ドイツの国民車として誕生しながら、それこそ世界のベイシックカーのひとつとして2000万台以上を送り出したVWビートルは、いまでも半分趣味のクルマとして人気が高い。ここではVWの稀少モデルを紹介しよう。
文、写真/いのうえ・こーいち、撮影協力/FLAT4
内装の質感にビビる!! 生産はわずか数百台のみ! ビートルのオシャレ番長モデルの「ヘブミューラー」
■カロッセリーメイドのボディ
VW ビートル「ヘブミューラー」カブリオレ
VWカルマン・ギアはよく知られる人気モデル、イタリアのカロッツェリア・ギアのデザインしたボディを、ドイツのカルマン社が制作しというもの。そのベースとしてVWビートルのエンジン、シャシーなどが用いられ、VWのモデルのひとつとして発売された。
VWビートルが人気だった理由のひとつに、シンプルで長持ちした、と書いた。シンプルということは、汎用性が高いというもうひとつの特徴をも生み出している。
リアに空冷水平対向エンジンを搭載し、後輪を駆動するレイアウト。センターにバックボーンを持つフロアパンはそのままいかようにも利用できる。つまり、自由にボディを架装してヴァリエイションを拡大することが簡単にできる、というわけだ。
VWビートルが登場して間もなくカブリオレ・モデルがつくられるのだが、カルマン社は規模を拡大して、のちのちまでVWビートル・カブリオレを量産していたことでも知られる。
■2タイプのカブリオレ
VW ビートル「ヘブミューラー」カブリオレ。ヘブミューラーはボディ架装を行っていたメーカー
こん回紹介するのは、カルマン社製カブリオレからすれば、もうひとつのカブリオレ、というようなもの。旧くは1945年にスタートしたというVWビートルだが、その生産体制が整ったところで、最初のヴァリエイションとしてふたつのカブリオレ・モデルが登場してきた。
1949年という時期は、その年の10月に返還されるまで、フォルクスワーゲン社は英国軍の管理下にあって、その指導のもとにVW生産がはじめられていた。ドイツ返還を先取りして、モデル追加の計画を進めたのだろうか。
その新モデルというのが2タイプのカブリオレ。ひとつはのちのちまでつづけられるカルマン社製のカブリオレの最初のモデルとなったもの。それは4座で、畳み込んでも後方視界を邪魔するほどの、大きなトップが特徴であった。
そしてもうひとつが、ヘブミューラー社に依頼された2座のカブリオレ、であった。
イタリアではカロッツェリアだが、ドイツではカロッセリーと呼ぶ。ボディ架装メーカーであるカロッセリー・ヘブミューラーのエンブレムをつけたカブリオレは、カルマン製と較べるとずっと軽やか、スポーティな印象を持つものであった。
■Typ14の名前の示すもの
内外装の上質感が「ヘブミューラー」の売りのひとつだった
基本、中身はVWビートルだから、空冷1.1L、25PSエンジン搭載の2座カブリオレ。スタイリングとボディ内外のつくりが「ヘブミューラー」の売りものであった。ビートルの1.5倍のプライスタグは、その念の入れようを示しているもののようだった。
2000台が発注されていたのだが、当のヘブミューラー社は生産に掛かって間なしに大火に見舞われてしまう。おかげで、750台ともホンの数百台しか生産できなかった、ともいわれ、のちのち希少なカブリオレ、幻のモデル、などといわれたりするのである。
ところで、VWビートルはTyp1と呼ばれる。英語ではTypeのドイツ語がTypで、Typ1がビートル一族、ちなみにヴァンやマイクロバスはTyp2である。そのTyp1のなかでも、いわゆるビートルはTyp11、その派生モデルとしてカルマン社製カブリオレはTyp15、「ヘブミューラー」はTyp14とされた。
つまり4座と2座で区別されたのである。で、前出、カルマン・ギアがそのTyp14を引継いでいるのは、2座クーペ/カブリオレである、ということを示す。いかにもドイツらしいナンバリングではないだろうか。
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