2022年10月9日に鈴鹿サーキットで開催されたF1日本GP2022決勝レースで、事件は起きた……。ペースカーが入っているところで、隊列に追いつこうとピエール・ガスリー選手(アルファタウリ)が全開で走っていた。そこでオフシャルの運転するトラックに遭遇。たしかに全開で走っていたら、これは危ない。ガスリーは無線で抗議、いっぽうオフィシャルはガスリーのこの走行に、20秒のタイム加算ペナルティを科した。この裁定に他のF1ドライバーからはガスリー擁護の発言もあり……だけどこれって、ガスリーのほうがルール違反じゃないの……? 3年ぶりに開催された日本GPスタート直後に起こったこの事件を、元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。
文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Ferrari
ルールを破れば死亡事故につながる…F1日本GPで起こった重大な過失とペナルティの真相
スタート直後、サインツがクラッシュ!! ペースカーが入る状況だった
先日の鈴鹿サーキットにおける日本グランプリは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが堂々の優勝を飾り、今シーズンのチャンピオンを戴冠した。見事な走りは何人も寄せ付けず、王道を行く勝利であった。
レースは雨天で開始が遅れ、結局3時間レースとして発表されたのちに雨の中スタートが切られた。ヘアピンを立ち上がったところで水たまりに足を取られたサインツがスピンしクラッシュ、タイヤバリヤーに接触し、バリヤーを囲むカバー帯を破壊して、これがコース上に出てしまった。そこにアルファタウリのガスリーが突っ込んで、これをフロントに引っかけてそのまま走行、彼はピットインをしてノーズを交換して再びピットアウトした。
水たまりに乗ってあっという間にスピンクラッシュしたサインツ
この時点で、コース上はセーフティカー(SC)が出動していた。本来ならガスリーはそのままSCの後方についてSCのスピードに合わせてスロー走行をするのが決まりだ。しかしガスリーはSCの出動時間を利用してピットストップでの遅れを取り戻そうと、ほぼ全開で行列の最後尾を追ったのだ。
だが、ガスリーがサインツのクラッシュ現場に近づくと、そのコースサイドにはなんとサインツ車回収に出動したローダー(マシン運搬用トラック)が低速で走行していたのだ。このローダーを発見した時点でコーションライトパネルはFIAによってSCの点滅、つまりSC出動中のウォーニングライトで、そしてローダーを抜いた瞬間には赤の点滅に変わっていた。つまりレースは赤旗中断。
これを確認しているにも関わらず、ガスリーはスピードを落とさなかった。そしてその先の19番ポストではトラブルで止まったウィリアムズのアルボン車の回収作業が始まっていて、その横を時速200km越えの速度で通過していったのだ。この時点では完全な赤旗なのに。
赤旗無視。ルールを守って走れば危なくないはず
ガスリーがなんと言おうと、他のドライバーがいかなるコメントを出そうとも、ルールを守っていないならば、それらは無意味だ。ガスリーはSC出動の意味を無視して、赤旗の意味さえも完全に無視し、彼自身の言うまったく視界の効かない雨のコース上を突っ走った。彼とそして何人かのドライバーは口裏を合わせてローダーの走行を非難したが、それは間違いだ。
しかもドライバーたちは2014年のビアンキの事故を持ち出して、“同じミステイクで学んでいない”とマーシャル(レース運営を行うための係員の総称)たちの行動を非難した。ドライバーの言葉は強く、マーシャルには反論する場も反論する権利さえもないから、彼らの言葉はまるで「ビアンキの事故はマーシャルが悪い」といわんばかりだ。世間はそんなドライバーの強い言葉に乗っかり、一部のネットもジャーナリズムも、無責任に非難している。
SCコーションのスイッチはもちろんFIAのレースダイレクター(RD)が判断を下す。今回もSCの判断が素早く行われた。実際ガスリーがピットアウトした時点でコースはSC出動になっていたのだ。そしてSCの意味はコース上に危険があり、その撤去のためには「レース走行をしてはいけない」ということ。SCが出動し、レース車は各々スピードを抑え、追い越し等のバトルを禁じ、隊列を整えるのだ。時にはそのままピットロード通過の手段さえとることもある。
百歩譲って「RD側の過失」について考えるならば、SCのスイッチを入れてから、RDがローダーに処理作業への出動を命令したのが速すぎたかもしれない。これはRDの反省点になるだろう。しかしすでにSCが全コース上に出ている限り、作業者の進入は当然だ。単に状況が雨で視界が最悪だったというだけの話。しかも視界が悪いなら、サインツの事故現場を通り抜けるには最大限の注意と安全を図っての走行義務がある。
堂々のチャンピオンを獲ったマックス。陰でマーシャルを危険に晒す事件があった
どちらが危険? ドライバーか、それとも生身で回収作業をしているマーシャルか
かつてのビアンキの事故は悲しい結果をもたらした。二度とあってはならない事故だ。ガスリーがビアンキの事故に学んでいないと声高に叫んだことに、何人かのドライバーや多くのメディアが同調した。しかし、ビアンキのケースは残念ながら今回のガスリー同様、コーションの状況の中で遅れを取り戻そうと、レーシングスピードで走ったために招いた事故であった。だが人々はその点に目を向けることなく、まるでそこで作業をしていたローダーが悪魔であったかのように語り続ける。今回のガスリーも同様だ。
ドライバーは危険を語り、「その速度で当たれば自分たちの命が危ない」と叫ぶ。その通りだろう。しかしそうした危険と隣り合わせなのはF1ドライバーだけだろうか。SCコーションの中で出動が命じられ、ローダーを運転しているマーシャル、そして撤去作業にあたって生身で働く多くのマーシャルたちも同じではないか。もしそこに、SCやレッドフラッグを無視して時速200kmオーバーでマシンが突っ込んで来たら……。
考えてみてほしい。時速200kmオーバーでマシンが突っ込んだ際、より危険なのはモノコックの中にいるドライバーか、それとも生身で回収作業をしているマーシャルたちか。
ピットからガスリーに注意できたはずだが……
マーシャルはレギュレーションに従い、RDの命令どおりに仕事をしているのだ、ビアンキの時も今回も。自分勝手なポジション争いでレギュレーションを無視し、多くのマーシャルたちの命を危険にさらした者は、真のレーシングドライバーではありえない。レースはドライバーやチームだけで成り立っていると思ったら大間違いだ。ボランティアで、そしてレースが大好きだからといって働くマーシャルたちがいなければ、F1レースなどスタートもできないことをドライバーは学ばなければいけない。
今回ガスリーが叫んだ“ビアンキの事故から何も学んでいない!”は、そのままガスリー自身に向けて言いたい言葉だ。
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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みんなのコメント
問題の根本がすり替えられてしまっている
これじゃ東京裁判と同じです
欧米はやはり日本を対等だとは心の底では思っていない証拠ではないでしょうか
要はスピード出しすぎが原因。津川さんの言うとおり。