この記事をまとめると
■筑波サーキットは市販車のテストや開発を行うのに最適なサーキットでもあった
GRカローラやメガーヌR.S.はリヤシートまで取っ払った軽量モデルを用意! たかが「椅子」をハズしただけでどれだけ速くなる?
■雑誌やビデオ取材で使われることも多く、エンジニアもサーキットテストには注目していた
■サーキットテストは減少傾向だが、サーキットで得られるデータは公道以上という声もある
なぜ誰もが走るわけではないサーキットで車両開発をするのか
遡れば1970年代後半頃から、「市販車をサーキットで走らせて評価する」というテストスタイルは行なわれていた。当時、多く使われていたのは東京からほど近い茨城県に位置する筑波サーキットだ。1周約2kmの小ぢんまりとしたサーキットでバックストレートが約400mあり、性能指標のひとつとして取り上げられることの多かった0~400m発進加速(通称:ゼロヨン)を計測するのに好都合だった。
だが、走り好きな編集者が多い媒体でラップタイムに着目して、ハンドリング性能とラップの速さを確かめるようになるのに時間はさほどかからなかった。
僕が初めて筑波サーキットを試走したのは大学生の頃。某月刊自動車専門誌でアルバイトをしていたときだ。レーシングドライバーで自動車評論家でもあった津々見友彦氏が、トヨタ・スターレットにニュータイヤを履かせて試走していたのをラップ計測し、撮影も行なわれていた。その時間の最後に10分ほどの時間が残り、津々見氏から「走ってみていいよ」、と声をかけていただいたのがきっかけ。
ナンバー付のノーマルスターレットで走ると1分22秒くらいのタイムだっただろうか。
ただタイムが計測されるだけでなく、周回毎のラップタイム変化やブレーキのフェード現象なども起きる。教習所で坂道の下りでブレーキを多用するとフェード現象が発生し止まれなくなるのでエンジンブレーキを併用しなさい、と教わったはずだが、実際にフェード現象を体験することは一般道では難しい。それがサーキット走行では2~3周もすればブレーキがフェードし、ブレーキペダルストロークが長くなり、減速もし難くなる。そうなったらどう回避するのか。サーキットでの試走体験から問題視すべきテーマが次々に見出だせてきたものだ。
1980年代になると、どの媒体でも新型車の性能テストをサーキットで行なうことが多くなる。年々クルマの走行性能は高まり、「名ばかりGTは道をあける」という過激なキャッチコピーまでCMで流れるようになった。
そのキャッチコピーを受けて国産GTモデルを筑波サーキットに数車集め、レース形式で走らせて速さを競う企画を行なった。マツダRX-7(初期型)が1分18秒という最速タイムを叩き出したが、レース形式のテストではブレーキの耐フェード性能がもっとも優れていたトヨタ・セリカ2000GTが制した。人気抜群だった日産スカイライン2000GTは1分22秒台という有様だったのを覚えている。
このように、サーキット走行を行なうと結果がラップタイムに表れ、クルマの本質的な性能が明らかになる。ハイパワーであるとか優れたサスペンション機能を持っているとか謳われていても、サーキット走行では実力が明確に現れて、ごまかしがきかないのだ。
サーキットでは公道テスト以上のデータ取りができる場面もある
やがて、筑波サーキットでの市販車走行テストは大きなブームとなって、ベストモータリングというビデオ媒体では「バトル」と題して速さを競う企画が大ヒットしたのである。
サーキットで走らせると、そのクルマが持っている性能を明らかにできる。動力性能だけでなくハンドリングやブレーキ性能、耐久性などバランスよく仕上げられていなければすぐにボロがでる。ごまかしが効かないので多くの国産車メーカーはスポーツカーの開発テストを筑波サーキットでも行なうようになっていくのだ。
真っすぐ走るだけなら最速を記録できるハイパワーマシンが、サーキットではコーナリングGによりエンジンオイルが偏り、潤滑不良でエンジンが焼き付いて壊れてしまったということもあった。ブレーキの耐フェード性は重要で、何周も安定したブレーキ性能を発揮させるためには、ベンチレーテッドディスクブレーキに冷却エアを導くエアガイドの装着も不可欠になっていく。
オイルの偏りは制動時の減速Gによっても引き起こされ、とくにエンジンを横置きするFF車にはオイルパン内にバッフルプレートを追加する処置が必要だとわかる。同時に燃料タンクの形状や燃料パイプのレイアウトも吸い込み不良を回避するように設計されていなければならない。燃料タンクに半分以上燃料が入っていても、サーキットでは横Gで片寄り、吸い込み不良でガス欠症状が出てしまう。こうした現象に対処するために試行錯誤が繰り返される。
「自分はサーキット走行などしないから、サーキットでの性能なんてどうでもいい」という人も実際に多いし、自動車メーカーのなかにもそうした考えの経営者がいる。
近年、環境性能を第一義と捉え、限界性能は二の次と考える風潮となっているのは残念なことだ。取材車両でのサーキット走行テストを禁じている自動車メーカーも圧倒的に多くなった。サーキット走行でボロが晒されなければコストダウンもできる。過剰なブレーキシステムもサスペンションも不要とばかりに牙を抜かれた”自称”スポーツモデルが増えてしまった。
「サーキットを10周もすれば一般道の10万km分のデータが取れる」、と勇んでいたエンジニアの多くが職を離れ、現役世代にはほとんど見られなくなってしまった。それでもなお、サーキットでテスト走行することは速さを目的とするだけでなく、走行安全性の確保や定量化など重要な役割があると知っているメーカーもある。
出来上がったクルマを走らせてみると、サーキットで磨き上げられたかどうかがわかる。サーキット生まれであるなら、それは大きな安心感と高い耐久性を与えてくれ、ユーザーに大きなメリットとなるに違いないのだ。
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みんなのコメント
コストアップにはなるかもしれない。でもそのコストを切り詰めるって事は、「通常の使用条件」からちょっと外れたら即危キケンな状態になり得るって事だ。
「条件を統一」する事で、何が優れているかの比較を定量化できるって面もある。
公道じゃぁ細かい条件を統一できないからね。
勿論、「通常の使用条件」でのテストに加えての話だけどね。