバイエルン・オールスターズを筆頭に世界の名車が25台近く参加。本番の展示数は50台だから半数近くが揃ったことに。日本からは筆者がお供することになったランボルギーニ「ミウラP400SV」と金色の美しいマセラティ「3500GTツーリング」がいた。
北イタリアの湖水地帯はとにかく美しい。山や川はもちろん、山岳都市が至るところにあって、景色を長めながらのドライブは最高だ。そのうえ色とりどりの名車たちを追って走るなんて、永遠に続いて欲しいと思う。フランチャコルタを朝に出発し、昼前にモンツァ市内へと。もちろんサーキットを走る。BMWがなんと20台以上の最新Mモデルを用意してくれていたのだ。筆者は最新の「M2」を初めてサーキットでドライブしてみたが、「M4」のようなドライブテイストで、なるほどパワートレインやシャシーに共通点が多いからだろうと得心する。
クラシックモデルでもオーナーはサーキットを楽しんだ。撮影のためのパレードランを終え、午後にはいざヴィラデステへ。小雨の降るなか到着すると、ホテルのエントランスではレジストレーションと車検が待っていた。参加者たちが続々集まる。クラシックモデルの列にレーシングカーや最新のコンセプトカーも混じっている。元ピニンファリーナの奧山清行さんは新作「コード61バードケージ」を持ち込んでいた。
ル・マン100周年とポルシェ「911」の75周年ということで、ヴィラデステとしては珍しく新しめのレーシングカーも多数、集まった。もちろん彼らも基本は自走で車検を受ける。レーシングカーがやってくるとその爆音で辺りは騒然とする。ポルシェ「917K」やフォード「GT40」、フェラーリ「512BB LM」などが爆音を轟かせて目前を通過してくれるのだから、たまらない。
ヴィラデステについたのは木曜。翌金曜は丸々レジストレーションの日だ。車検場の見える部屋から名車たちを眺めて過ごす。好みのクルマがやってきたらすぐに部屋から降りて、仔細に観察。その繰り返し。明日には全て見ることができると分かっていても、居ても立ってもいられない。部屋とエントランスをなん度往復したことか!
金曜の夕方、いよいよ公式行事が始まった。エントラント対象の和やかなブリーフィングののち、カジュアルなディナーだ。食事はいつも基本的にはフリーシーティング。仲間同士で席を確保するもよし、見知らぬ人と隣り合わせになるもよし。基本的にこの週末、ヴィラデステで出会う紳士淑女は皆クルマ好きなはずだから、(どんなにすごい相手でも)気を遣う必要はないし、話題は当然クルマばかりになるから自然と話も弾む。それに大抵はとんでもんないコレクターたちだ。興味深い話をどんどん聞き出して、顔見知りになっておいて損はない(筆者はそうやってネットワークを広げてきた)。
絢爛豪華な名車たちが繰り広げる夢の祭典
土曜。いよいよコンクールの本番だ。早朝、参加者たちはめいめい自走でホテルの敷地内でクラスごとに定められた展示場所へと向かう。我々のミウラは展示会場の最も奥まったヴィラの前。眺めとしては最高の場所に収まった。
基本的にお祭りなのだが、参加者が最も緊張する瞬間がジュリー(審査員)による「品定め」の時間だ。クラスごとに審査の時間帯が決められており、オーナーと関係者はその時間になるとクルマの近くで待機しなければならない。時間が迫ると周りの空気もピリピリ。ミウラのエントリーしたクラスEは戦後のグランドツーリングカーで、アルファ ロメオやフェラーリのレアモデルばかり7台がエントリーするという激戦区。どう足掻いても勝てそうにない相手ばかりだったが、ジュリーが近寄ってくるとそれはそれで緊張する。個体のヒストリーを簡単に説明し、ジャッジの指示でカウルやドアを開け、ヘッドライトやウインカー、フォーンを機能させる、というあたりはコンクールでの決まった作法である。
あいにく夕方になって雨も本降りの様相に。コンクールのメインイベントというべき場内パレードが始まった(それぐらい広いということ)。湖畔とホテルの建物との間を全参加車両がゆっくりと走る。審査員や多くの観客で花道ができているのだ。ヴィラデステの晴れ舞台である。
参加者や観覧者の人気投票によるベスト・オブ・ショー(コッパドーロ・ヴィラデステ)がまずは発表される。香港から参加したフェラーリ「250カリフォルニアスパイダー」が獲得。ハードトップを備えたライトブルーの美しい個体だった。そしてこの夜は近接するヴィラ・エルバに移動(シャトルか船で!)してRMオークションを楽しみ、カクテル&ディナー、そして深夜までパーティは続いた。
日曜はパブリックデイ、一般公開の日だ。こんどは昨夜のパーティ会場だったヴィラ・エルバへと自走で向かう。ヴィラデステからヴィラ・エルバまではほんの1kmくらい。とはいえ小さな街を抜けていく。ヴィンテージカーのみならずレーシングカーもこの日ばかりは特別な許可を得て公道を駆け抜ける。知り合いのベルギー人の駆るポルシェ917Kが街中を走るシーンなどは一生の思い出になった。
参加者は夕方、再びヴィラデステへ。もう一度、走る姿を見ることができるというわけで、通り過ぎる街は多くの見物客で賑わっている。その中を手を振りながら抜けていく快感は、ミッレミリアに匹敵するものだ。
クルマ好きとして夢のような週末を締めくくったのはブラックタイ着用(正装)によるガラ・パーティ。カクテルタイムにはようやく陽光も煌めいてきた。美しいコモ湖畔がやっと姿を現す。ジュリーの選んだ栄えあるベスト・オブ・ショーを獲得したのは、インドのマハラジャが愛したデューゼンバーグ「SJスピードスター」であった。
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