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ボルボが「究極」のシミュレーターを公開。小川フミオがその秘密兵器を解説する

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ボルボが「究極」のシミュレーターを公開。小川フミオがその秘密兵器を解説する

これからも「安全のボルボ」たるために

ボルボ・カーズ(ボルボ本社)が、2020年11月18日に、世界中のジャーナリストを対象に「究極のドライビングシミュレーター」技術を公開した。これもある意味、スーパーカーっていっていいかもしれない。いざというとき、生命を守ってくれるという意味で。

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正義の味方スーパーマンならぬ、スーパーカー。どんなクルマを開発しようとしているのか。ふだんは接することが出来ない舞台裏が、オープンイノベーションアリーナからライブストリーミングされたイベントで少し明らかに。

テスターはスーツ型デバイスを着用

そこで発見した秘密兵器は、スウェーデン西海岸ヨーテボリのボルボ・カーズが持つドライビングシミュレーター。ボルボのエンジニアは、さらに「究極の」とつけ加えている。

そのワケはというと、「実際の道路で実際のクルマを運転」するからだそうだ。コンピューターの画面で見せてくれたのは、特殊な(複合現実)ヘッドセットと全身スーツ型デバイスに身を包んだテスターによる、これまで見たことないテスト風景。

「ボルボ・カーズのエンジニアは、実車を使用しながら、実際のテストコースの道路上でさまざまな交通シナリオを際限なくシミュレートすることができ」ると説明された。

仮想現実から複合現実へ

このオンライン記者発表でボルボ・カーズが強調したのは、「複合現実ヘッドセットを装着したまま実車の運転を可能にした最初の自動車メーカー」となったこと。いままでは、VR(仮想現実)ヘッドセットで、立体的な体験が出来るとはいえ、室内のコンピューターの前から離れることは出来なかった。

ボルボが開発したのは、VRからさらに進んだMR。ミクストリアリティの略で、現実世界にあるモノをコンピューターが把握し、それらにデジタル映像を重ね合わせる。VR以上に、リアルに近いシミュレーションが出来るのが特徴だ。

私たちにとってのメリットは、リアルな環境で本物の人間の反応を研究することができること。そのため、従来以上に安全性の研究が進められ、結果として、より安全なクルマが出来上がる。ここが要チェックポイント。

現実世界に飛び出す“架空の”トナカイ

仮想現実(バーチャルリアリティ)は、あるていど知られた技術だ。特殊なVR用ゴーグルをかけて機械の前に座ると、立体的に眼の前に画像が展開するのを見ることが出来る。自動車設計あるいはデザインの現場では、当たり前になったテクノロジーでもある。

複合現実を使うと、どうなるか。

実際に見せてもらった映像では、MRグラスをかけたテスターが一般道に見立てたテストコースを走り出す。するとMRゴーグルのなかで、トナカイが飛び出してきた場面が登場する。

つぎは、正面から対向車が突っ込んでくる。実際の道路を見ている一方で、トナカイや車線逸脱の車両など仮想現実が挿入される。その際、運転者がどう反応するか。テスラスーツが動きを記録してくれる。

ゲーマーもうらやむテスト環境

実験結果は、MRグラスをかけたひとの個人的な印象にとどめてはいない。データ化して開発スタッフ全員が情報をシェアしないといけないのだ。これはどの業界でも共通の認識。

そこでボルボ・カーズが使うのは、 VRテクノロジーズ社の最新のリアルタイム 3Dソフトウェア「ユニティ」と、VRエレクトロニクス社の全身触覚スーツ「テスラスーツ」。それをボルボ・カーズがバリョ社と共同開発したMR用の「Varjo XR-1 Developer Edition」ヘッドセットと組み合わせる。

これによって、「どんな本格的なゲーマーも嫉妬するでしょう」とボルボ・カーズがユーモアをこめて紹介するシミュレーションが出来るように。バーチャル及びミクストリアリティ技術で知られるフィンランドのバリョが手がけたシミュレーターには、現実に酷似した高精細3Dグラフィックスが映し出され、それを拡張現実感を生み出すヘッドセットで体験する。

しかも、仮想世界からの触覚フィードバックを提供する全身スーツ型デバイス、テスラスーツ装着なのだ。たしかに「これでゲームやったら最高でしょう」というボルボの開発者の言葉に納得。アクティブセーフティ、運転支援機能、今後の自動運転ユーザーインターフェース、さらに将来の新型車など、さまざまなシチュエーションを設定できるのが、最大の強みという。

コストと時間も大幅に圧縮

「Varjo、Unity、Teslasuitのような素晴らしい技術と協力することで、物理的に何も作らなくても、見た目も感触も完全に本物のような多くのシナリオを、テストすることができるようになります。これにより、実際のクルマを、見た目も感触もリアルでありながら、ボタンを押すだけで調整できるような交通状況下でテストすることができます」

今回のオープンイノベーションアリーナにおけるユーザーエクスペリエンス担当シニアリーダーであり、ジャーナリスト向けライブストリームの主催者の一人である、ボルボ・カーズのキャスパー・ウィックマン氏は上記のように述べている。

「実際のテストにかかる費用を何分の一かに抑えることができます」というのも、今回ボルボ・カーズが繰り返し強調していたこと。

たしかに、ボルボ・カーズはこれまで、折りに触れて、自社内のテスト場でのクラッシュテストの様子などを見せてくれた一方で、テストの実施から記録そしてデータ解析まで、膨大なコストと時間がかかると、以前から語っていた。

実際には、ボルボ・カーズ・セーフティセンターでは、1年間に300回以上の衝突テストを実施。さらに、何千回にも及ぶコンピューターシミュレーションが行われていると、ボルボではしている。そのコストが抑えられ、より正確で活用範囲の広いデータが得られるようになるなら、今回のドライビングシミュレーターは大きな福音となるだろう。

事故の予防だけでなく事故“後”さえ想定

とはいえ、物理的な検証も大事なようだ。いい例が、2020年11月13日にボルボ・カーズの日本法人が出したプレスリリースで紹介されている、新車を30メートルの高さから落下させたクラッシュテストだ。目的は「最も過酷な衝突時に発生する状況を再現するため」という。

「超高速での単独事故、高速でのトラックへの追突事故や側面からの激しい衝突事故など、非常に過酷な衝突事故を想定した場合の車体の損傷を十分に再現することができました」。ボルボ・カーズはそう発表。乗員を車内においてのテストというのが驚き。

もっともこれはヨーテボリのレスキューチームの訓練もかねてのことだそう。事故発生後1時間以内に患者を救出して病院に運ばなければ重症化するといわれているため、クラッシュの後、できるだけ早く車内から乗員を救出し、病院に搬送することが重要。この救助チームと、新車で訓練に協力しているボルボ・カーズの専門チームこそ、本当のスーパーマンかも。

かつて、ボルボ本社で安全研究の取材をしたとき、「安全に終わりはないです」と担当者が語っていた。私たちに出来ることは、できるだけ事故を起こさない運転を心がけることであるものの、安全を重視しているメーカー(いまはすべてのメーカーが重視しているだろうけれど)こそ、大事なパートナーになってくれるはず。

REPORT/小川フミオ(Fumio OGAWA)

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