3人以上のVIPが快適に移動できる送迎車がなかった
国内の高級ミニバンと言われたとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのはトヨタのアルファード、そしてヴェルファイアではないだろうか。豪華なデザインとゆとりのある後席空間は、企業や海外から招いたVIPなどの送迎用としても人気が高い。
【試乗】いま話題の巨大ミニバン「トヨタ・グランエース」は圧巻の豪華さと驚異の取り回しがスゴイ!
けれど、そんな使用環境で悩みとなるのが、3人以上のVIPを乗せるときのこと。サードシートはほかのミニバンと比べて豪華ではあるものの、アルファード&ヴェルファイアのセカンドシートと比較すると、「あともう少しだけ」という欲が出てくる。送迎する側の立場からすれば、2列目と3列目でヒエラルキーが生まれてしまうのも好ましいことではない。近年では、国が海外からの観光客誘致を積極的に推し進め、2021年には東京オリンピックを控えていることもあり、そんな悩みに直面する場面は今後ますます増えていくだろう。
新型グランエースは、まさにそうした悩みを真正面から解決してしまうクルマと言える。新型グランエースの開発責任者を務めた石川拓生さんも、そこにこのクルマの狙いがあると語る。
「その需要はもちろん海外でも同様にあります。けれど、やはりその用途にふさわしいクルマがないんです。ある国ではハイエースを現地のローカルメーカーが改造して、それを送迎用のワゴンとして使っている場面が多く、そうしたケースは年々増えています。それらは、もちろん一定以上の安全性を確保した改造がなされてはいますが、われわれメーカーとしては、きちんと安全なシートやベルトを付けたクルマを提供したい。と同時に、日本国内には、需要があるのにそれにふさわしい上級送迎車がないという事情もある。その2点が、新型グランエースを開発した背景になっています」
新型グランエースは、海外で発売されている新型ハイエースと一部の構造を共有しつつも、乗用ユースに対応するため専用設計としており、グランエースとハイエースはまったくの別車種という考えだ。実際、日本国内では今後も現行ハイエースが継続して販売されることが決まっている。そのあたりの事情についても石川さんにうかがった。
「ハイエースの使われ方は、海外と日本とではまったく違うんです。海外では人を運ぶことがほとんど。対して日本は、モノを運ぶことが中心です。そのため、ボンネットを持つセミキャブタイプのクルマよりも、より多くのモノが積めるワンボックスのほうが適しています。また、4ナンバー(小型貨物)サイズが用意されていることも日本では不可欠です。これらの点が高く評価され、『働くクルマ』として圧倒的なご支持をいただいているハイエースを日本からなくすわけにはいきません」
「けれどそれらのメリットは、上級送迎車を開発するうえではむしろ足かせになります。そこで白羽の矢が立ったのが、海外の新型ハイエースです。日本の上級送迎車を開発するのに、もっとも適したベース車が海外のハイエースだったというわけです」
2ボックスタイプのボディであれば、エンジンと居住空間が隔壁で仕切られるため、より高い静粛性といった、さらなる快適性が期待できる。加えて、4ナンバーサイズの制約から解放された大型のボディは、2列目と3列目に同等の価値を持つ豪華なシートを設けることも可能になる。
こうしたことを理由に、日本国内では、ハイエースは現行型を継続販売、それとは別に上級送迎車として新たなモデル「グランエース」を誕生させたというわけだ。
当たり前のことをとことん追い込みひたすら愚直に開発した
これまでになかったコンセプトのクルマを、世界のVIPにも満足してもらえる完成度で作り上げる。そんな石川さんの意志の強さは、ともにプロジェクトに携わったエンジニアたちの闘志にも火を点けたのではないだろうか。最初期からの開発メンバーのひとり、山本宗平さんは次のように振り返る。
「石川CE(チーフエンジニア)のこだわりの強さには、本当に驚かされましたね。たとえば静粛性。テストコースで試作車を走らせたとき、ある特定の路面条件下で金属的なノイズが室内に響くという問題が発生したんですが、ノイズと言っても、気にならない人も多いような些細なもので、発生する条件も一般道ではそうそうないだろうという特殊なケース。実際、この程度の音がするのは普通のクルマなら当たり前じゃないかと考えるエンジニアもいました。けれど石川はそうした問題のひとつひとつについても、あきらめずにとことんまで追い込んだのです」
VIPにも満足してもらう上級送迎車というコンセプトゆえ、高い静粛性は当初からの狙いのひとつ。だが、静粛性が高くなればなるほど、小さなノイズが目立ってしまう。開発は、まさにその追いかけっこのようなものだった。そもそも大きく平らなパネル面で構成された箱型のボディは、太鼓のような構造となり、ノイズの残響音が消えにくい特性がある。
こうした小さなノイズは、一般的なミニバンなどでは、ロードノイズなどでかき消されて目立たないことも多く、「あくまでもクルマはクルマ」と割り切られることも少なくない。だが、グランエースが目指したのは、もはやクルマというよりも豪華な応接間というレベルだったのではないだろうか。
「吸音材などのさまざまな対策を施しても、なかなか石川の満足するレベルにならない。最終的にはショックアブソーバーにまで手を入れて問題解決にあたりました」(山本さん)
「静粛性の高さは、いわばハイエースとグランエースの大きな違いとなる部分のひとつ。どうしてもこだわりたかったところなんです。じつはアブソーバーについては、グランエース専用、つまり日本専用の仕様になっています。日本のお客さまの要望は海外よりも高い傾向にありますが、そこに応えたいという気持ちもありました」(石川さん)
とてつもない苦労で解決した問題だが、おそらく新型グランエースに乗った方は、その苦労に気付かないまま降りることになるだろう。気が付くのは、別のクルマに乗ったとき。一般的なクルマと比べて初めてグランエースの静粛性の特別さに気が付くのだ。
「新型グランエースは、既存の技術を地味にコツコツ積み上げ、既存以上の快適性や乗り心地を目指したクルマです。われわれがやったのはとにかく愚直に取り組むこと。当たり前のことをとことんまで追い込んで作り上げるという開発でした」(石川さん)
チーム一丸で目指したのはバランスの高い完成度
当たり前のことを当たり前以上の熱意で取り組む。そんな開発は、トヨタ車体のメンバーにとっては、これまでにやりたいと考えて温め続けてきたさまざまなアイディアを生かすチャンスにもなったという。
「一般的なクルマよりもずっと大きなサイズで、しかも箱型。乗降性のために開口部も大きい。つまり、ボディのねじれやすい要素がたくさん揃っているクルマなんです。丸く作れば解決できることもたくさんありますが、今回はそこに逃げずに取り組みました。たとえばサイドメンバーですが、一般的なクルマなら、部品などの配置の都合でまっすぐ通せない部分も、極限までまっすぐに作ってあります。そのおかげでクルマの素性そのもののランクが格段に上がっています」
サイドメンバーをまっすぐに通す。それは簡単そうに聞こえるが、その実、きわめて難しいことのひとつ。2019年に発売された新型スープラでも、太くストレートに通した骨格によりボディ剛性を高めたことが話題になったが、「走り」という絶対命題のもとで「割り切り」しやすいスポーツカーと新型グランエースとでは事情が違う。
居住空間の確保や、乗り心地の快適性、静粛性など、全方位で高いレベルが求められるクルマは「割り切る」ことが難しく、とてつもない苦労があったことは想像に難くない。製品企画の立場から、プロジェクトに携わった秋田基行さんは次のように語る。
「確かに難しいクルマづくりでした。けれど、大きな四角いクルマというのは、われわれトヨタ車体がもっとも得意としている分野。持てる力をすべて結集すれば絶対に実現できるという確信はありました。開発で心がけたのは、部署の垣根を取り払って目標に向かうこと。それは、特定の領域だけが飛び抜けた性能を出すのではなく、全体がいいバランスを保ちながら高い次元を目指すために必要だったことです」
「開発メンバーが試作車に乗れる機会をほかの車種開発のときよりも格段に増やし、乗る顔ぶれの幅も広げました。なにか課題が見つかったときでも、すべての領域のメンバーが一丸となって解決に当たれる、そんな雰囲気のもとで取り組んできたんです」
インタビューの最後に、石川さんから面白いエピソードを聞かせていただいた。それは車両のコンセプトと概要がほぼ決まった段階での話。豊田社長も同席した重役へのプレゼンの場面で、石川さんはボディサイズをわかりやすく伝えるために、平面値の寸法はトヨタ・センチュリーとほぼ同じであることを説明した。それを聞いた豊田社長は、「そうだ。新型グランエースは、ミニバンのセンチュリーを目指そう」と答えたという。
「その瞬間、目指すハードルが一気に上がった感じがしましたが、コンセプトを磨き上げていくうえでとても重要なヒントにもなりました」(石川さん)
当たり前のことを徹底的に突き詰め、その苦労を相手に感じさせることなく快適さに浸ってもらう。それはまさに、日本が世界に誇る文化のひとつである「おもてなし」の精神と同じもの。新型グランエースは、これから増えるであろう多くの海外VIPたちを、その精神とともに安全・快適に目的地へと送り届けることだろう。
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