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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】鈴鹿は入賞に届かずも“これ以上ない完璧”な週末。ケビンとニコが大きく前進

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第14回】鈴鹿は入賞に届かずも“これ以上ない完璧”な週末。ケビンとニコが大きく前進

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。このアジア2連戦では、シンガポールで久しぶりの入賞を果たした一方で、鈴鹿でのポイント獲得は叶わなかった。小松エンジニアによれば、これは想定通りの結果だったとのことだが、鈴鹿では結果には繋がらなかったもののふたりのドライバーに大きな成長が見えたという。シンガポールGPと日本GPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

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マグヌッセン「リヤタイヤをヒットされた。無謀なアタックだったと思う」ハース F1第17戦決勝

2023年F1第16戦シンガポールGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選6番手/決勝10位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選9番手/決勝12位

第17戦日本GP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選15番手/決勝15位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選18番手/決勝14位

 シンガポールとの連戦で今年も日本GPを迎えました。鈴鹿では毎年思うことですが、ピットレーンウォークに参加するお客さんの数もとても多いし、コスプレをしている方もたくさんいるのでよりいっそうファン方々の熱気を感じます。なかにはチームのメンバーにもプレゼントを持ってきてくださる方がいて、今年はチームメンバーの写真を使ったパッケージのM&M’Sのチョコレートなどを頂きました。こういうのは日本だけなので、毎年チームのメンバーは楽しみにしていますし、今年もすごく喜んでいました。

 さてレースはというと、シンガポールではオーストリアGP以来となるポイントを獲得した一方で、鈴鹿では入賞は叶いませんでした。シンガポールである程度速かったことと鈴鹿でそうではなかったことは予測通りでしたが、シンガポールでは想定以上の結果を予選で出すことができました。鈴鹿は結果には繋がらなかったもののオペレーション的にはこれ以上ないくらい完璧で、シンガポール以降ドライバーの成長も見られたという点では明るい話題の多い週末でした。そんな2連戦を振り返っていこうと思います。

 まずシンガポールでは、予選で2台揃ってQ3に進み、ケビンが6番手、ニコが9番手という結果でした。目標は2台揃ってのQ3進出だったので、6番手というのは予想以上によかった結果です。もちろんニコの9番手も悪くなかったのですが、あの時はケビンの走りが特によかったです。

 ケビンは才能があるのに今年はそれをうまく発揮できずに苦労していたのですが、本人にそれを改善しようという努力があまりみられなかったので、僕も少し諦めていたところがありました。今ではそれを申し訳なかったと思っていますが、イタリアGPのコラムでも書いたように、ドライビングスタイルの合わないところではそのスタイルを変えないといけないとずっと伝えていたのですが、それも必死にどうにかしようという感じではありませんでした。しかしシンガポールは彼のスタイルに合ったコースなので、そこではナチュラルな自分のやり方で走れば大丈夫だという話をしました。

 そうして迎えたFP1でケビンの強みを発揮できることがわかり、そのままレースまでよくやってくれました。うちのクルマはタイヤに厳しいので、どんなにスタイルが合っていてもレースでは厳しい状況になりますし、ピエール・ガスリー(アルピーヌ)に攻められてターン1でタイヤをロックアップさせるミスもありましたが、ミスを起こしやすいうちのクルマのことを考えればケビンを100%責めることはできません。最後はジョージ・ラッセル(メルセデス)のクラッシュにより順位が繰り上がって10位に入賞しポイントを獲りました。

 またケビンには「ドライビングスタイルが合っているからシンガポールでは戦えたけど、これ以降はクルマをアップデートしても劇的に予選でのクルマの特性を変えられるわけではないので、ドライビングスタイルには合わないままになる。だからこそ日本GP以降の予選の目標をはっきりと決めよう」と伝え、予選で常にニコのコンマ1秒以内につけることを目標にしました。そして日本GP、金曜のデータを見たところ案の定問題があったので、土曜の朝、「スタイルではないのはわかっているけど、ブレーキングでこうしてみたらどうか」と彼に別のやり方を提案すると、「同じことを感じていて、実はFP2から徐々に変え始めている」と返ってきました。よくなっているのがわかるから、僕が言う前から小さい変化ではあったものの実行していたんです。

 FP3でそこからさらに積み重ねていって、結果的に予選でニコを上回ることができたので、ケビンが力を発揮するための手助けをできたのかなと個人的には嬉しく思っています。昨年の日本GPでは、ケビンは金曜にほとんど走れていない新人のミックに予選で負けているんです。それでいて予選後に「僕の走りは悪くなかった」と言っていたので僕も怒りましたけど、それに比べたら本当によくなりました。

 レースではセルジオ・ペレス(レッドブル)と接触するまでいいペースで走れていたので、ああいうことになって本当に残念です。接触がなければアルファタウリと戦えたと思います。入賞には届かなかったと思いますが、今のクルマで鈴鹿ではこれが限界だと思うので、よくやったと思います。

 一方でニコに関しては、シンガポールGPの決勝レースでバーチャルセーフティカー(VSC)中にピットインしなかったことを反省しています。VSCの場合は通常のセーフティカー(SC)出動時ほど速度は落ちませんし、後ろとのギャップも縮まりません。あのときニコのタイムはそれほど悪くなかったですし、後ろにいた周冠宇(アルファロメオ)がピットに入らない限りはうちもニコを入れないつもりでいました。結果的にVSCが解除されてから4周くらいはうまく走れましたが、そこからタイムは落ちていってしまいました。

 あとから振り返ってみればもちろんピットインしてソフトに履き替えた方がよかったですが、VSCの時点で終盤にあそこまでハードタイヤがタレてくるということを読めたかというと、今僕たちが持っている知識や経験、数字やデータではわかりませんでした。もちろんニコは納得していなかったのでレース後に何度も話し合いましたが、レース直後の時点ではほかに説明できることがなかったので、日本GPの前にもう一度彼と話をすることにしていました。鈴鹿に来てからも話す前にニコがメッセージを送ってきて、話をした後も夜にまたメールが届き、金曜の朝には「俺が送ったラブレターを読んだ?」なんて聞いてきたんです(笑)。もちろん僕は読んだし返信もしましたけど、もう一度あの時の状況や判断をすべて説明し、そこでようやくニコは前に進むことができました。

 頑固な部分があると言えばそれまでですが、彼にとって考えていることを吐き出せる相手がいるのはいいことだと思いますし、それを受け止めるのも僕の仕事です。こちらも逃げずに一貫性を持って対応すれば彼が次に進む助けになります。金曜のあの会話で、ニコはスイッチが入ったようでした。

 鈴鹿ではFP1とFP2でふたりのタイヤの使い方を分けていて、ニコはFP1でハードタイヤを1セット使いました。FP1を終えた時点でミディアムタイヤの感触がよくなかったので、レースに向けてハードを2セット残したかったのですが、もうこの時点でニコはそれができません(ケビンはFP2もミディアムで走ることに変更したので、ハードを2セット残すことができました)。ニコが不公平に扱われたと感じるかもしれなかったので、FP2が始まる前にそのことを説明すると、彼は3ストップになるかもしれないけどそれでいいと納得してくれました。

 戦略やタイヤ選択以外にも、ニコにはもっとコミュニケーションをとるようにとも伝えました。僕たちからも話すようにしていますが、唯一わからないのは“クルマのなかでドライバーが何を感じとっているのか”です。お互いに責任を持とうということを話したら、それも受け入れてすべてこなしてくれました。

 ニコのレース戦略は予選結果(18番手)と持っているタイヤやクルマの特性を考慮して、3ストップで行くと決めました。第1スティントでピットインするタイミングについては僕もニコも同じ考えで比較的アグレッシブにいきました。第3スティントは他と比べてもすごくいいタイムを刻めていて、僕の頭のなかではこれなら2ストップでもいけるんじゃないかという考えもあったんです。鈴鹿での最大のライバルはアルファタウリで、ニコは彼らよりも前にいたので、ピットインして後ろに下がりもう一度アルファタウリの前に出ることを狙うよりも、このまま走り続けようかと考えたのです。

 ただニコに提案したら「厳しいと思う」と返ってきて、その数周後もう一度尋ねたのですがそこでもはっきりと「絶対に2ストップは無理」と返事をくれました。こういう会話もシンガポールGPより大幅によくなりました。今さらですが、やはりドライバー個人の人となりを理解したうえでリアルタイムで会話をするのがどれだけ大事かということですね。

 結局3回目のピットストップを行い、そこからアルファタウリに追いつこうしましたが、クルマの速さが足りず追いつけなかったのは仕方がないです。あれ以上速く走ろうとすればタイヤを壊すだけなので、壊さないで走るならあれくらいのペースしか出せないので負けるべくして負けました。でもすべてやり尽くしてこの結果ですし、ニコのスタートポジションを考えたらこれが最善の結果だったので、お互いに満足しています。

 またチームとしてはふたり合わせて5回のピットストップを行いましたが、そのうちの2回のタイヤ交換のタイムがトップ10に入ったのも嬉しいことです。今あるものでベストを尽くさないといけないので、鈴鹿ではそれができたと思います。先にも書いた通り14位、15位と結果には繋がりませんでしたが、やるべきことはすべてやりましたし、この2連戦でふたりとも1歩と言わず2歩くらい前に進みました。

 シンガポールでケビンが10位に入った時、実は僕はそんなに喜べなかったです。というのもガスリーとのバトルでミスがなければもう少し上の順位でフィニッシュできたかもしれないと考えていましたし、VSCでニコのタイヤ交換をしなかった事をすごく後悔したからです。しかし、チェッカーを受けた時にケビンも担当レースエンジニアもすごく喜んでいましたし、後ろを振り返ってガレージを見たらみんな大喜びでした。雨でも降らない限りクルマ以上の結果を出すのは難しいですが、常にベストを尽くして頑張っていればチャンスをものにできるといつもチームのみんなには伝えています。レースチームとして自分たちのできることを結果で示せない時というのはつらいものですが、シンガポールでやっとそれを示せたので嬉しかったです。鈴鹿ではポイントは獲れなかったものの、これ以上ないくらいオペレーションができたので「いい仕事をした」とチームのみんなには伝えました。次のカタールも難しいチャレンジになると思いますが、すべてを出し切ろうと思います。

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