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ロールス・ロイスのパラダイムシフト。ロゴやシンボルを一新する名門の挑戦を小川フミオが説く

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ロールス・ロイスのパラダイムシフト。ロゴやシンボルを一新する名門の挑戦を小川フミオが説く

グッドウッドから届いた衝撃のニュース

英ロールス・ロイス・モーター・カーズが、2020年8月25日に衝撃的な発表を行った。自分たちは、もはやモーターカーカンパニーではなく、ハウス・オブ・ラグジュリーになる、というのだ。

ロールス・ロイスのパラダイムシフト。ロゴやシンボルを一新する名門の挑戦を小川フミオが説く

自動車会社から、奢侈(しゃし)なプロダクトを広く手がけるブランドになる。この大胆な発言とともに、ロゴやシンボルである「スピリット・オブ・エクスタシー」の新しいデザインも発表された。

ブランドイメージの転換点

アナウンスは、限られた数のジャーナリストを集めてオンラインで行われた。その場で、新しいブランドデザイン担当者は、「ロールス・ロイスの購買層の平均年齢が43歳にまで若返って」いることも、今回のブランドアイデンティティ刷新の背景にあると語ってくれた。

どういうことか。ロールス・ロイスといえば、1906年創業の、世界中でほとんど知らないひとはいないといってもいい、高級ブランドである。1台5000万円を超える超高級モデルを手がけ、独自の世界観の構築に努め、そして成功してきた。一方、見逃せない動きが。それは2016年にローンチされた「ブラックバッジ」シリーズの展開だ。それと、今回のリデザインは密接な関係があるという。

「いまこそ、私たちのブランドイメージの若返りを反映するタイミングだと思います。新しい購買層の年齢、そのひとたちのライフスタイル、そしてそのひとたちが好むラグジュアリーな世界を、うまく私たちが取り込むときなのです」

ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュ最高経営責任者は上記のように語る。

若き層を誘い入れたブラックバッジ

たしかに、このところのロールス・ロイスの動きはおもしろかった。私が即座に思い出したのは、2019年の「ファントム」のプロモーションフィルムだ。従来のイメージをくつがえすような内容である。

登場したのは、グェンドリン・クリスティ。英国を中心に高い人気を集めたTVシリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」の主演女優である。クリスティがファントムをひきまわし(というかんじのドライブ)、ファントムは泥まみれになったりする。

エレガンスの対極にあるようなプレゼンテーション。これがかなり好評だったそうだ。

同時に、さきにも触れたように「ブラックバッジ」シリーズが世界的に好調なセールスを続けている。「ロールス・ロイスのオルターイゴ(もうひとつの自我)」とミュラー=エトヴェシュ最高経営責任者が定義するブラックバッジ。

米国的な表現をすると「バッド」な仕立てが、若き富裕層にオオウケなのだそうだ。ベントレーがエレガンスを守るのに対して、ロールス・ロイスはドライバーズカーの側面を、ブラックバッジで強調。それがうまく市場のニーズと噛み合ったのである。

古きよき英国フォントの香り

新しいロゴを依頼されたのは、英国のデザイン会社「ペンタグラム」だ。同社は、企業のロゴも得意としており、たとえばANAやルフトハンザが加盟する「スターアライアンス」や、米国の「ユナイテッド航空」のロゴも手がけている。

「ロールス・ロイスの伝統を意識しつつ、過剰に装飾的にならないように気をつけました」 ペンタグラムの担当者は語る。ロゴに使うため選ばれた書体は「リビエラナイツ」 英国の有名なタイポグラファー、エリック・ギルによる「ギル・サン・オルト」の流れを汲んだものだ。

書体への徹底的なこだわりは欧州的だ。エリック・ギルの「ギル・サン」書体は、1930年代の英国において、鉄道などで好まれた。それに、鉄道好きならよくご存知のはずのLNER A3形蒸気機関車4472号機、通称「フライング・スコッツマン」(1923年)の煙室ドアに掲げられていたのも、ギル・サン書体なのだ。そんなヘリテージを連想させるのも、ペンタグラムとロールス・ロイスの狙いだったのかもしれない。

小さくなった「Motor Cars」の文字

新しいロゴの大きな特徴は、大文字と小文字の組合わせだった従来と異なり、大文字だけで組んだこと。しかも、ふたつのRのハイト(高さ)は、ほかの文字より少し高い。たしかに担当者の言葉どおり、品がよい。それでいて、従来のものと比べると、ちゃんと新しい。

かつ「Motor Cars」の扱いはうんと小さくなった。理由はやはり、自動車一辺倒ではないという同社の企業戦略にのっとったものと説明される。

同時に、マリナー・ウィラー氏ひきいるペンタグラムのチームでは「スピリット・オブ・エクスタシー」のデザインも変えた。従来は彫刻をベースに図案化したものだったので、細かなシャドー表現が多かった。それに対して、新世代のフライングレディは、線が整理され、しろうとでもマネしやすい明確さを感じさせる。

“彼女”が右を向いたワケ

「もうひとつ、変えてもらったのは、姿勢です。前に進んでいく、というイメージを積極的に打ち出そうと、フライングレディ(スピリット・オブ・エクスタシーの別名)をやや前のめりにデザインしてもらいました」(ブランドイメージ担当者)

しかも、これまでは左向きだったフライングレディは、今回から右向きとなる。なぜか。タブレットをはじめスマート端末のアプリケーション開発もこれから積極的に行っていくとするロールス・ロイスの戦略ゆえだ。左上に置かれるアイコンとして、スピリット・オブ・エクスタシーは右向きが自然なのである。

ただし、ラジエーター上のマスコットはかわらない。「デジタルネイティブ(デジタル技術とともに育ってきた層)へのアピールを、スマート端末などを活用して積極的に展開していく」(ブランドイメージ担当者)ための、今回の施策なのだ。

実際にどんなアプリケーションを開発中なのか。それについてロールス・ロイスは明らかにしてくれなかった。ただし、彼らの言葉を借りると「ハウス・オブ・ラグジュアリー」(ハウス=ファッション業界でいうメゾンみたいなものか)として、クルマ以外の製品の販売から、旅を含めたあらゆる体験を提案することになりそうだ。

これからのロールス・ロイスを象徴する色

ロールス・ロイスのシグネチャーカラーも変更を受ける。こちらもなんとも大胆だ。

「従来、ロールス・ロイスを代表するカラーは、と考えると、レザー、ウッド、カーボンファイバー。なかでも伝統的には、レザーとウッドの2色がイメージされます。そこにあって、ブランドの新しい方向性を象徴するカラーは、という命題に私たちは取り組みました」

これはロールス・ロイス自身がプレスリリースで記していること。ペンタグラムを交えての討議でたどり着いた結論は、パープルである。「より表現ゆたかで、男性にも女性にも受け入れられ、ブランドの未来を感じさせるカラーはなにか」と考えた結論と、ロールス・ロイスでカラーとトリムを担当するサミ・カトラス氏は語る。

「神話性、敬虔(けいけん)さ、芸術性、それに王家もイメージさせる高貴さ。あるいは、富と力。それを表してきたのがパープルなのです。今回、私たちが決めたカラーパレットは、スピリット・オブ・エクスタシーにちなんで、パープルスピリットと名づけました」

ハウス・オブ・ラグジュアリーとして、ロールス・ロイスはどんなプロダクトを手がけていくか。あるいはクルマじたいが、どう変わっていくのか。ゴーストも近い将来、モデルチェンジを控えている。楽しみにしようではないか。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)

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