2年ぶりの開催となったF1アゼルバイジャンGP。前戦モナコGPに続く市街地サーキットでは、予選から赤旗が続出するも、決勝レース序盤は大きなアクシデントもなく進んでいった。ところがタイトルを争うルイス・ハミルトン(メルセデス)は、タイヤ交換を終えた時点でレッドブル・ホンダと大きくギャップが開いてしまった。レース前半を無線とともに振り返る。
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エネルギー管理の難しいバクーで「高い戦闘力を発揮できた」新世代PUの進化を実感/ホンダ本橋CEインタビュー
毎年波乱の展開となるアゼルバイジャンGPだが、2年ぶりに開催された今年の荒れっぷりは尋常ではなかった。前日の予選で4回もの赤旗が出たことにも大いに驚かされたが、それは単なる序章に過ぎなかった。そう感じてしまうほどに、決勝レースは荒れに荒れた。
それでもレース序盤は、スタートでいくつか順位の変動はあったものの、大きな接触事故もなく、比較的平穏に進んでいった。しかし2周目、11番手走行中のエステバン・オコン(アルピーヌ)が悲痛な叫びを上げ、担当エンジニアのジョシュ・ペケットが必死になだめた。
オコン:パワーがない。全開で踏んでるのに、ダメだ
ペケット:ボックス。残念だが、おしまいだ
オコン:リヤでドカンと来た。エキゾースト辺りで。何だったんだろう。申し訳ない
ペケット:君のせいじゃない
オコンは序盤3周目で、早々にリタイア。その時点でルイス・ハミルトン(メルセデス)は、ポールシッターのシャルル・ルクレール(フェラーリ)を抜いていた。しかしペースが伸び悩んでいることを、レッドブル陣営に見抜かれていた。
ジャンピエロ・ランビアーゼ:マックス、ハミルトンはマシンバランスに手こずっているぞ
一方、フェルスタッペンにもかわされて3番手に後退したルクレールは、被害を最小限に抑えようとしていた。
ルクレール:これからどうする?
マルコス・ペドロス:プランAで行く。コース復帰で、キミ(・ライコネン)の前に出る
プランAは第1スティントを短めに刻む作戦だったのだろう。上位勢ではかなり早めの9周目にピットに向かったルクレールは、計画通りライコネンの前、9番手のコース復帰に成功した。
初めてQ3に進出し、自己ベストの7番グリッドからスタートした角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)は、1周目にフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)にかわされる。さらに背後からはセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)が迫っていた。担当エンジニアのマッティア・スピニからそれを指摘された角田は、今回もついキレてしまった。
スピニ:ユウキ、もっとタイヤを攻めるんだ。いい感じだ。プッシュし続けて、ベッテルとの差を広げるんだ。全開でプッシュしろ
角田:またかよ。黙れ!
“Shut up”という言い方は、それだけ取ればかなりキツイ表現だ。しかし前後のやり取りは公表されておらず、ここだけ切り取って判断するのはフェアではあるまい。
11周目、暫定首位のハミルトンがピットイン。次周にフェルスタッペン、2周後にペレスが次々に後を追った。首位からの3番手への後退は覚悟していただろうが、コース復帰後の彼我の差に明らかにショックを受けていた。
ハミルトン:なんで敵は、あんなに前なんだ?
ボニントン:ピットが長かったんだ
ピットレーンの混雑でタイヤ交換に4秒6を費やしたこと、そしてピット前のラップタイムもレッドブル2台に比べペースが落ちていた。そしてチームメイトのボッタスも、苦しい戦いを強いられていた。22周目の時点で10番手。トップ争いにまったく絡めず、ハミルトンの援護射撃ができない。一方フェルスタッペンとペレスは、1-2体制を築いている。ここでも去年までのレッドブル・ホンダとの立場が、完全に逆転していた。
ここで担当エンジニアのリカルド・モスコー二から、こんな無線が飛んだ。
モスコーニ:P5を狙えるぞ
確かに6番手ルクレールから10番手ボッタスまでは、ほぼ団子状態だった。しかしハードタイヤスタートの5番手ランス・ストロール(アストンマーティン)がピットインして順位を落としても、ランド・ノリス(マクラーレン)、角田、ベッテル、ルクレールを抜かなければ5番手には届かない。無理を承知で、ボッタスを励ましたということだろう。
だがその後のボッタスはペースが伸びず、すぐ前のノリスさえ抜きあぐねた。これにはモスコーニも、こう言わざるをえなかった。
モスコーニ:ベストでも9位か10位だ
結果的にボッタスは、12位完走が精一杯だった。一方、追われる立場のノリスも、表彰台に上った前戦モナコほどの勢いはない。ハードタイヤのペースも今ひとつだったノリスは、グレイニングを気にしていた。すると担当エンジニアのウィル・ジョセフは、やはりタイヤに苦しんだ第3戦ポルトガルGPと同様、今井弘エンジニアの名前を出してノリスを励ました。
ジョセフ:ヒロシが(グレイニングは)消えるから大丈夫と言っているぞ
後半30周目、スタートからノンストップで4番手まで順位を上げていたストロールが、突然のタイヤバーストで壁に激突。リタイアを喫した。
ストロール:わお、何てことだ……。パンクだ……。ピットに戻るよ
ジョイス:ダメだ、ランス。エンジンを切れ。エンジンオフだ
マシンが大破していながら、ピットに戻ると主張する無念のストロール。これが大波乱の幕開けだった。
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(2)に続く
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