この記事をまとめると
■リジェがル・マン24時間レース会場で水素燃料で走る「JS2 RH2」を公開した
これぞクルマ好き究極の夢! 「F1エンジン」を積んだモデル5選
■「JS2 RH2」は1972年の同社の名車「JS2」をオマージュしたレーシングカー「JS2R」がベース
■2026年のル・マン24時間レースでのリジェ対トヨタの水素対決に期待が高まる
元F1コンストラクターのリジェが突如水素レーシングカー発表
2023年のル・マン24時間レース、トヨタファンはずいぶん悔しい思いをしたことかと。一方で、同社が発表した水素燃焼エンジンを用いたレースカーを発表したことはグッドニュースだったのではないでしょうか。なにしろ2026年のル・マンは水素燃料や燃料電池車をトップカテゴリーにすると公表しており、先鞭をつけた格好のトヨタには大いに期待ができるというもの。
と思っていたところ、早くも競争相手が現れたようです。ル・マンはもとより、1970年代のF1シーンで活躍した名門「リジェ」のブランドを受け継いだ水素燃料レースカーが話題となっていますが、果たしてどんなマシンなのでしょう。
リジェJS2 RH2と名付けられたこのマシン、見覚えがあるという方も少なくないでしょう。こちらのベースは、2018年のパリ・モーターショーでリジェJS2Rとして発表されたレーシングカーで、じつは1972年に発表されたリジェJS2というスポーツカーをオマージュしたモデル。それゆえ、末尾のRはレースの意を表しつつ、リバイバルのRも表徴しているとのこと。
ややこしいので、時系列で説明すると最初にリジェJS2(1972)が生まれ、50周年を記念してリバイバルされたのがJS2R(2022)、その水素エンジン仕様がJS2 RH2(2023)となります。
そもそも、50年後にオマージュされるほどのJS2とはどんなクルマだったかというと、ギ・リジェ率いる「オートモビルス・リジェ・チーム」が、ル・マンGTクラス制覇を目指して作り上げたホモロゲーションモデル。実際は1971年から発売が開始され、レギュレーションに沿って500台の生産が約束されていました。
リジェF1チームのチーフエンジニア、ミシェル・テツによるシャシーに、カロッツェリア・フルアがデザインと製作をしたファイバーボディを架装。
エンジンはコスワースの直列4気筒DOHC(タイプFVA)や、シトロエンとマセラティが共有したV6などいくつかの仕様がありました。アルミを多用したシャシーをはじめ、シトロエンSMのトランスアクスルを流用するなど、テツの優れた設計も奏功し、車重は980~1030kgと非常に軽量だったことも有名です。
ル・マンでは1974年に総合8位、翌1975年には総合2位になるなどフランス人が大喜びするリザルト。ちなみに、リジェF1から同チームの車名は必ずJSとされていますが、これはギ・リジェの親友にしてレーサーだったジョー・シュレッサーの頭文字を使ったもの。シュレッサーは、1968年のフランスGPでホンダRA302に乗って事故死を遂げていますが、それを悼んで以後ずっと車名にあてているわけで、リジェの漢気がおわかりいただけるのではないでしょうか。
往年の名車が水素燃料レーシングカーとしてル・マンに帰ってくる!?
そんなエピソードを聞けばル・マンに向けたレーシングカーはJS2をオマージュしたくなる気持ちも大いに納得。ですが、ギ・リジェは2015年に没しており、晩年にリジェのブランド、およびJSの使用権をフランスのレーシングカーコンストラクター「オンローク・オートモーティブ」に売却しています。なので、JS2Rはここんちのオーナーにして、レーシングドライバーでもあるジャック・ニコレのアイディア。
もちろん、彼も生粋のフランス人に決まってます。で、2018年にはオンロークから、リジェ・オートモーティブへと名称も変更し、名実ともにリジェのあとを継いだというわけ。
ちなみに、オンロークはリジェと組む前は、これまたフランスの超有名ドライバー、アンリ・ペスカロロとコラボしており、彼の名を冠したル・マン・プロトタイプカーを作って参戦するなど、フランス・ナショナルチームと呼んでも差支えないほど。JS2Rの前にも5タイプのJSモデルを製作し、いずれもル・マンやプロトタイプカーレースにエントリーしています(そのわりに、モーガンや日産ともコラボするあたり、フランス人のしたたかさを感じずにはいられません)。
そんなリジェ・オートモーティブですから、2026年の水素レギュレーションを見逃すはずがありません。ただし、トヨタでさえ慎重に開発をしている水素燃焼テクノロジーを、言ってもフランスの片田舎でモノにできるのかといったら、やっぱりダウト! そこで、ニコレは実業家の腕前を駆使して、ドイツの電機大手ボッシュとのパートナーシップを結んだのです。
ドイツ側は水素燃焼エンジン、そして水素タンク(おそらく水素ガスで、トヨタが使っている液化水素までは追いついていない模様)や、レース環境に耐えうるセーフティ機構を担うということですから「だったら、リジェはなにやんの?」と思うのもごもっとも。
平たくいえば、ボッシュが作った水素の仕組みを載っける車体(JS2R H2)を作ることとなりますが、そう簡単にいくものでもないでしょう。従来、ガソリンエンジンを積んでいたJS2Rはそれなりのダイナミックパフォーマンスを発揮していたようですが、ここに水素エンジンやタンク、あるいは冷却機構を追加するとなると、課題は山積みしているはず。
公表されている情報によれば、重量増しに対応するべくそれまでの鋼管フレームから、カーボンモノコックに変更されたとのこと。また、JS2Rはミッドシップですから、安全機構を含めた水素タンクというバカでかいものをどうレイアウトするのかなど、興味は尽きません。
こうなると、2026年のリジェ対トヨタの水素ガチンコ24時間レースというのが俄然楽しみになってきます。すでにトヨタは水素エンジンによるカローラで24時間レースを走り切っていますが、かたやフランス&ドイツのコラボチームの実力も侮りがたいもの。2023年と同様、あるいはもっと白熱したレースにぜひ期待しましょう!
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